見出し画像

The Missing Link。

Introduction

こないだ、SNS上の某ギターコミュニティで1994年に買ったギターの話を書いたら、「そのギターの話より94年が30年前だってことにショック受けるよ」ってコメントが来て、確かになあ、なんて。

今年は2024年。4のつく年はムスタング生誕から何年…ということを考えてしまう人はほぼいないと思いますけど(笑:1954年生まれのストラトはやたらと言われてますけどね)、1964年に誕生したムスタングも今年でついに還暦。ヴィンテージとしての価値もずいぶん上がりました。今はもう簡単には手を出せないなあ。

ヴィンテージギターのくくりで語れば、フェンダーギターは、いわゆる「Pre CBS」というカテゴリーがあって、1965年にCBSに買収される以前のギターはワンランク上の評価を受けています。このPre CBS期末期に登場したムスタングも64年、65年の途中まではCBS以降と違うスペックを持ち、別の評価を受けています。ただ。日本においては、Charさんがいつの時期の何色を使っているかが優先するので、若干ギターそのものの評価と人気がずれているかもしれません。

The Missing Link

そんなムスタングですが、何度かの変遷を経て、82年にディスコンになります。現在の記録上では、フェンダージャパンが1986年にリリースするまで、4年間はムスタングというギターが歴史から姿を消していたことになっています。

しかし、前回の記事に書いたとおり、ムスタングは84年にも登場しています。「ムスタング20周年記念」はきちんと謳われているのですが、公式に発表された文献には一切語られていません。4年間のミッシングリンク。前回のポストから1年あまりにわたってあれこれリサーチしていたのですが、いつもの生き字引M氏に最初に聞けばよかった(笑)。灯台下暗し。無事に資料が発見できました。

Fenderian

80年代当時、代理店だった山野楽器の海外事業部が企画・編集・発行を行い、制作をセキ企画というところが行ってリリースされていた「Fenderian」というフリーペーパーがあります。最初はFenderian名義で80年11月に冊子形式で登場し、しばらくの休止を経て83年11月にFenderian Timesとして復活しています。

Fenderian Vol.1の表紙。
Fenderian Times Vol.6

販促用のフリーペーパーやカタログは、当時のわれわれのような中高生には貴重な情報源であり、欲しいギターの写真を飽きることなく見つめる対象でもあり、楽器屋に行ったらまずカタログもらって…みたいなのがお決まりの流れでした。今みたいにネットで簡単に情報やスペックが拾える時代じゃなかったから本当に貴重な存在だったのです。

で。このVol.6のトップ記事のタイトルに着目してほしいのです。「大発見!アーリーアニバーサリー」。もうこのタイトルからしておかしい。アニバーサリーストラトって「25周年記念」ですからね。つまり、リリースされたのは1979年。このフリーペーパーは1983年11月発行となっているので、限定リリース(9999本)のアニバーサリーが4年経ってもまだ在庫があったということを示しています。当時のフェンダーが苦しかったであろうことを推測できますね。記事の内容は、発見された在庫を確保したこと、新たに(??)キャンディアップルレッドの個体も出ること(もともとアニバーサリーはシルバーホワイトとメタリックシルバーだった)が記載されています。うーむ。

Anniversary Mustang??

そして。ムスタングの登場。フェンダリアンタイムズのVol.7に登場しています。トップ記事のタイトルも「ムスタング復活!」

Fenderian Times Vol.7

よく見ると83年2月1日発行となっていますが、Vol.6が83年11月発行なので誤植ですね。記事の内容は「今から6,7年前にすごくブームだった」ムスタングというギターがある。Charやトッドラングレンの使用を挙げながら、20歳の記念に限定で復活、と。Charさんのインタビューもあるのですが、中身はほぼCharさんのキャリア紹介でムスタングについてはほとんど語られていないという(笑)。当時のカラー広告は前回の記事のものに加えもうひとつ。Charさんのアルバムジャケットがアピールしていますね。

広告Version1
広告Version3

この広告面白いんですよ。「アームの使い方の難しさ 微妙なチューニング 弾きこなすには苦労する」…全然ムスタングをほめていない(笑)。わりとCharさんフィーチャーの部分もあり、「Mustang Sound Sample」としてCharさんのセッティング例が紹介されています。「ムスタングサウンドの典型といえば竹中尚人ことChar。 彼の高度なテクニックが、そのサウンドの要な訳だが、セッティングも1つの参考になるハズ、エフェクターをあまりつかわないChar、下の様なセッティングが良い様だ」――ワウより先にオーバードライブがあるところがね、当時の感じをちょっと出してますけど。Vintage WhiteとCompetitonというカラーリングでレッドとブルーはCompetition CAR、Competition LPBという表記になっているようです。

Specifications

BODY
Cutaway design
Exclusive Fender "off set" contoured waist body design
Laminated pick guard
2 strap buttons
Heavily-chromed hardware throughout
NECK
Detachable hard rock maple Fast-action design
Completely adjustable trussrod
Molded nut with custom hand-filed string notches
24-inch scale
22 nickel-silver frets
10 simulated pearl dot inlaid position markers
10 side dot position markers
6 individual machine heads
Exclusive Fender head design
BRIDGE
Exclusive Fender floating bridge 2-way adjustable design
6 individually adjustable bridge sections
Removable bridge cover
PICKUPS
2 adjustable and grounded high-fidelity pickups
6 pole pieces on each pickup
SPECIAL EFFECTS AND CONTROLS
Two 3-position pickup and tone slide switches
Patented Fender dynamic tremolo with removable arm
Master volume control
Master tone control

見た目上はコンターボディでスイッチも黒、ふたつのストリングガイドを持つ70年代スペックのボディながら、ボリュームノブなどは昔のスタイルという、よく言えばハイブリッドなスペックで、さしずめ帰ってきたウルトラマン的な――ちょっと初代と違うけど、まあみんな気づかないか的なにおいを感じたりします^^。それは当然スラブボディとかはもうないからですね。上のくだりのとおり、少なからず在庫処分的な事情がうまく作用して復活が果たされたという感じなのでしょうか。真相やいかに。ともあれ、これで長年の謎が解決。スタンバイされてはいたものの、Charさんが実際に使っていた感じはないんですけど、こんだけ広告に登場してればね^^。当時の事情を考えれば、フェンダーが苦境に立ち、山野楽器がなんとかしようとしていたとすればこの流れもうなずけるのですが、山野楽器が手を放した今となってはこの話は忘れられるべき歴史なのかもしれません。当然オフィシャルフェンダーやギター雑誌がこの話を語ることはきっとないでしょうから、失われた歴史として、そんな話もあったのかくらいに読んでください^^。

Competition LPB model

なんとカタログでも掲載されていないレイクプラシッドブルーモデルの写真を提供いただきました。

色味はバーガンディに見えなくもないけど、バーストがかかっていませんよね。ジャパフェンで言うジュエルブルーにも見えます。パールガードやノブは70年代前半以来の登場。ポットは78年、ネックプレートにはなんとBから始まるシリアル?ナンバー。すごく重い個体だったそうで、だとするとディスコン当時のアッシュボディ。なかなかに現物があっても謎の多いアニバーサリームスタング。工場に行って使えるパーツ探して作ったんじゃないか的な想像をしてしまいますが…引き続き情報お待ちしております!


Special Thanks:
Mr. No. N Matsunaga
Mr. Kintaro Hirai



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?