真夜中にラジオを聞きながらミルクを溢した話
昨夜、先輩と懐かしいラジオ番組の話になった。僕が学生の頃はYOUTUBEなんてなかったから、ラジオは割と僕たちの身近にあった。AMラジオのアナログでノイジーなサウンドはまるで少年と大人の間にある重い扉を押し開ける音のようだった。
ラジオをよく聞いていたのは中学生の頃だった。計画性のない僕は期末テストの直前、追い込まれるように朝方まで勉強をしなければならなかった。眠ることが出来ない夜の僕のそばにはいつもラジオがあった。
あれから30年ほど経った今でも強烈に覚えているラジオ番組がある。1991年から1992年頃まで劇団☆新感線の俳優、古田新太さんが担当していた木曜日深夜のオールナイトニッポンだ。耳を疑うような強烈な下ネタと公共の電波では憚れるハードなロックをかけまくる内容で大きな支持を得ていた。キャッチフレーズは「聞くと頭が悪くなる。世界一偏差値の低いラジオ番組」決してテスト勉強中に聞くラジオ番組ではない。
番組の中で取り分け強烈にエロかったのが「クイズ私が正解です」というコーナーだった。端的に言うと、女性リスナーが電話出演して古田さんとテレホンセックスまがいな事をするのだ。クイズ形式を取っていたが問題の内容自体は女性リスナー自身の性体験だったので正解するのは当たり前だった。
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「●●ちゃんが初めてパックリーナしたのはいつ頃ですか?クイズ私が正解です!」
「高校生の時に同じクラスの男子と〜」
「正解です‼︎」という具合だ。
ただ、問題が進むにつれて内容が過激になっていく。
「次の言葉を感情を込めて言いなさい!亀山!クイズ私が正解です!」
女性リスナーの声にドープなリヴァーヴがかかる!
「か・め・や・ま〜♡ かめやまぁ〜♡」
こ、これは女性の喘ぎ声じゃないか!
「ねぇ、ねぇ、俺の亀山どうなってる?」
すかさず畳み掛ける古田さん!
「お、♡おっきぃ〜♡♡」
ピポピポピポーーーン!
「しぇっ!しぇ!しぇ〜!しぇーかーい‼︎」
「正解」という単語がオノマトペに変わる笑
「●●ちゃん、正解です!それでは最後の問題です!熱い夏の日、アイスキャンディーが溶けてきた。勿体無いから舐めやがれ!クイズ!私が正解です‼︎」
ピチャピチャ♡ ピチャピチャ♡
ドープなリヴァーヴでピチャピチャの残響が鼓膜の奥で反射する!こ、これはまるでフェラチオの音じゃないか!
既に僕の右手はペンではなくペニスを握っている。
「俺のクリームでてる?」
「うん、出てるぅ〜」
痛いほどエレクトする僕のロンギヌスの槍
「どう?どう?美味しい?」
「おいひぃ〜ぃ♡」
ピポピポピポーーーン!
「あ“あ”ぁぁぁ!しぇしぇしぇ!しぇいかぁぁぁい!え“ーーい!え“い!え”い!せいっ!せいっ!せーーい!」
古田さんの人格と「正解」という言葉が崩壊すると同時に僕も果ててしまった。
テスト勉強の内容が精液と一緒に出ていったような気がした。愚者に訪れる賢者タイム。あぁ…やってしまった…。
しばらく呆然としていたら、不意にラジオからアコーディオンと口笛のノスタルジックな曲が流れてきた。その悲しくて美しいメロディーに思わずチルアウトする。夜はまだ明けない。窓に映る僕の顔はどこかしら清々しかったが、翌日のテストの結果は散々だった。
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童貞だった僕にとって、クイズ私が正解ですのコーナーはまさに衝撃としか言いようがなかった。その過激さのあまり古田新太のオールナイトニッポンは放送開始から終了までにスタッフさんが始末書を書かなかった週は2回しかなかったと言われている。苦情も多かったと思うが古田さんは徹底して放送内容を変えなかったから彼が木曜深夜のパーソナリティを務めたのは1991年1月から1992年10月までの1年10ヶ月間で短命な番組だった。
ーとある木曜日の深夜ー
パーソナリティが福山雅治に代わって、古田さんが降板したこと事を知った時の僕の悲しみはいかばかりか
古田さん、どこにいっちゃったんだよぉ…
これから何をおかずに僕は生きていけばいいんだい…。
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クイズ私が正解ですが聞けなくなった事は相当ショックだったが、あのノスタルジックな曲が聞けなくなった事も残念だった。曲紹介がなかったからもう一度聞くことは叶わなかった。
月日は流れ、僕がその曲と再会したのは童貞を卒業して、セックスに対して幻想を失った大人になってからだった。たまたまディグした東京スカパラダイスオーケストラのファーストアルバムの最後に収録されていた「君と僕」だった。
今でも「君と僕」を聞くと、女性リスナーの艶めかしい喘ぎ声と古田さんの「しぇいかぁぁい」という言葉が記憶の彼方で残響を伴って響いてくる。