リバー、流れないでよ

好きだ。全てのネタバレを含む。

まず、舞台は山の中?の老舗旅館。実際にあるらしい。行ってみたい。言っただけだ。ストーリーは、ここで突然タイムループが始まってしまい、旅館総出で奔走するというもの。

タイムループって、あんまみたことないけど、イメージとしては主人公だけがタイムループしてることに気づいていて、なんかそのあと事故とか事件が起こるんで、どうにかそれを食い止めなきゃ!ってやつなんだけど、これはちがうらしい。

最初のタイムループ。宿泊客が帰り、主人公である給仕の少女が部屋の片付けをし終えたあたり。ふと気づくと最初にいた川辺にもどっている。少女、「あれ?なんかこれやったくね?」となる。ここまではよくあるループ系なんだけど、旅館の他の従業員と「....ね?そうだよね?さっきもやったよね?」ってなるシーン。ここで「面白えじゃねえか....」となるわけである。

しかも従業員だけではなく、宿泊客までも。「おれたちの雑炊、ずっと減らねえんだけど!!」と騒ぎ立てる。風呂に入ってた奴は素っ裸で慌てふためいている。

全員がループに気づいている。ループしてる時の記憶も残ってる。映画素人の俺にとっては斬新な設定だ。しかもみんなの飲み込みが妙に早くて面白い。「次のターンで本館の3階に集合、会議だ!」とか「私の初期位置ここなんで!」とか言いだす。理系出身の料理人のあまりにも分かりやすい説明を、みんなが行儀良く飲み込んでいく。みていて気持ちがよい。

ループしてるのは2分間というわずかな時間で、あ、あと面白いの一個思い出した。天気途中で変わるんだよね。時期は冬なんだけど、途中で雪降ってくる。ワロタ。「天気が変わってる....!きっと外(タイムループしてない場所)との調整なんだ!」。意味がわからん。ワロタ。それで、その2分間がもう何十回と繰り返されて、このループから抜け出すためにあくせくするわけですわ。しかしここでも、誰かが変な失敗とかしないのがいい。ていうか舞台旅館で、ただの日常がループしてるから事件とか起こりようがない。なんなら宿泊客の作家のジジイは「〆切が来ないなら一生このままでいい」とか言い出す。みんな焦ってはいるけど、命がかかってるとかいうわけではないから至って平和なわけ。それがよかった。

ただループしっぱなしってわけにもいかないんで、原因を探っていたら、川辺にいた給仕の少女。これがどうやら原因らしいと発覚する。修行中の若き料理人少年に恋する少女は、少年が修行のため渡仏するのを恐れていた。神社で買った縁結びのお守りを握りしめて、「時間が止まりますように」と川辺で祈っていたら、こんなループが始まってしまったという。早く時間が進むようにお祈りしなおせとみんなに責め立てられる中、少女と少年はループを逆手に取り、束の間の逃避行という名のデートを楽しむ。川辺でNetflix見たりね。ここはちょっと正直ウーンって感じだったんだけど、くどくなりはじめた頃、ようやく少女は寂しさと折り合いをつけ、時間を進める決意をしてくれる。

思えばみんな、内心は時間が止まってほしいと思っていた。〆切に追われ、会社の金策に追われ、想い人との離別を恐れ、推しのチケットは当たらない。私たちだってそうである。みんな口には出さない、出したってどうしようもない。しかし時間が止まってほしいと思うのである。少女が祈りを捧げた川辺は、神が宿るとされているところ。旅館に集う人々の密かな願いを神は受け入れたまでだ。でも、みんなまた、2分後からは、元の日常に戻るのだ。それでいいのだ。それが、ループの中で思いを巡らせたみなの結論だった。少女は目を瞑り、再び川に祈りを捧げる....。

また戻ってない?

再び「初期位置」に戻される一同。雑炊また増えてるし。いやいい感じやったやん。もう帰る準備とかしてたんだけど?ってなる一同。いやお前の祈りのせいやったんちゃうんけってなる一同。困惑する一同。

そこに走ってくる理系料理人。「みなさんの、『時間が止まってほしいって、みんな思ってたよね(^^)』ってやつ、ぜんぜんちがいます!」

案内されるままに神社に向かうと、やたら綺麗な女と、見たことのない乗り物。そう、タイムマシンである。「エンジンが凍結しちゃって、それの影響だったみたいです...笑」。綺麗女。そんな物理的なんだ。とにかくこのエンジンを直さんことにはループが終わらないっぽいんで、2分間でなんとか直す方法を考える。結構すぐ思いつく。やってみる。できた!やったー! 以上

こう振り返ってみると、いや結局タイムマシンとかなんかいってなるんやが、それ以上に旅館のみんなの明るさというか優しさというか、全然イヤミっぽくない。それが当たり前な上でストーリーが進んでて、そこにタイムループっていうSF要素が入り込んでくるっていうのが面白いし、だからといって壮大になりすぎるわけでもなくて、みんな飲み込み早いし、「ループしてるってことね?!」って受け入れて、必死に奔走していく感じ。なんか、ほんとにこの現実世界でループが始まったら、意外とこんな感じなんじゃないかなと思う。この映画全体を通した多幸感がこの映画の要だと思う。それで途中、若干カタルシスがあって、ハッと気付かされたかと思えば、結局タイムマシンのせいでしたっていうお茶目なオチ。なんてかわいらしいことか。いうなれば地に足がついたSF。演技とか映像とか、普段から金のかかった映画しか見ていないからちょっと安っぽさは感じたんだけど、むしろそれがこのへんてこりんでお茶目な世界にマッチしていて好きだった。主題歌のくるりも良かった。こういう映画が、俺に俺のことを好きにさせてくれる。こういう映画を好きだって言える俺が俺は好きだ。おすすめです。ぜひみてね。

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