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わたしたちの結婚#21/故郷とバラの花


忘れられないお誕生日会の後、夫は私を家まで送ってくれた。

私の家は、高速道路を飛ばしても2時間かかる場所にあった。

「いつも、こんなに遠いところから会いにきてくれてたの?」

夫は驚いていた。

洗練されたビルからどんどん離れ、田園風景をずんずん進んだ。

「この街で出会った人々の中で、君だけは流れる時間が違う気がしていたんだ」

夫はからかうように笑った。

「なに、田舎者っていいたいの」

私はわざとムキになったようなことを言った。

こんな風に気を許した会話が出来るようになった。それがとても嬉しかった。

「自分はもっと田舎の出身だよ。転勤で転々としていた時もほとんどが田舎だった。街よりも、その方が好きなんだ」

夫は優しく言った。

「君の故郷が、優しい場所で良かったよ。行くのが楽しみになる」

私たちは、お互いの故郷の話をし、お互いの家族の話をした。


私の故郷は夫にとっての新しい故郷で、夫の家族は私にとっての新しい家族だと思うと、ひと言も聞き漏らすまいと夫の話を真剣に聞いた。

「ご両親に挨拶に行かないとね」

次に必要なことを、適切なタイミングで確実に提案してくれることがありがたかった。

動いてくれない彼にやきもきする友人の不安げな表情を見てきていたから、そういう不安がない私たちの関係はとてもありがたかった。

「いつがいいか、聞いておいて」

夫は車を私の最寄駅のロータリーに停めた。

私は感謝の気持ちを込めて、夫のほほにキスをした。

夫は驚いたような顔をして、すぐに笑顔になった。

私もにっこり笑った。

ただ、私を送るためだけに、片道2時間のドライブを引き受けてくれる夫に感謝した。



家族で夕食を囲んでいるときに、プロポーズしてもらったことと、夫が挨拶に来ることを両親に告げた。

「もう結婚するのかい。こないだ出会ったばかりじゃないか」

父は目を丸くして答えた。

確かに、私が婚活をはじめて、3ヶ月しか経っていなかった。

母にはプロポーズのことを事前に伝えていたこともあり、なにも動じていなかった。

「いらっしゃるなら、次の次の週末がいいわ。その頃、バラが見頃だから」

母は手元のカレンダーを見ながらそう言った。

「いつものお店でチーズケーキを買っておけばいい?コーヒーか紅茶、どちらがいいかしら」

テンポよく段取りを進める母を横目に、父は少し戸惑った顔をしながら、

「土曜日は父さんは仕事だから、日曜日にしなさい」

とだけ言った。

私は夫がコーヒーが好きなことを伝え、お茶菓子はなんでもいいと言った。

「お天気だといいけど。バラを見ていただきたいから」

母は、大切に育てているバラのことをひたすら気にしているようだった。

父は落ち着かない様子でアーモンドをいつもより余計に食べていた。



私は2人の様子を慎重に観察してから、問題なく報告が済んだことに胸を撫で下ろした。

夫にLINEし、日程を伝える。

ほどなく返事が来た。

「じゃあ、次の次の日曜日でお願いね」

まるで何一つ特別なことなどないかのように、私は淡々と両親に伝えた。

母はカレンダーに夫の(今の私の)苗字をさん付けで書いた。

下の行にチーズケーキ、コーヒーと書いた。

「まずは名前を教えてくれ。呼び間違えてはいかん」

父が慌てて言った。

「あなた、この子が何度も喋っていたの、聞いていなかったの」

「まさか、こんなすぐ話が進むなんて思わなかったんだ。ひとり目の人、くらいの認識だったよ」


私が席を立つと、2人が後ろで喋っているのが聞こえた。

真面目な両親は、今回のイベントもきっと可笑しいくらい生真面目に取り組んでくれるだろう。


私は心の中で微笑んで、夫と次の週のデートの予定を立てるために自室に戻った。


部屋の窓から庭が見える。
膨らみ始めたバラの蕾が見えた。

バラがきれいに咲いていますね、と褒めるように夫に言っておかなくちゃ。


そう思った。



ロン204.




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