ロン毛の日常

ロン毛の日常

最近の記事

誇りの中のタイムカプセル

部屋を掃除すると、思いがけないお宝が顔を出すことがある。今回の発見は、埃まみれのDS。久しぶりに握ると、手のひらのサイズ感が懐かしく、やけにフィットする。あの頃、このゲーム機を手に入れるためにどれだけ苦労したか思い出して、少し笑ってしまった。 10歳の僕にとって、DSは文字通り「手が出ない」存在だった。ゲームカートリッジひとつで5000円なんて、当時の僕には天文学的な数字だ。月に500円のお小遣いをコツコツ貯めても、10ヶ月分。これがどれほどの努力だったか、今ならよくわかる

    • マスタード牛タン

      彼女と牛タンを食べに行った。東京の焼肉屋で、あの薄切りの牛タンが焼ける音を聞きながら、食事が始まる。僕たちは何度もこの店に来たことがあるけれど、牛タンにマスタードがついてくることには気づいていなかった。 マスタードというと、僕はマクドナルドやホットドッグを思い浮かべてしまう。どうしてもファーストフードのイメージが強く、それ以上のものではないとどこかで思い込んでいた。でも、ここでその思い込みが覆されることになる。 まず牛タンが目の前に並んだ時、彼女が「これ、試してみて」と言

      • 下北沢と踊り狂う人々

        夏の夜、僕は下北沢の路地裏を彼女と歩いていた。提灯の明かりが通りを柔らかく照らし、どこか懐かしさを感じさせるその光景は、まるで過去の思い出が再生されているかのようだった。彼女は浴衣姿で、えんじ色の和柄が妙にしっくりきていた。まるで、彼女がそのまま夏祭りの一部になってしまったかのように。 「こんな夜にビールとソーセージって、意外に合うんだよね」と僕は言いながら、露店で冷えたビールと熱々のソーセージを注文した。下北沢での夏祭りは、ビールとソーセージを握りしめながらぶらぶら歩くこ

        • ノスタルジックビール

          夏祭りの夜、街はまるで蜃気楼のようにぼんやりと浮かび上がり、提灯の光がその輪郭を柔らかく照らしていた。僕と彼女は浴衣を着て、屋台の賑わいを楽しんでいた。ある屋台で立ち止まり、冷たいビールと熱々のソーセージを注文した。僕は、冷たいグラスを持ちながら「お酒、好きなんだね」と彼女に言ったが、彼女はニヤリと笑って「今日は特別だから」と言った。その笑顔が、夜風に揺れる提灯の光と重なり、まるでこの世に彼女しかいないかのような錯覚を覚えた。 一口飲んだビールの冷たさが、夏の暑さを一瞬だけ

        誇りの中のタイムカプセル

          東京のスイッチを入れた日

          「引越し」という言葉は、どこか現実から逃げるための魔法の呪文のような気がする。特に、それが若者にとっての上京の引越しとなると、その魔法の力は一層強まる。僕がその呪文を唱えたのは、ちょうど父と別れる前日だった。父は不安そうな顔で荷作りを進める僕を見つめていたが、僕は必死で前を見ていた。どうしても視線を合わせたくなかったからだ。 東京のアパートに到着するや否や、僕は「便利さ」と「孤独」の二重奏を体験することになった。便利な電車、数多くのレストラン、そして24時間スーパー。地元に

          東京のスイッチを入れた日

          最弱の主人公と緻密な戦場 漫画「ワールドトリガー」

          ある午後、僕は何気なく「ワールドトリガー」を手に取った。特別な理由があったわけではない。ただ、緻密な戦闘シーンに浸りたくなったのだ。ページをめくると、すぐにこの物語の特異さが頭をよぎった。主人公が、少年漫画史上もっとも弱いのではないかと感じさせるほどの非力さを誇っているのだから。それなのに、なぜか目が離せない。 物語の中心にいる三雲修は、筋骨隆々のヒーローとは程遠い。彼は、まるで風に飛ばされそうなほど華奢で、力強さのかけらもない。それでも彼は、己の弱さを認めつつ、戦場で活躍

          最弱の主人公と緻密な戦場 漫画「ワールドトリガー」

          王国とその住人たち 漫画「キングダム」

          ある雨の日、僕はふと「キングダム」を読み返すことにした。たまには、血沸き肉躍る戦場のドラマも悪くない。もちろん、僕が戦場に立つわけではないが、ページをめくるたびに、心の中で何かが熱くなるのを感じる。大きな歴史の渦の中に、小さな個性たちが絡み合い、物語が進んでいく。 「キングダム」の魅力は、主人公・信の成長だけではない。その周りにいるサブキャラクターたちの個性が、物語に深みを与えている。たとえば、蒙恬の冷静さと柔軟な思考、王賁の固い信念と誇り高い態度、そして河了貂の戦略家とし

          王国とその住人たち 漫画「キングダム」

          よろこびと悲しみの共存 映画「インサイド・ヘッド1」

          ディズニーピクサーが送る超話題作「インサイドヘッド」を観るのはこれが初めて。ある晩、僕はふと思い立ち、ソファに腰を落ち着けてリモコンを手に取った。画面に映し出される色とりどりの感情たちが、僕の心を動かす。そう、特に「よろこび」と「悲しみ」が織りなす不思議な共存が、僕を引き込むのだ。 映画の中で「よろこび」は、常に明るく前向きだ。彼女はライリーの頭の中で、すべてがハッピーであるべきだと信じている。しかし、物語が進むにつれて、彼女はある重要なことに気づく。それは「悲しみ」の存在

          よろこびと悲しみの共存 映画「インサイド・ヘッド1」

          マーヴェリックとその影たち

          夜が深まり、僕は「トップガン マーヴェリック」を観ることにした。前作から30年以上が経過し、マーヴェリックは歳を重ねたが、その独特のカリスマは相変わらずだ。スクリーンに映し出された彼の姿を見ながら、僕はふと、影のように寄り添うサブキャラクターたちのことを考えた。 前作では、マーヴェリックとアイスマンのライバル関係が際立っていたが、今回は少し違う。もちろん、彼らの友情と絆は健在だが、それに加えて、新たな世代が台頭してくる。若いパイロットたちが、自分たちの存在を証明しようと必死

          マーヴェリックとその影たち

          恐竜と僕とのび太

          ある日、僕はふと「のび太と恐竜 2006」を見返すことにした。部屋の片隅に積まれていたDVDの山から、ひょいと手に取ったそれは、子供の頃に何度も見た映画だった。あの頃は、ただの冒険物語として楽しんでいたけれど、大人になった今、少し違うものが見えてくる。 映画が始まると、のび太が小さな恐竜、ピー助と出会うシーンが映し出された。のび太は、弱くて泣き虫で、どうしようもないやつだと思っていた。でも、ピー助と一緒に過ごすうちに、彼の中に少しずつ変化が生まれる。自分よりも小さくて弱い存

          恐竜と僕とのび太

          故郷の匂いと映画の魔法

          夜が更け、静けさが深まるころ、僕はふと「ニューシネマパラダイス」を再生することにした。画面に映し出された懐かしい映像に、部屋の空気が少し変わったように感じた。映画の魔法が、僕の五感をゆっくりと蘇らせるのだ。 映画が始まると、すぐにあの特有の匂いが頭をよぎった。映画館の古びた椅子の革の匂い、ポップコーンがはじける音、そしてなぜかほんのりと香るタバコの煙。そんな記憶が、僕の中に深く刻まれている。故郷の映画館にも、同じような匂いが漂っていたことを思い出した。 故郷といえば、僕が

          故郷の匂いと映画の魔法

          優しくない優しさってなによ

          ある雨の降る夜、僕はふと思い立って、映画「オールウェイズ 三丁目の夕日」を見返すことにした。外の雨音は、まるで昭和の風景を背景に流れるBGMのように、心地よく懐かしいリズムを刻んでいた。 この映画は、僕にとって特別な意味を持っている。あの昭和の時代、まだ携帯電話もコンビニもなかった頃、人々は顔を見て会話し、時間をかけて人間関係を築いていた。そういう時代の空気感が、僕の中の何かを優しく揺り動かすのだ。 映画の中で、あるシーンが特に心に残った。それは、登場人物たちが互いに「優

          優しくない優しさってなによ

          神様がくれたささやかな魔法

          ある日、僕はまたしても朝のコーヒーを淹れていた。 ついさっきまで夢の中で、宇宙の彼方から降りてきた神様が「謙虚、感謝、素直」と書かれた小さな紙を持っていたのだ。 その神様が微笑みながら僕にそれを渡すと、夢の中の僕はまるで儀式のようにその紙を受け取り、「なるほど、これが人生の秘訣なのか」と思った。 夢から覚めると、もちろんその神様は姿を消し、紙も見当たらない。 しかし、目の前のコーヒーがそのまま現実に戻ってきた。 まるで現実と夢の境目が曖昧になったかのようだ。 そんな

          神様がくれたささやかな魔法

          髭のおじさんが飛んだり跳ねたり

          時が流れるにつれて、僕たちのゲームに対する楽しみ方は変わってしまった。昔は、ゲームの世界に足を踏み入れること自体が、ひとつの冒険だった。 最初に手に入れたDSや、心躍る「スーパーマリオ」のカセット、それらはただの道具ではなく、僕たちの青春そのものだった。 しかし、歳月が経つにつれて、あのころの純粋な情熱は、次第に複雑な感情に変わっていった。 大人になるということは、ただ年齢が増すことではない。 心の中で何かが変わるのだ。 それは、何も変わらないはずのゲームの楽しみ方さえ

          髭のおじさんが飛んだり跳ねたり