レジ袋を悪とすることが正解なのか
世界中でプラスチック製の袋やストローなど、使い捨てのプラスチック製品を悪とし、使用の自粛、有料化・禁止をする動きが高まっている。7月1日からレジ袋の有料化 (無料配布の禁止) が始まるが、なぜレジ袋の規制をするのか、規制をしたらどんな良いことがあるのか考えてみよう。
なぜレジ袋を規制するの?
経済産業省と環境省は、レジ袋有料化のガイドラインで、その背景を資源・廃棄物制約や海洋ごみ問題、地球温暖化などの地球規模の課題に対応するためとしている。世界ではすでに127か国でプラスチック製のレジ袋の使用に何らかの法規制を課しており (2018年7月現在) 日本もその後追いをする形だ。
レジ袋を有料化することで、消費者が必要性を吟味したり、マイバッグを携行するようになったりといった行動変容を目的としている。
7月1日からどうなるの?
では具体的にどのような規制が始まるのだろうか。商売としてモノを売り、それを持ち運ぶためにプラスチック製の買い物袋 (レジ袋) を提供する人が、持ち手のついたレジ袋を提供する場合が、今回の規制の対象となる。
対象者が対象の袋を提供する場合には一定の対価を徴収することが必要となる。今まで一部のスーパー等で行われていた、袋を辞退することによる値引きやポイント付与は有料化に含まれない。「対価」は1円以上で事業者が各々設定してよく、その売り上げの使途も特に定められていない。対象の事業者はレジ袋の使用量やその変化などを定期的に報告し、その報告をもとに取り組みが著しく不十分だと判断される場合には勧告、公表、命令ののち、それでも改善が見られない場合には50万円以下の罰金が課される。
ちなみに、商売としてモノを売っていない人、紙袋や布の袋、プラスチック製でもスーパーの袋詰めコーナーに置いてあるような持ち手のない袋は対象外である。
また、厚手 (厚さ50µm以上) で、繰り返し使うことを促すような表記があるものや、海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの、バイオマス素材の配合率が25%以上のものは対象外となる。
そもそもなぜ今まで無料だったの?
レジ袋はもともと1枚当たり1-3円程度の安価なものである。それを広く薄く商売として売っている商品に上乗せしているような形で、実質無料で配られていた。レジ袋の素材、ポリエチレンは原油を蒸留して薬品や燃料を得る際にできてしまう副産物であったエチレンを使って作られる。もともと有効活用されなければただ燃やされるだけだったエチレンを使って作られているので、安価だし、何にもしないよりはもったいなくないのだ。
今回の規制で問題は解決する?
今回の規制で背景となっている環境問題は解決に向かうのだろうか。問題ごとに考えてみよう。
① 資源の制約
レジ袋の規制の目的の一つは原料である原油の消費を抑えることだろう。そのために生産に原油を使うプラスチック製のレジ袋を有料化し、使用量の減少を図る一方、再生可能なバイオマス由来のプラスチックが25%以上含まれているものに関しては今回の規制の対象外となっていると考えられる。しかし、レジ袋の生産に使われる原油量は、年間消費量のわずか0.3%だ。レジ袋に比べ、自治体指定のゴミ袋などに使われる石油の量はおよそ3倍。レジ袋でゴミ出ししていた人たちがゴミ袋を買うようになることは本当に石油の使用量削減につながるのだろうか。
今回の規制対象外の袋に含まれる繰り返し使うことを想定した厚口の袋も気になる。これも自治体指定のゴミ袋と同様に低密度ポリエチレンで、厚さが50ミクロン以上になるように作られる。一般的な厚さ12ミクロンの高密度ポリエチレンでできたレジ袋と、厚さ50ミクロンの低密度ポリエチレンでできたレジ袋を作るのに必要な原油量を考えると、同じ大きさでも厚手のレジ袋を作るのに約3.8倍の原油が必要な計算になる。では実際に厚手のレジ袋を無料配布したとして、従来のレジ袋の3.8倍以上繰り返し使用するだろうか。
レジ袋などのプラスチック製品はゴミとして燃やされるときにもエネルギーの削減に貢献している。特にレジ袋は薄くて発熱量が高いため、例えば生ごみだけを燃やすよりも少ないエネルギーで焼却炉の温度を上げ、効率よく燃やすことが出来るのだ。
② 廃棄物の制約
廃棄物の最終処分場が直に一杯になるだろという心配がされている。そのため、ゴミの量を減らしていきたいというのが今回の規制の別の目的と言えるだろう。しかし、家庭ごみに占めるレジ袋の割合は容積比で6%程度である。全ごみにすると割合はさらに減る。それがさらにその後焼却処分され、最終処分場へ行く頃には全体の容積に大きな影響を与えるものにはなっていないだろう。そんなレジ袋を廃棄物の制約という理由で規制するのはあまり適当ではないのではないかと思われる。
③ 地球温暖化
近年自然災害級の異常気象が世界各地で見られており、日本も例外ではなく台風被害が年々増していたり、夏だけではなく春や秋がどんどん暑くなったりしている印象がある。その原因の一つとされているのが温室効果ガスの一つである二酸化炭素だ。レジ袋も焼却処分されると二酸化炭素を発生する。では、今回のレジ袋規制でそれが改善されるのだろうか。レジ袋を有料化することによって、消費者がマイバッグをもって買い物に行き、レジ袋の消費量を減らすという行動の変化が期待されている。しかし、ポリエステル製のエコバッグを作るときに出る二酸化炭素の量は、レジ袋を作るときに出る二酸化炭素の約50倍にもなる。すなわち、ポリエステル製のエコバッグは50回以上使わないとレジ袋を断る意味がないとされている。
今回の規制でバイオマスプラスチックが25%以上入っているものが対象外になるのはバイオマスプラスチックがカーボンニュートラルと考えられるからというのもあるだろう。バイオマスプラスチックは、原料となる植物が生長するときに二酸化炭素を吸収しているため、燃やして二酸化炭素が発生してもプラマイゼロ、つまり、カーボンニュートラルであると考えられている。原料以外にも、作る工程でもエネルギーを使い、今回の規制では25%がバイオマス由来であれば無料配布できるので、完全にカーボンニュートラルであるとは言い難いが、若干でも大気中の二酸化炭素濃度を増やしすぎないことに貢献できるのかもしれない。
④ 海洋ごみ問題
レジ袋の環境問題と聞いて最近話題の海洋ごみを思い浮かべる人は少なくないだろう。ウミガメなどの生物がクラゲなどと誤ってレジ袋を食べる映像をテレビなどで見たことある人もいるはずだ。しかし、レジ袋は国内で年間に出るプラスチックゴミの約2%で、海岸の漂着ゴミではレジ袋などのポリ袋が容積比で占める割合は0.3%に過ぎない。重量比にしても0.4%だ。生活関連では飲料用ボトルが容積比12.7%、個数で38.5%とより大きな割合を占める。海洋プラスチックの問題解決のためというのであればレジ袋よりもペットボトルなどに注力した方がよい気がする。
今回の規制では、100%海洋生分解性プラスチック製のレジ袋も有料化の対象外となっている。「生分解性プラスチック」というのは、自然界の力で水と二酸化炭素に分解されて自然に還るプラスチックである。生分解性プラスチックにも様々な種類があり、コンポストのような特定の環境下でないと分解しないもの、土壌中で分解するもの、海洋環境でも分解するものなどがある。今回の規制には「100%」「海洋」生分解性と明記されているが、100%でないと、分解されない分がマイクロプラスチックとして残ったりするうえ、海洋生分解性でないと結局海に入ってしまったら従来のプラスチック同様ほとんど分解されないからだ。海洋生分解性であっても、環境によっては分解に時間がかかり、その間に動物に食べられてしまう可能性もある。また、生分解性だから大丈夫だろうと適切に処分されず、ポイ捨てが増えることも懸念されている。
海洋生分解性であろうとなかろうと、消費者である私たちがしっかりと知識を持ち、意識することが大切だ。
任国ケニアと比較してみると…
任国のケニアでもレジ袋は規制されている。日本よりも厳しい規制で、2017年8月からプラスチック製の袋の製造、販売、輸入、使用が禁止されている。違反した際の罰則は4年以下の懲役もしくは4万ドルの罰金だ。今年の世界環境の日 (6月5日) からはレジ袋に限らず、全ての使い捨てプラスチック製品の保護区内への持ち込みが禁止されている。
ケニアでは首都ナイロビでもゴミの収集率は25%にとどまり、収集されないゴミはその辺で野焼きされたり、敷地内に掘った穴に埋められたりしていた。また、きちんとした焼却施設はなく、収集されたゴミもそのまま埋め立て地 (オープンダンプサイト) へ運ばれていく。しっかりとした覆土等も追いつかずにゴミが散乱し、自然発火することもある。その辺で発火したり、野焼きされたりすれば有害なガスが発生するほか、ゴミが生活区域周辺に散乱していると景観を損ねる、雨水がたまってマラリアなどを媒介する蚊の温床になる、排水溝につまって公衆衛生上の問題を引き起こす、海へ流れついて海洋プラスチックとなる、野生動物が摂食するなど、様々な問題を引き起こす。
ケニアに限らず、このような環境では、景観が改善される、排水溝がつまることが減るなど、レジ袋の禁止も大きな効果があるようだ。
まとめ
レジ袋の規制はプラスチック削減の最初の一歩であり、ガイドブックにもこれ以上のこと、例えば、レジ袋の売り上げを環境保全事業や社会貢献活動に寄付したり、今回対象とならないレジ袋以外のプラスチック製の袋や対象外の事業者が用いる袋に関しても同様の措置を推奨したりしている。上記のように、レジ袋の有料化だけでは、日本では大きな効果は得られないのではないかと思う。
また、プラスチックのみを悪とするのも間違っているのではないかと思う。ポリエチレンはもともと使われていなかったエチレンの有効活用法である。ポリエチレンをはじめとしたプラスチックを食品包装資材に用いることによって、賞味期限の向上などにつながっている。また、プラスチックを包装資材に用いることにより最終製品に占める包装資材の重量比が1-3%と低く抑えられ、配送コストの削減につながっている (ガラス瓶を用いると36%にもなる)。プラスチックの包装資材を使うことによって、代替素材を使うより2700万トンの原油削減につながるなど、プラスチックは環境にもたらすメリットもあるのだ。
私はプラスチックを規制しなくてよいとか、レジ袋の有料化が間違っていると思っているわけではない。今回の規制を機に、レジ袋やプラスチックに限らず、不要なものはもらわない、買わない、なるべくゴミを減らし、ものを大切に使うなど、生活を見直すことが重要だと思う。
参考文献
・改正容器包装リサイクル法について (https://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/admin_info/law/04/pdf/kaisei/setsumei.pdf)
・プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン (https://www.meti.go.jp/policy/recycle/plasticbag/document/guideline.pdf)
・なぜレジ袋は無料なのか (https://note.com/yizutsu/n/n4790b5c919ff)
・レジ袋削減は本当に必要か(https://www.chuo-u.ac.jp/usr/jhs_activity/award/winentries/6th_result/result03/)
・温暖化対策へのプラスチックの貢献 (https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/basic/conference/resource/tokyo/history_waste/index.files/kankyo3379.pdf)
・身の回りのポリエチレン製品を通してプラスチックに親しもう! (http://www.jpe.gr.jp/sites/default/files/H250628meidaitokubetukougi%20text.pdf)
・レジ袋有料化、なぜ急に? 海洋プラごみ対策後追い (https://style.nikkei.com/article/DGXZZO46410530R20C19A6000000/)
・世界のごみの現状を知る (https://www.jica.go.jp/publication/mundi/1805/201805_02_02.html)
・The state of solid waste management in Kenya (http://www.envr.tsukuba.ac.jp/~sustep/dl/160412_02.pdf)
・レジ袋の削減について (https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2007/0914/item_070914_01.pdf)
・大研究 あなたが知らない「環境問題のウソ」2011年版 PART2 (https://gendai.ismedia.jp/articles/-/1668?page=3)
・環境問題としてのレジ袋 (https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=16305&item_no=1&attribute_id=20&file_no=4)
・海洋ごみをめぐる最近の動向 (http://www.env.go.jp/water/marirne_litter/conf/02_02doukou.pdf)
・バイオプラスチックは環境に優しいって本当? (https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/111900500/?P=1)
・グリーンプラ (http://www.greenjapan.co.jp/seibunkaiplastic.htm)
・生分解性プラスチックの課題と将来展望 (https://www.mri.co.jp/knowledge/column/20190408.html)
・生分解性プラスチック、海洋汚染を悪化させる恐れも 英議会報告書 (https://www.cnn.co.jp/world/35142654.html)
・「生分解性プラスチック」が地球に優しいウソホント (https://lessplasticlife.com/marineplastic/driver/biodegradable_plastic/#i-4)
・Shi Yuanchun, Biomass: To Win the Future (2013) (https://books.google.co.jp/books?id=uFYnAgAAQBAJ&pg=PA174&lpg=PA174&dq=biomass+plastic+energy+cost&source=bl&ots=15L0s8gTVi&sig=ACfU3U28q6V-lqLb3abCfhCTeqgSQ7sNGA&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwjb6p_cvJ7qAhWJH3AKHfsXAREQ6AEwCnoECAkQAQ#v=onepage&q=biomass%20plastic%20energy%20cost&f=false)
・レジ袋使用に伴うエネルギー消費量とその削減効果に関する研究 (http://www.sic.shibaura-it.ac.jp/~nakaguti/kenkyuuseika/2007/r04039suzuki.pdf)
・エネルギーの換算方法 (https://www.keyence.co.jp/ss/products/process/energy-saving/basic/conversion-method.jsp)
・1日あたりの石油の消費量の多い国 (https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/oil_ex.html)
・レジ袋を減らす (http://www.bin-reuse.jp/2r_guide_book/img/20.pdf)
・容器包装廃棄物の使用・排出実態調査 (https://www.env.go.jp/recycle/yoki/c_2_research/research_07.html)