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第四十八話 アリスとチビ

トントン!
トントン!
早朝扉を叩く音がする。
 
「ほら、今日も来ましたよ笑」
浅野さんが、僕に言う。
 
「来ましたね笑」
 
扉の外ではこの宿のオーナーの娘、三歳になる女のコが待っていた。
彼女は「良い遊び相手が出来た」と思ったのか、毎日僕を呼びに来るのだ。
 
「早く!遊ぶよ!」
僕の手を引っ張り、外に連れ出す。
 
今日はどうやら、ママゴトらしい。
僕は彼女が集めてきた草や泥で作られた食事を出される。
「今日はナシ・レマッ(ゴハンの上に魚やら卵やらが乗るもの)ね。はい、どうぞ。」
 
「どれがイカン(魚)?」
 
「イカンはこれ。」と木の枝を渡す。
 
「はい、食べて。」
 
ここタマン・ネガラでの最初の友達は、こんな小さな女のコでした。
 
「おチビ、べったりですね~」
浅野さんが笑う。

東海岸を下っていた時もそうだったのですが、僕は何故か子供の遊び相手に指名されやすい。
精神年齢が同じくらいなのでしょうか?
しかも大抵遊ぶ時、僕が主導ではない。
 
「おやつだよ~。」
チビのお母さんがPisang Gorengピサンゴレンという、バナナの天ぷらを持ってきてくれた。

バナナケーキとバナナの天ぷら。
これが、ここマレーシアで日常のおやつでした。
浅野さんと僕、そしておチビとで、それを食す。
 
「このコがね、あなたと一緒に日本に行くと真剣に話すのよ」
とオーナーの奥さんは笑顔で話す。
「東京がどこにあるかもわからないのに、結婚してついて行くって笑」
 
「じゃあ、15年くらいしてから、また来ないとですね笑」
そんな会話をしながら、時はのんびり、のんびりと過ぎて行く。
 
すると今度は森の中から雌鹿が来る。
 
「おー、アリス(鹿の名前)!元気にしてたか?」
僕は森から出てきたその鹿を撫でる。
 この鹿、何故か森の中から、よくここまで出て来て、庭でのんびりとしている客人の一人でした。
日本のイメージしてるシカと比較すると、非常に大きい。これで牡鹿だったらどれくらいのデカさなのだろうか??
しかも何故か僕に懐いていて、よくついて来る。
 
「アリスは人間には馴れて方だと思うけど、ここまで人に懐くなんて初めてだよ。」
オーナーも驚くほどに懐いているらしい。
 
二人目の友人はなんと野生の鹿でした。
 
「アヤン!鳥」
 
今度はチビが、鶏を追いかける。(この子からすると、どんな鳥でもアヤン)
「なんだ?今度は鳥を捕まえるの?」
 
僕も追いかけるが、非常に早い。
もう一歩だ。
 
そんなところで、なんとこの鶏、空を飛んだのです!
 
しかも長時間。そして木の上に逃げてしまう。
鶏が空飛ぶなんて聞いた事ない。
 
さすがタマン・ネガラの鶏だ。
 
 
 夕方になり、小腹の空く頃、僕らは川沿いにあるレストランへと向う。
ボブ・マーレィの曲が流れている。
音と景色がハマる。
 
そのレストランで一人の少年に出会う。
 
何か彼は他のマレー人とは違い、髪もちぢれ、顔立ちも異なる。
何故だろう?僕は非常に気になっていた。
 
レストランの人に聞いてみる。
「彼は誰?何故、他の人と少し違うの?」
 
「お!分かるか?彼はオラン・アスリって呼ばれてて、森で暮らす部族の子供なんだよ。」
 
野生的で、非常に良い筋肉を持っている。
無駄のない、研ぎ澄まされた筋肉。

しかし何か落ち着かない感じで、レストランにいる。
あまりこんな開けた場所へは来ないのだろうか?
 
彼を見て、僕は思った。
 
「浅野さん、明日、ジャングルに行きませんか?まずは日帰りとか、軽くでも良いし。」
 
「いいですね!オラン・アスリと出会えるかもしれませんしね!それに動物とも!」
(まだ、浅野さんはアリス以外の動物を見ていない)
 
僕らは互いに初めて、ジャングルトレッキングというものを体験する事となるのでした。

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