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第六十話 偽物日本料理

 ジョクジャカルタ。ジャカルタを東京とすれば、ここは京都。伝統芸術や文化遺産で知られるインドネシアのジャワ島にある都市。
18世紀に建てられた王宮は、今でも健在。
バリ島で有名なガムランも、実はここジャワが起源。
今でも王宮では、このジャワの伝統的なガムランを聴く事が出来ます。
僕個人の意見を言わせてもらうと、バリの激しいガムランと違い、ジャワは静寂のガムランという印象。
この音色を聴くと、とても心が落ち着く。

当時のジョグジャ(地元ではこう呼ぶ)は今よりものんびりした空気で、まだまだ長閑な雰囲気が至る所に残っていた。
インドネシアはどこに行っても人懐こい。
その感じはここジョグシャも変わらないようで、ホテルに着くと従業員達がドリアンを食べていたところだったが、それを僕もお裾分けしてもらった。

実はこの時は人生初のドリアンだったのだけど、バターを食べてるような感じが最初からクセになり、以来、今でもフルーツで一番好きなのはドリアンとなった。

ここまでかなり厳しい旅だったので、ここジョクジャで少しペースを落としてのんびりする事にした。
最初に二、三日は、ひたすら地元をフラフラと歩き、街の雰囲気を楽しむ。

ある日曜日の朝、宿の近くにある日本食レストラン(というよりも、ローカルな食堂と変わりないとこ)がある事を知り、行ってみる事にした。

オムライス・おでん・焼き鳥などなどのメニューが並ぶ。
その中から僕は「オムライス」と「焼き鳥」を注文する。

「いやー日本食なんて、かれこれ半年ぶりかな~。」
期待に胸を膨らませ、オムライスを待つ。

そして暫くたった頃、オムライスが運ばれてくる。
うん、見た目にも僕の知るオムライスだ。

お腹も減っていたので、早速食べる。

「ん…?」

おかしい。
 味がおかしい。

ケチャップ??いや、違う。
辛い。すごく。
これ、チリソースだよね(サンバル)?
卵焼きに包まれた中身も違う。ただの白いゴハン。

期待していた分、落胆も大きい。


次に焼き鳥が運ばれてくる。

って、これサテ アヤン(インドネシアの焼き鳥)じゃんか!!塩でもタレでもなく、ココナッツソースが掛かっている。

ジャパニーズレストランと書いてあったのに、どうなっているんだ!

僕は店の人間を呼んで、問いただす。

「ねえ、ここ、ジャパニーズレストランと書いてあったよね?日本人は?」

ウェイター兼、料理人に問い詰めると、彼は笑顔でこう答える。

「いやー、実は居ないんだよね!僕が作っているんだけど、日本には一度も行った事がなくて。ははは笑」
満面の笑み。

「それ、全然駄目じゃん。じゃあ、どうやって日本食を作っているの?日本食レストランとかで働いていたとか?」

「いやー、日本食レストランなんて高くては入れないよ笑 だからほら、これ!雑誌に日本食の写真があったから、見よう見真似で作ってみたんだ!」

「……………。」
 まさか、写真のみの見よう見真似で店まで作っただと?一度も食べた事もないのに?
 唖然として、彼に返す言葉が見つからない。

一線を越えてしまうにも、度が過ぎる苦笑
見よう見まねで、店まで出してしまうとは。

仕方なし。僕は料理は上手いとは言えないが、厨房に入り、オムライスの作り方を教えてあげる事にした。

明日から食事は無料にしてもらうよ。

そうして暫くの間、作り方を伝えて、僕の怪しげなレシピから、また不可思議な日本食レストランへと変貌を遂げて行くのでした。

久しぶりの料理とか、しんどいわ。
料理の仕事終え、テーブルで寛ぐ。

すると子供らがテレビの前に集まってきた。何かの番組がはじまるらしい。
「ん?何か聞き覚えのあるこの歌。これは。。。!」

ドラゴンボール!!!
主題歌は日本語のままだ!

懐かしい。しかもレッドリボン軍が出ている。
悟空もまだ小さい。かなり昔の話だぞ。

真剣に食い入るようにテレビを見る子供達。
「知ってる、知ってる?この先どうなるのか?」
僕は子供達に、その後の話を言おうとする。

「やめろよ~!」
ブーイングの嵐。一番下のコが泣きそうになっている。
大人げ無さ過ぎる…。

 しかし、ここインドネシアでは「ドラえもん」やら、「ドラゴンボール」「ワンピース」「ナルト」やら、日本の漫画が色々と放映されている。「ウルトラマン」も「仮面ライダー」もやっている。しかもインドネシア語吹き替えで。

それにしても、悟空が流暢にインドネシア語喋ってるのって、何か違和感あるな。

話しは飛ぶが、この頃よりずっと後にインドネシアのスラウェシ島に立ち寄った際、仮面ライダーの話になった。その時、インドネシア人の一人が「え?!仮面ライダーってインドネシアのじゃないの??日本のなの?」と衝撃を受けていた事があった。

 さてさてそんなわけで、インドネシア語の勉強も兼ねドラゴンボールを最後まで観終えた僕は、例の地元大学生の友人と共に出掛けることにする。
昨晩は彼の友人達とも集まり、長時間の歴史問題、過去の戦争についてなどの議論を繰り広げていた。
スマトラの学生とも何度か語り合ったが、やはり海外でこういう話題は非常に面白い。
それぞれの国で、それぞれの考え方があるという事を知るのは、とても勉強になる。

彼の友人達と別れ、僕らは二人で街中を歩いていると、一軒のタトゥースタジオを発見する。

営業しているのか、していないのか。
元々興味もあったし、既に入れていた僕は、迷わず中に入る。
地元大学生の彼は怖がって入らない(地元の悪い連中のたまり場らしい)。

中から出てきたのは、やはり悪そうな地元のコ。歳も少し上くらいかな。

「タトゥー入れたいのか?」
彼が僕に聞く。

「いや、とりあえず見に来た。フラッシュ(下絵)とか作品の写真はある?」

「あんまり撮ってないんだけどな。ほら。」

アルバムを投げてよこす。

当時の僕は沢山のスタジオを見ていたわけではないので、それが良いものかどうかは分からない。(今考えると、ものすごく酷い。衛生管理などめちゃくちゃ。インクはパレットの上に乗せていた)

「何かあったら、いつでも来てくれ。これが俺の名刺だ。」

「ありがとう」

僕はこれを皮切りに、ジョグジャにあるいくつかのスタジオを訪れる事になったのだった。


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