言葉にできないことを言葉にしてみる

圧倒的なものを前にしたら、ただ立ち尽くすしかないよね。
そのとき言葉は役に立たない。

もう10年以上前になるかな。
ウズマキマズウと言うバンドのライブを観に行った。プロだからもちろん演奏は一流だし、気持ち良く聴いていたんだけど、ある曲でバンドのメンバー全員が一緒にゾーンに入った瞬間を見た。
なんか降りて来たとしか言いようのない演奏だった。
ドラムを中心にしてステージの上手側にいたベースとパーカッションのリズム隊の方から、ぶわぁあ~~~っと🎶音符が降って来たのだ。
比喩ではない。本当に「♪🎶♬」こういうのがステージの上から客席に降り注ぐのが見えた。そのリズムに乗っかったメロディ隊のギターとキーボードの下手側からは波のようなうねりの、ちょうど新体操のリボンのようなものが流れて来た。フロントのボーカルの声はその🎶とリボンの間の空間を埋めるように広がっていて、その3つがひとつの大きな塊となって会場全体を包んだ。観客はすっぽりとその中に入り、ただ揺れていた。
タバコは灰皿の上で灰になるに任せ、目の前のグラスに手を伸ばす者もいなかった。誰もが圧倒されながらも完全にその空間に身を任せていた。
泣いている人もいた。
6人のメンバーが完全に同化して美しい美しい空間の中にいた。
その頃の私は、いろんな意味でどん底で「早く寿命が来ないかなあ」なんて思いながら一日一日をなんとかやり過ごしていたが、そのほんの数分間の間に「私は生きていける」と言う思いが突如として湧き上がって来た。
その時のメンバーだったドラムの青山純さんもベースの大川俊司さんもそのライブからしばらくして亡くなってしまい、もうあのメンバーでのライブは叶わないが、あの時の記憶は私にとっての大切な大切な財産になった。
素晴らしい演奏者も心を鷲づかみにされる歌手もたくさんいるが、演奏者の全員があんな風に一緒にゾーンに入ることはめったにないのではなかろうか。

こうやって言葉にしていくほどに、思い出が壊れていくようだ。
言葉にしなければ人に伝えられないってなんて不便なんだろう。

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