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【変な隣人②】医大生の転落

「〇〇警察の者ですが、ろんさんの携帯で間違いないでしょうか」

警察からの突然の電話に背筋が凍った。
何か悪いことでもしたか、駐輪場に無断駐輪していることを指しているのなら、そのレベルの余罪はいくつかありそうだ。

「はい、そうですが・・・」

恐る恐る答えると、

「白木公平(偽名)くんのお友達だよね。実は彼が同級生の女の子と問題を起こしてしまって。高校時代どんな子だったか教えてもらえるかな」

心当たりはあった。
私は彼から恋愛相談を受けていたのだ。

高校時代は特別仲が良いというわけではなかった。
となりのクラスだったし、学年でも指折りの変わった奴だったので、そもそも彼に友達がいたのかすら分からない。
それでも学校から離れた図書館で勉強していると、自然と毎日顔を合わせることになるので、”知り合い”にはなっていた。

「ろんは一日に何回オナニーしてる?俺って異常なのかな」

勉強の合間に唐突にそんなことを話しかけてくる奴だった。

「気づいていると思うけど、最近俺が図書館を抜け出してしばらく戻ってこないのは、個室ビデオに行ってるからなんだ」

私は彼が図書館を抜け出していることなど眼中になかったが、クラスのみんなも家でしてるだろうから悩まなくていい、だけど、勉強中は我慢したほうがいいんじゃないかと伝えた。

「ドン・キホーテの弁当ばかり食べてたらオナラが臭くなった」

それは私の専門外だった。

彼は真っ直ぐな性格だったし、自分のことを客観視できないタイプだった。

それは家庭環境が影響していたように思う。
彼の父親の教育への熱量は度を越えていた。
それは医学部信仰と呼べるほどで、医学部に入れなかった夢を息子に託し、部活に入ることや放課後友だちと遊んで帰ることを禁止されていた。

高校卒業後、彼とは疎遠になっていたがある時突然LINEが届いた。
スマホを買ったこと、ろんのLINEを聞いたこと、そして浪人生活を経て、地方の医学部に合格したということだった。

どうやら要件はそれだけではなく、同じ大学の別の学科に好きな子ができたから協力してほしいということだった。

協力するもなにも彼は東京にいない。
LINEを添削してほしいということだった。

初めのうちは私も面白がって適当にLINEを添削し、たまに近況報告を兼ねて電話をした。要するに暇を持て余していた。

相手の女の子は地元出身の綺麗な子で、LINEの文面から真面目な印象を受けた。
特段、彼に好意があるわけではなさそうだが、LINEが来れば既読スルーはしない(できない)し、遊びに誘えば食事くらいは行ってくれるようだった。

だけど、その程度、彼は友だち止まりということだろう。
白木は勉強はできるがイケメンではないし、5分話せば変な奴だと誰でも分かる。

彼は3回目の食事の際に告白し、フラれた。
私はそういうこともあるし、別の女の子に切り替えようと慰めた。

それでも彼は諦めきれないようだった。
また食事に誘ったら、彼女は行ってくれるとのことだった。

「どうしてもモノにしたい」

エスカレートしている予感はあった。
次の食事に来ていく洋服を買いに行くからアドバイスがほしいと連絡があった。その頃私は夏休みを控え、期末テストとレポートに追われていた。私が返信できずにいると、試着室で10着以上の同じようなチェックのシャツを着た写真が送られてきた。今授業中なのか、今日はバイトはあるか、バイトが終わったら電話しないか、なんですぐに返信をくれないのか、彼のLINEは止まらなかった。
その日の夜、彼と電話で話し、最近学校やサークルで忙しいからこっちの都合も考えてほしい、一度フラれている通り、向こうは友だちとして考えているわけだから、あんまり熱くなりすぎるなと突き放した。

「最近、孤独を感じるんだ」

それ以来、彼とは連絡が途絶えていた。

「また何かあったら、連絡させてください」

そう言い残し、〇〇警察からの電話は切れた。

私のせいかもしれない。
もっと掛けられる言葉があったのではないか。

その事件はネットニュースに流れ、高校の同級生たちの間で瞬く間に拡散された。
誰もいなくなった場所での不同意わいせつ罪だったらしい。

一ヵ月後、

「色々迷惑かけて悪かった。俺、変わるよ」

と、白木からメールが届いた。

全然大丈夫。少し電話する?

と、返信したものの彼から返事が返ってくることはなかった。


あれから何年経ったのだろうか。
彼は立派な医者になれたのだろうか。

ふと思い出し、今どこで何をしているのか気になり、名前を検索してみると、どこかわからない地方の病院のホームページに辿り着いた。

腎臓内科の医師紹介のページにどこか当時の面影のある顔があった。
だけど、別の名前だった。

それ以上、知る必要はないな。

私は携帯をそっとポケットにしまった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ろん

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