都会で打ち合わせ。
行ってまいります。
そう上司に告げて、最寄駅から電車に乗る。
2両しかない、小さな電車に揺られる。
スマートフォンで乗り換えを確認。
幹線に乗り換えたら、一安心。
すごいスピードで運ばれていく。
スマホ見たり、うとうとしたりしていたら、気付けば無機質な世界にたどり着いていた。
窓から見える大きなビルに目を丸くする。
何度来ても、都会というところには慣れない。
降りるべき駅で降りて、慌てて地下鉄に乗る。
初めて乗る訳じゃないのに、手をぎゅっと握りしめてしまう。きゅっと口を固く結んで、じっと電光掲示板を睨む。
降りるべき駅できちんと降りたらやっと息が吸えた。
どうも早く着きすぎたようだ。
駅前のタリーズに行こうと思ったらなんと並んでいた。
ドトールはどうかしら。
やっぱり並んでいる。
そうだった。
都会というのは人がいっぱいいるんだった。
並んで、商品を買った後、座席にありつける自信がなかったので、チェーン系の喫茶店はあきらめる。
ちょうど打ち合わせ場所の真向かいにおしゃれなカフェがあった。
入店すると、仕事が出来そうなパリッとしたスーツの人たちが慣れた雰囲気でランチを食べていた。
言われた通りの席に着き、お店の前のメニュー表で念入りに選んだ、最安値のランチセットをすかさず注文した。
運ばれてきたランチセットは華やかな盛り付けだったけれど、味は完全に冷凍のそれだった。
少ししょんぼりしながら、今日の打ち合わせ内容を書いたメモを読んだ。
黒いスーツの集団が隣の大きなテーブルに不慣れそうに座った。
明るいストライプのスーツの男性が、黒いスーツ集団に声をかける。
「ほらほら、もたもたしないで。
さあ、なに食べたい?」
新入社員のようだった。
はにかんだ笑顔が可愛らしい。
今の所作はまだまだ学生に近いけれど、半年もすれば、この街であの先輩のように堂々と働くようになるのだろう。
そんな未来が、容易く想像できた。
羨ましいな。
社会人歴は私の方がずっと長いけれど、
私は半年経っても都会に慣れることはない。
今だって、緊張で食欲がない。
自分の情けなさに小さくため息をついた。
お金を払って、打ち合わせへ。
まずは商品の説明会に出席。
私のために席が準備してあって、いつもお世話になっている営業さんが恭しく挨拶に来てくれた。
パリッとしたスーツのおじさま方の中に混じって、いかにこの商品がビジネスに必要不可欠か、という話を聞いた。
そのあとやっと打ち合わせ。
マネージャーと書かれた名刺を差し出した、自信を身に纏った女性の前に通された。
キャリアウーマン、という感じがした。
緊張してる場合じゃない。
私はメモを取り出して、要望を事細かに説明した。
無知だと思われてるかな、とか
喋り方が田舎くさいと思われてるかも、とか
そんな俯きそうになる気持ちが心の中で湧き上がってくるのを必死に抑えて、
田舎からはるばる来たからには、伝えなくてはと一生懸命話した。
私の話は丁寧に咀嚼され、凄じいスピードのタイピングで記録された。
話終わったらくたくたになっていた。
うまい打ち合わせが出来たとは、お世辞にも言えない感じだった。
エレベーターで見送られ、大きなビルから外に出た。
街には仕事終わりの人びとで溢れていた。
パリッとしたスーツや、おしゃれなオフィスカジュアルを着こなして、私の3倍くらいのスピードで歩いたり、話したりする人びとだ。
金曜日だからか、心なしか街ゆく人びとに笑みがこぼれる。
いいなあ。
ドラマのワンシーンみたいだ。
空を見上げると、視界に沢山のビルが写り込む。
都会だなあ。
ターミナル駅で沢山お土産を買い込む。
私を送り出してくれた、優しいみんなに持って帰ろう。
ロン204.