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『グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』を読んで。

書籍名:『グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』
著者:クラウス・シュワブ、ティエリ・マルレ
出版社:日経ナショナル ジオグラフィック
出版年:2020年10月23日

■パンデミック・パニック

パンデミックが始まった当初はかなりパニック気味だったのだなと、本書を読んで改めて感じた。
落ち着いてきた今読んでみると、「世の中が不可逆的に大きく変容し、戻らないだろう」という主張が多いことに驚く。
よほど悲観的に受け止めてしまっていたのだろう。

本書を読んだ目的は、「シュワブ氏の提唱する"グレート・リセット"の具体的な方向性と詳細を知る」ことだった。

自分の読む前の認識では、立ち行かなくなった社会の諸課題に対して、世界の頭脳の中枢が、なんらかの明快な解決方法や方針を示しているのだと思っていたが、やはり実際はそこまで甘くなかった。

本書はあくまで2020年10月(頃 )時点における現状の列挙と、それぞれの課題に対してパンデミックがどのように影響を与えうるかというシナリオを提示したに過ぎない。

それを過小評価はしない。これだけ文化やイデオロギーや環境などの背景が異なる地域・国々、人々の階層を押しなべて俯瞰して同じ土俵に上げるのはかなり無理があり、骨の折れる作業だったはずだ。
パンデミックによる影響を受ける、という共通項で方向性をかろうじて示せたのだと思う。
これは凄い。

■ステークホルダー資本主義で課題は解決可能か

多くの課題が、資本主義の歪みから来ていることは明白だ。

2023年現時点においても、パンデミックによる影響で自然環境、労働環境、所得向上、国際情勢の改善などが解決したかといえば、全然解決していない。

テレワークは解除され、生産性向上のために再び出社が強制されつつある。
グレタ氏の抗議デモからMeToo運動、ジョージフロイド抗議運動、イエロージャケット運動など様々な運動が各地で起きている。

中国やロシアやイランですらデモが起きるくらいだから相当である。
この動きに対して、じゃあ社会に変容は起きているのか。
草の根の意識は高まっているが、いまだに改革は起きていない。
格差が開きすぎてしまった現代、既存のシステムという壁はあまりにも高すぎる。

シュワブ氏はステークホルダー資本主義という形で軟着陸する形を模索しているようだ。
私はステークホルダー資本主義に関してはその定義程度しか把握しておらず、氏の他の著作はまだ読めていない。
なので判断しにくいのだが、資本主義が行き詰まり、民主主義が機能不全に陥っている現状で、ステークホルダー資本主義には今更感が強く、とうていリセットに役立つとは思えない。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックがひとつのガス抜きで終わってしまったことを考えると、
リセットの起爆剤となり得るのは、もはや未曽有の大恐慌だとか、エボラ出血熱の大流行だとか、核戦争レベルの悲劇になってしまいかねない。
氏が本書で主張する通り、リスクは密接に絡み合い、一つの火種が急速に拡大し他の問題に派生するという主張は的を得ている。
なので、なんらかの今回のパンデミック以上の大厄災が起きれば、大きな潮流となるだろう。

■欲望の超克

資本主義というシステムの原動力が欲望である以上、
世界中の人の欲望を皆が自身で抑えつけるか、
または世界中の人々の欲望を叶えるようなきっかけが必要なように感じる。

前者は多分不可能。皆が揃って生きるか死ぬかに迫られないと到底そうはなるまい。
では後者か。

欲望を実現化する上で想像しうるのは以下のような、非常に難易度の高い課題の解決だろう。

フリーエネルギークラスの無尽蔵のエネルギー源の発見、
地球以外の居心地の良いフロンティアの発見・移住・活用の実現化、
VRとメタバースの発展と普及による、国家体制に影響を与えない欲望の発散口、
癌や糖尿病や心血管疾患や悪性ウイルスの克服。

AIの発達によって、これらの難問は遠からず解決してしまうかもしれない。

そのことに反対する既得権益者。
または保守主義な人々がAIの発達それ自体や、AIの活用や、生まれたソリューションの活用に反対することが予想される。
さらには倫理的、宗教的、政治的などの理由でその活用に及び腰になる可能性もある。

既に盤石な、欲望を原動力にして暴力の代わりにお金を用いた弱肉強食の社会である資本主義体制のその先に行くためは、
いずれにしても人々の欲望や、恐怖心や、現状維持の気持ちといった内面と向き合い、それを超克することは避けられなさそうだ。


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