マインクラフト、相対性の世界、キリマンジャロ
僕は、もがいていた。今もそれにあまり変わりはないが考え方が変わった。それはリチャードバック・ジョナサンに出会ったからだ。それ以来、今の状況を楽しんでいたり出来るようになった。
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ある時、リチャードバック•ジョナサンはこう言った。
「おいおい、まさか幸せになりたいと願ってるんじゃないだろうね?」
「だいたい、君は願い方が雑なんだよ。神様はそんな曖昧なお願いなんて聞いてる暇はないんだ。」
「それにね、幸せになりたいって考えは「今、自分が幸せじゃない」って思ってるからそう考えるんだろ?」
「思考を支える「思考」の方が宇宙に発するメッセージはとても強力なんだ。」
「神様は君の願いを忠実に叶えてるんだ。つまり幸せになりたい状態の不幸せな君をずっと後押ししている。」
「うまくいってないって思うなら、よく自分の考えを見つめ直してみるといいだろう。」
「あとお金持ちになりたいって願いも曖昧だからやめておけ。神社でお願いしても叶わないよ。」
「でも100万円を稼ぐって願いは叶うよ。それは叶うまでの時間の問題だけだ。それにそれはもう願いですらない、それは決意だ。」
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ジョナサンはそういうと僕の側でスマホを取り出してゲームを始めた。足跡の音とゾンビの息遣いが聞こえる。マインクラフトだ。
「君はマインクラフトやったことがあるかい?めちゃくちゃ面白いよな!何で面白いか考えたことあるか?あれは何も持ってない状態から始めるから面白いんだ。ある時、俺はあのゲームで地底深く冒険をしていたんだ。」
ジョナサンはコーヒーをすすりながら続けた。
「ゾンビを薙ぎ倒し、クモを払い、数少ない材料でツルハシや足場を作って、ダイヤモンド鉱石の地点までたどり着いたんだ。目の前には砂岩があった。焦る気持ちを抑えつつ前に進むためにツルハシを入れた。すると上から土砂崩れを起こして死んでしまった。マイクラは死んだ地点に全てのアイテムが落ちるだろ。俺は嘆いた。今までこのゲームにかけた時間を考えた。そんなときふとある考えがよぎった。君もクリエイティブモードって知ってるだろう?全てのアイテムが無限に手に入り、お腹が空かず、ゾンビすら襲ってこない。極め付けは空が飛べる。俺はクリエイティブモードに設定を変えてアイテムを取り戻しに行くことを決めた。」
ジョナサンは細い目をして遠くを見つめた。
「どうなったと思う?」
「無事にアイテムを回収したんじゃないのか?」
ジョナサンは空になった紙コップをストンと置いた。その音は二人の沈黙の合間を抜けて、僕の耳に妙に響いた。
「いや違う、アイテムを取りに行く必要がなくなったんだ。それにプロセスを介さず何でも手に入るようになった。好きなところを飛んで冒険をしたが俺はもうゲームなんてどうでも良くなった。何も喜びがないんだ。そうして俺はマイクラをやめてしまった」
「なんとなく人生を教えてくれてる気がしないか?何もかも簡単に手に入ると喜びがないんだ。喜びはそのプロセスにあることを知ったんだよ」
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「世界には物理的幸福のキャパシティというものが存在する。例えば君は時として存在しているだけで誰かを傷つけている。君の笑顔は俺の涙だったりする。そして俺の笑顔は君の涙だったりする。こうして幸せは循環し、君が幸せでない時は幸せを感じるための準備期間なんだ。何もかも手に入ってしまったらこの世になぜ生まれてきたのかを思い出せないんだ。この相対性の世界に入り込んでしまったのは君がもっと自己実現をするためにこの世界を選んだからなんだ。幸せを感じるためには不幸せという状態を知らなければならない。」
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ジョナサンはこう続けた。
まぁさっきの話と矛盾するがもっと簡単に幸せになれる方法がある。
「教えて欲しいなら、俺にセブンカフェを奢れよ!キリマンジャロの方だぞ!」
やれやれ…味の違いなんてわかるんだろうか?しかしその方法が知りたい僕はジョナサンにキリマンジャロを奢った!
「うーん、いい香りだ!」
「よし、教えてやるぞ!究極の秘密!」
僕は唾を飲み込んだ。
勿体ぶって彼はこう言った。
「それは、自分が幸せってことに気付くことなんだ…」