人生を最高に旅しよう!テトペッテンソンを口ずさみながら。
誰にもいえない恋は異動フラグで終わりの予感。お互いに好きって言わない暗黙のルールを破った翌日。君から「異動するかも」ってメール。もうすぐ君と出会って一年。異動が正式に決まったと聞かされた時、外ではチョコレートも溶けるくらい温かい雨が降った。更新される季節はリールを巻くように戻すことは出来ない。新しい季節がやってきて、透き通る冷たい冬と柔らかな君が去ってゆく。
★
テトペッテンソン テトペッテンソン♪
君との出会いが
悲しい思い出にならないように
君が教えてくれたこの風変わりな歌を
口ずさんでみる
パラトゥタッティ パラトゥタッティ♪
僕たちは流浪の民なんだ
ずっと側にいられないことは
出会った時から織り込み済みだったろ
どんなに素晴らしく美しい物語も
終わりがなければ駄作なんだ
リンシュレカットン シュレリンベットン♪
人生を最高に旅しようって
君にそう言ってはみたものの
タットレペッテンソン♪
本当は自分に言い聞かせてる気がした
★
実感がなくて普通にbye-byeしたけど
スクイーザーでグレープフルーツを搾るように、きっと後から胸を締め付けるんだ
それをウォッカに注いで
ソルティードックにしよう
タンブラーの淵には涙のように
しょっぱい塩を忘れずに
君の旅立ちに乾杯しよう
君ならきっと大丈夫
君ならきっとうまくやれる
★
君は新興企業のキャリアウーマンで転勤族。そして沖縄の女(ひと)だった。話していると外国人と思うくらい文化が違う。君はまるで日本語の通じる外国人という感じだった。話は通じるけど、島の言葉で話されると僕は首をかしげて苦笑いするしかなかった。海に囲まれた島では北極星が島人の大切な目印だった。君が歌う「てぃんさぐぬ花」にも北極星は目印と歌われている。夜に生きる君に(夕方から深夜帯勤務だった)冗談で僕は「君の太陽になれない」って言ったら、「太陽になれないなら北極星になって」と言われたことがある。その後で君は急に恥ずかしくなったと言ったけど、君がこの地にいる間だけでも僕は君の北極星になれたらと密かに誓いを立てた。だけど僕には帰らなければならない場所があった。君が辛い時にそばにいてやれない時、とてももどかしい思いがした。そんな時、僕は君の北極星になれるのかと何度も自問した。
★
運命なんて僕は信じていない。仮に運命があったとして、皆が決められた人生を生きることになったとしたら、そこに何の意味があるのだろうか?録画したサッカーのワールドカップ決勝を見るのと同じくらい人生は意味のないものになってしまう。運命は意味の後付けでしかないというのが僕の意見だ。
僕は君と偶然出会って、偶然相性がよくて、偶然君に寄り添う事ができた。でも僕は偶然を運命に変える出会いを経験した。何でもなかった出会いに運命の意味付けを与えてくれたのは君の優しさだったり、絶妙な距離感だったり、相手に対するお互いの尊敬だったり、君と僕の間で流れているリズムや譲れない哲学やユーモアのセンスの近さだった。そして、何よりも深く意味を与えてくれたのは、どうしようもない僕を心から愛してくれたことだった。
★
君が旅立つ前に少し話が出来た。
「出会った時のことは覚えてるよ」
「私はあなたに支えてもらって、私もあなたを支えてあげることが出来て嬉しく思います」
「北極星がいたから、私は途中で挫折したり腐ったりする事なくここまで来れました」
★
僕は君の静かでどこまでも深い夜に燦々と輝く北極星になれたんだ。そう思ったら、何だか泣けてきて言葉に詰まってしまった。
僕は運命を信じていない。だけど今なら運命を感じる事が出来る。