5月の大学1年生へ
数日前,お手紙が届きました.
大学1年,5月
質問してこられた方はおそらく,この4月から大学に入学して最初のGWを過ごされたことと思います.入学後の1か月というと,まだ親しく話せるような友達もさほどおらず,あれこれと講義を詰め込んで手に負えなくなりかけ,またせっかく選んだ数学科なのに想像とはちょっと違う……といった,環境に慣れるだけで大変な時期ではなかったでしょうか.それでもなんとか1か月頑張られたんですね.お疲れさまです.
ここで薦めるべきかは少し悩ましいところですが,こんなマンガがあります.大学1年の5月に読むにはちょうど良いような気もします.差し障りなければ,試し読みの部分だけでも一度ご覧になってみてください.
まず,龍孫江の場合について
さて,ご質問はぼく自身のことについて問う形で締めくくられていらっしゃいますから,やはりぼく自身の話から始めるのが適当でしょう.
ぼくの学部生時代は,ほとんど自主ゼミで終わったような印象があります.それなのにちょっと不思議なのは,あれほどゼミばかりやっていたはずなのに何を読んでいたか半分くらいしか覚えていないことです.ぼく自身はそんなものだと思っていますが,客観的に見ればぼくがボンクラだという可能性も多分にあります.その辺の判断はお任せします.
自主ゼミを始めたのは,やはり1年生のときでした.ぼくが学んでいた名古屋大学の理学部には数理学科学生控室というのがあって,講義の合間や終わりの空き時間にはずっとそこでのんびり本を読んだりレポートを書いたりゼミをしたりしていました.あるとき数学の講義前に控室の管理人(といっても学部の3年生でした)が来て
「是非自主ゼミをやりませんか?」
と呼びかけられたのです.ぼくは一にも二にもなく引き寄せられ,そこで友人W君と出会いました.W君とぼくは,それから学部3年くらいまで(4年になると専門が分かれる)他の友人を交えつつも,週に2つくらいはゼミを組むようになったのです.
呼びかけてもらって始めた最初の自主ゼミは,管理人氏とOBである院生さんがチューターについてくれて,高橋陽一郎先生の「実関数とFourier解析1」の最初を読みました.(下のリンクはオンデマンド版ですが,当時はまだこのシリーズ自体が刊行中でした)タイトルにはFourier解析とありますが,Fourier解析までは到達せず終わったと記憶しています.
その後,いろいろやったと思いますがはっきり記憶にあるのはSerreの「有限群の線型表現」と小島定吉「トポロジー入門」くらいです.幾何系の本でもゼミをしたことはおぼろげに覚えているのですが,はっきりどれかは忘れてしまいました.いきなり微分形式が出てきて戸惑ったような気がします.
学部の成績も,代数はそれなりに好きでしっかり時間をかけてやりましたが,幾何や解析はなんとか単位だけ頂きました.一応,微分方程式以外は成績表には優を頂きましたが,まだなんというかゆるやかな時代だったように思います.
大学で学ぶということ
今は大学を取り巻く環境も当時とはかなり変わっているはずで,例えばほとんど誰からもGPAという指標を聞いたことがなく,広義にはどんどん登録してどんどん切っていました.文学部の講義に登録して,やっつけでレポートを書いて,良だか可の単位だけは貰ったのを覚えています.
大学で学ぶということは,もちろん教わることも多いのですが,一方的に与えられるものだけでは全く足りないのも事実です.もちろん講義担当の教員は題材を選び構成を考え講義に臨むわけですが,それだけで得ている冪知識として充分かと言われると疑問符がつきます.
その点からすると,むしろ質問文中にある
> 大学のレジュメや数学書を読み漁ってかろうじて理解して課題を出しています
という一文には,ご本人は不安の表れとして書かれているかもしれませんが,むしろ大いに頼もしさを感じたりするのです.
「わからないことがある,だから調べて何とかする」
言葉で言えば当たり前に聞こえますが,これをきちんと続けられる人は実はそんなにはいません.自信をもってよいとぼくは思います.
学生生活は個人戦じゃない
とはいえ,これから2年,3年と学年が進むにつれ,内容はより高度により複雑になっていきます.「わからないことは調べる」といっても,今の時点でこれだけ時間がかかるのにこの先どうなってしまうのだろうという気持ちもわかります.
ひとつだけアドバイスを差し上げるとしたら,
「学生生活は個人戦じゃない」
のです.つまり,何から何まで自分一人でやらなければいけない決まりはないのです.
レジュメを探すのも大変です.本を調べるのもなかなか大変です.だったらそれを友人同士で手分けしてやるのも手でしょう.あるいは詳しい友人がさらっと教えてくれて済むかもしれません.
大学の各教員は,オフィスアワーと言う「自分の研究室なりで学生の訪問を受ける時間」を設けています.必要ならばアポイントを取って押しかけて「これがわからなくて困っています」と言えば答えてくれるはずです.わざわざ行くのが怖ければ,講義の後にちょっと捕まえて聞くとか,話しやすそうな若手の先生に聞くのもありでしょう(断られたら諦めましょう).
当面の目標は数学を理解することです.最終的には自分で考え試行錯誤するしかないことは,教員を含め数学を学んできた人たちならば誰もが知っています.だからこそ,その前段階では基本的に何をどう使っても構いません.教員から知識を引き出しても,友人と手分けしてネットを漁っても,図書館に籠って論文を紐解いてもいいのです.繰り返しますが,理解するにはどうせ最後に自分の頭で考えなければならないのですから.
思い出話ばかりやたらと長く,アドバイスもごくありふれた感じで,わざわざ数日待ってもらったのに申し訳ない気もしますが,とりあえず今の感想として綴りました.どうか充実した大学生活を送られることを願っています.
(これより下に文章はありません)
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