第三十一話 マカンか?
前日は日が暮れるまで海に潜っていたので、遅い目覚め。
目を覚ますと浅野さんは既に居らず、どこかに出掛けている。
僕もそろそろ起きねば。
今日は海ではなくジャングルへと探検をと思ってるので。
コテージから外に出ると、隣に滞在するイギリスの学生の女のコ、二人と会う。
「おはよう。昨日は良く眠れた?」
と彼女達。
実はこのウチの一人に滞在中、ずっと口説かれ続けてたので、いつも僕は適当に会話を切り上げていた。
今はそれより、大自然が待ってる!!
都会生まれで、田舎が無かった僕は、目の前に広がる大自然に目を輝かせ、もう、夏休みに入った小学生の様に楽しんでいました。
この島で僕が持ち歩いていた物は、
サイフとシュノーケリングSET、ライト、銛、ナイフ、ライター、ロープ、非常食、水筒、何かを捕らえた時用の入れ物。完全に海でジャングルで遊ぶ物ばかり。
あの機械のように鳴く、セミ達が居るジャングルへと入る。
外とは違って、湿気が凄い。まとわりつくような空気。
大きな木々が絡みつくように、そして競い合うように上へ上へと伸びる。
木に登り、昆虫などを探す。
川をのぞく。
今まで図鑑とかでしか見た事がない昆虫達、そして鳥、魚も沢山いる。
アリだってデカイ。
そんな中、僕が一番興味を惹かれた魚がいました。
海に流れ込む汽水部分(海水と真水が混ざる所)、ここに集まる「ムツゴロウ」のような魚達。
近寄るとピシャピシャと跳ねながら、ジャングルの木々が生い茂り人間が入り込めないようなところへと逃げ込む。暫く離れ、また戻ってくる。見た目にはやはりムツゴロウみたい。
僕は気配を殺して、手づかみで捕らえようと試みる。しかし何度やっても、ぎりぎりのところで逃げられてしまう。
この魚、調べてみると汽水に生息する「ヨツメウオ」というもので、目が水面と水中を見れるという複眼?を持っている珍しい魚なのです。
非常に神経質な魚で、少しの気配で逃げてしまう。
食べるわけではないので、殺して捕まえるわけにいかず、僕は根負けし、遂に捕まえるのを諦めました。
ジャングル探検を終え、ビーチに戻ると浅野さんと遭遇。
「飯、食いますか?」
「飯、行きましょう。」
今日はビーチの一番外れ、奥に位置するレストラン。ここで食事を取る事に。
「マカン(マレー語で「食べる」の意)か?」
「うん。マカンだ。」
「腹減ったなー。」僕らは食事を待つ間、店内を見る。カウンターの上にある器が気になる。
中を覗くと小さな海亀が。
「どうしたのこれ?マカンか?」
と僕。
「いや今朝、浜辺で見つけてさ。とりあえず、客寄せとして置いておこうかと思ってね。」
と従業員。
かわいそうだなあ。
大きな海に出ていくはずだったのに。この小さな容れ物の中、必死で泳いでも、どこにも行けないなんて…。
海にも出れず、何かの餌になるわけでもなく、不毛な人生を送るのか…。
そう思うと可愛そうになり、僕は従業員には内緒で、海に逃がしてしまいました。
従業員は暫くしてから気付き、
「亀がいない!」
と言っている。
「逃げたんじゃない?」
と真顔で嘘ぶく僕。
「いや、そんなはずはない。ここから逃げるわけは無い」
「じゃあ、鳥が食べたんだよ。Tidak Apa Apa(問題ないとか、気にするなよの意味)」
納得いかない表情の従業員。
(しかし彼は南国の人。そんな些細な事はすぐに忘れる。)
食事と飲み物が運ばれてくる。
ここで出てくる100%ジュースはどこよりもうまい。
ここの従業員達(歳も僕と同じ。弟は15歳)と夕方まで語り合う僕ら。
なんだか、ここマレーシアの人達とは昔からの友達のように、段々とと仲良くなっていきました。
そして次の日、ブウと再び会う。珍しくお腹を地面にすりながら、外を散歩してる。
「なんだよ、お前。歩けるのかよ、デブ。」
と僕。
そんな僕を無視するブウ。
「デブって言われてるのが分かるんじゃないですか?」
と浅野さん。
「いや、こいつマレーシアの猫だし、分からないはずですよ。おい、デブ!おいで、デブ!」
そう呼び掛けるも、無視してジャングルへと入っていく。
「あの野郎…」
浅野さんは大笑い。
ブウを見た事で、僕らはブウのレストランへと向かう。この島に来るほとんどの人達はこうやってレストランでのんびり語ったり、本を読んだり、ボーっとしたり。そしてそれ以外では、目の前のビーチで日焼けしたり、昼寝したり、のんびりとバカンスを楽しんでいる。広いビーチに20人もいないくらい。聞こえるのは波の音だけ。楽園です。
ジャングルから野生のリスが来る。そしてレストランに入ってくる。僕の手からご飯を食べる。
ブウもジャングルから戻ってきて、また定位置でゴロッと横になる。一日の時間がのんびりと進む。
そんなのんびりとした時間の流れるこの島、このレストランで、ある事件が起こったのでした。
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