
六十四話 ウブド滞在とタトゥーアーティストへの第一歩
早朝、プラマ社のバスに乗り、クタからウブドへと向かう。海から段々と坂道が増えてきて木々も増え、気温は変わる。
高度が上がっているのだと感じる。
途中、寺院でお祭りらしき光景を目にする。
綺麗な衣装に身を包み、頭の上に果物やその他、沢山の物を載せながら、歩く女性達。
大きな傘?を持ち歩く男性。何かの儀式でもあるのだろうか?
獅子舞みたいな変なヤツが寺院の階段のところにいる。その目はギョロッと見開いていて、すごい迫力がある。
目力が半端ない。
内陸部に入ると、段々と異世界の異文化を感じるようになり、これぞバリという感じだ。
これまでとは違った別のバリ島の顔が見えてくる。
そして上陸した時に感じた不思議な空気は、どんどんと重く、身体にまとわりつくように強くなってくる。
得体の知れない何か、まるで目に見えるくらいに強く感じる。
そして遂にウブドに到着。
クタの喧騒とは全く異なり観光客も少なく、”村”に来たという感じがする。
早速、一人の男が声を掛けてくる。
「トランスポート?」
彼はバイクにまたがり、笑顔で言う。
「トランスポートって、それバイクじゃん!笑 タクシーとかはないの?」
「タクシー?タクシー無いよ!でも、問題無い!バックも大丈夫よ。どこ行く?」
「とりあえず安くて、綺麗で、便利で、えーとそれから良いロケーションのロスメン(=民宿の事。ただ、そんな都合良いトコあるか!)を探してるんだ。」
「O.K!任せといて!」
僕はバックパックと共に、彼のバイクに跨る。
まずは宿探しからだ。
「どこから来たんだい?ジャワ?」
「そうそう。ジャワから旅してきた…って、もちろん、インドネシア人じゃないよ!」
ジャワ辺りから、現地インドネシア人に間違えられる事が増えていたので、敢えて伝えておく。
「ふーん?じゃ、シンガポール?オーストラリア?」
「いや、東京だよ。日本から!」
「ええ??!日本人?本当に日本人?ニホンゴワカリマスカ?」
彼は僕に日本語で話し掛ける。
「ニホンゴワカリマスヨ!笑 日本人だし!」
「わ~お!信じられない!あなた日本人ぽくないよ!わたし、奥さん、日本人!奥さん、今、日本に居る!何かあれば、なんでも言ってください!」
長く旅を続けていたせいか、この頃から日本人に思われる事が殆ど無くなっていた。
「O.K!ありがとう!じゃ、まずはガンガン飛ばしていこう!」」
「O.K!じゃ、すごくスピード出すよ!友達の良いロスメン、色々あるから案内するよ!」
そして僕は彼の助けもあり、良き宿も見つけ、ここウブドに長期滞在をすることになったのです。
当時のウブドはメインストリートであるジャランモンキーフォレスト以外は舗装道路もまばら。デコボコ道をバイクに揺られながら、そののんびりとした空気を味わう事が出来ました。
ウブドという所は、本当に沢山のギャラリーや美術館があり、沢山の絵画、彫刻を見る事が出来ました。
街中でも、バリアートの勉強のために訪れている外国人とも多く出会いました。
クタと違いのんびりとして、静かな街。一歩裏路地に入ると炭火の煙が上がり、道路は舗装されておらず、犬や鶏、カモ達が自由に歩き回る。
独特の景色と独特な匂い。
カセットテープ(この時はこれが主流)屋からはガムラン音楽が流れてくる。
その音と街の景色、そしてその空気が混ざることで、何か独特な雰囲気を醸し出していました。
そんな街中を歩いていると、早速、一つのタトゥースタジオを発見。外国人達が大勢集まっている。マデ先生の腕に入ってるような凄い作品を彫る人かもしれない。
早速入ってみよう。
「ハーイ!」
勢い良く、笑顔で飛び込む僕。
中に居たお客さん達も、笑顔で僕を迎え入れてくれる。
「ハーイ!タトゥー入れに来たの?」
「うん!確かじゃないけど。とりあえず見に来た。君達は?誰がアーティストで誰がお客さん?」
「僕はドイツから来た彫り師。彼はスウェーデン、彼はオーストラリア、彼女はオランダ、アメリカ。タトゥーイストは僕とアメリカ人の彼だよ。そして今は出掛けてるここのオーナー(インドネシア人)も勿論、彫り師だよ。」
「ワオ!クール!すげえ!世界中だね!僕は東京から来たんだ。タイからずっと南下してここまで来たんだよ。」
「へい!お前もタイランドに行ってたのか?」
アメリカ人彫師が言う。
そうだと僕。
「俺はインド、タイと行って、ここに来たんだ。去年はヨーロッパのスタジオを色々行ってたけど、アジアってなかなか面白いよな!」
「マジか。彫師って、どこででも出来るの?」
と僕は興味深げに聞く。
「ははは!笑 どこででも出来るかって?そりゃ、どこでも出来るさ!腕と自分が望めば!」
僕は初めて知った海外のタトゥー事情というのに、心を惹かれました。
彼らは自分の腕で、自分の力で生きている。
しかも世界を周りながら。
それからというもの、僕は毎日このスタジオに顔を出す事となったのです。オーナーである彫師のアグースとも仲良くなり、本当に彼とはよく話しをした。
それ以降、人が居ない時には僕は店番。
日本人が来れば通訳したり、僕がデザインを描いたり。
最後の仕上げだけは、アーティストに任せて、それ以外は自分の出来るベストを尽くす。
1日の終わりにノートに書いて、現時点の課題と、今後の努力する点を考える。
毎日、自分に何が出来て、何が出来ないか?
何が足りていて、何が足りないのか?
時にみんなにアドバイスをもらいつつ、日々、自問自答していました。
特に僕が来てからというもの、日本人が居るスタジオという事で、観光客の日本人もよく立ち寄ってくれました。
他の普通の観光客も日本人が居ると分かると、僕にウブドのオススメや、バリ島やインドネシア情報を聞きに来ていました。
そしてそのウチ、体調を崩したとか、病院やpharmacyの場所やら、トランスポートの手配やら、色々やってました。
元々、そういう事が好きだったのもあり、勿論、無料で。
これまで旅人として東南アジアを実に半年以上、グルグルと止まる事なく旅し続けてきましたが、遂にここで自分のホームになりそうな場所を見つけたのです。
いつの間にか、旅の途中という事がすら忘れ、毎日、このスタジオで過ごしていた。
そして、ある日、僕は自分もここでタトゥーを彫ってもらうという事を決意したのです。