ギターデザイナー。
ギターを弾き始めたきっかけが「ブレイク後のアリス」なので、ギター=モーリス、という刷り込みでスタートしています。
およそ45年前。当時はニューミュージック黎明期。アコースティックギターを抱えた人が多かった。音楽雑誌では広告的にだったんでしょうけど、ヤマハかモーリス抱えたアーティストが多かった。まだドルの強い頃だから海外ものは素人には高嶺の花で、つまり海外ものに行く人は本気でプロを目指している人たち、という印象。実際にはそんな人がアマチュアにいるのかさえ知らなかった。何も知らない田舎の中学生でした。アリスのモーリスかさだまさしのヤマハか、みたいなレベル。
1983年。高2になって。アルフィーがブレイクした。無言劇くらいから知ってはいたけど、本格的に聴き始めたのはメリアンからですね。途中でアコースティックのソロが入るでしょ。あれをやらないといけない!みたいな(笑)。以来坂崎幸之助神、みたいな感じになっていくわけですけど、テレビに出てくるときは最初タカミネで。いまいちデザインが…なんて思ってるところに出て来たのがヤマハのエレアコ。当時の最新機CWE。これに憧れて。買えるわけないんですよ。すぐに諦めました。定価が40万くらいだった。ため息つくだけ。到来した円高で当時はマーティンよりも高かった(笑)。
このモデルは結局その価格が災いしてか、短命に終わって、87年だったかな、後継機種がでた。今でも残っているAPXというモデル。これの初期モデルが10万円で出るというので飛びついた。その前の機種は開発にそれだけかかったから値段も高かったんでしょうね。おそらく回収出来なかったのを後継機で、みたいな…知りませんけど。でもこっちは爆発的に売れたと思います。回収できたのでは(笑)。でもね、最初のは音が良くなくて。セカンド、サードとマイナーチェンジして音が驚くほど良くなりました。今のモデルはもはや別物です^ ^。
そのAPXを買った頃、ヤマハが購入特典で小冊子を配っていた。僕も買った時にお店の人に「はいこれあげるよ」ってもらって。それが上の写真にある「ACOUSTIC ON MY MIND」という冊子。
テリー中本という人がデザインしてきた特注のアーティストモデルを紹介している冊子です。
これを読むまで、オーダーメイドは見た目だけかと思っていたけど、弾きやすさとか音とか細かくこだわってやってるんだと知って。だから既製品買っても本人と同じになるわけがないんですよね。上に書いたように「こんな音じゃねえな」って思ってその楽器屋に行ったら、同じことを思ってたらしい人が手紙(時代ですね)をお店に送って来たのか?それが貼ってあって。「石川鷹彦さんの音聞いて同じギター買ったのに同じ音じゃない」って。それに対して「石川さんのは石川さんのオーダーで音をいじっているから同じ音はしません」って書いてあってそうかーなんて。
ギターデザイナーという仕事があるというのも初めて知りました。手工品を自分が手にするようになって、製作者の存在を意識するんだけど、始めは工業製品を買っている感覚ですよね。デザイナーとかビルダーという人たちが何をどうしようとしているのか、考えたこともありませんでした。
この冊子を読んで、アーティストの音や演奏に対するこだわり、そして作る側の意図、そういうものを初めて知って。でもそれで思ったのは「ヤマハはすごい」くらいだったかな。やっぱり自分がそういう高いギターを持つということが想像できなかったからですね。
テリーさんはその後しばらくしてヤマハをやめ、自分のブランド、テリーズテリーを立ち上げます。アコギ好きには超有名なブランド。そこから坂崎神と組んだTSKとかテリーズカジュアルとかいくつかのバリエーションブランドも含めて、バックオーダー何年待ち、みたいな大成功ブランドになりました。ていうか最初からそうでした^ ^。僕はもう怖くて手を出さなかった^ ^。友だちで持ってる人もいるけど、弾かせてもらったこともない…はず…たぶん。弾いたら欲しくなるからね(笑)。
テリーさんのすごさの証明でもあるけど、この冊子にさえ高値がついてるんですね。怖くなる^ ^。今日、そのテリーさんの訃報を知りました。今うちにあるヤマハのギターは3本。L-51、CJ-8XE、そしてCWE-58。テリーさんの在籍している時には「designed by Terry Nakamoto」だったかな、皮のラベルがボディの中に貼ってあるんです。僕のはCWEにしかそのラベルはないけど、最初の2本も、彼のデザインによる、カスタム四天王と呼ばれた初期のオーダーモデルの流れを汲んでいる機種なので、実質すべて彼のデザインと言っても過言ではない。
日本中に僕みたいな、いや僕よりもっと拗らせているアコギマニア、ヤマハマニアがいて、その人たちにとって、本当に大きな存在だったと思います。残念ながらひとつの歴史が幕を下ろしました。テリーさんのご冥福をお祈りします。