アラフィフ女子、お一人様ビール
この前「ビール」について書いた。そう言えば、5年くらい前に、新幹線と在来線で金沢に向かった時に「お一人様ビール」を書いた。
以下は、その時のエッセイ。
米原駅の新幹線の改札を出たら、すぐ横に小さなコンビニ風の売店。
「コーヒーでも買おうかな」
ふらっとその店に入った。
所狭しといろいろな物が置いてある。駅弁から旅行用品まで何でも揃うといった感じ。その一角に大きな冷蔵庫。
「女一人、でもいいよね。普通、普通」
自分で自分を納得させ、それでも、周りを気にしながら、ビールとおつまみを持ってレジへ向かう。コーヒーのことは、既に頭にない。何も悪いことをしていないのに、そそくさとお金を払って、バッグにビールをしまった。ついこそこそしてしまう。
その後、在来線の特急列車に乗りこんだ。入口に近い席に座る。現在、午後六時。バッグの中には、新幹線に乗る前に買ったサンドイッチと、さっきねじこんだビールとおつまみ。
「さてと、夕食にしようかな。でもその前に…」
座ったまま背伸びをして、車内を見渡す。缶チューハイを飲んでいる女性を発見。
「ふふふ」
何となく安心して、席の前のテーブルのロックを外す。目の前にセットされたテーブルの上に、ビールを置く。まだドキドキは消えない。プルタブをゆっくり持ち上げる。「プシュッ」と大きな音がしないように、少しずつ少しずつ。そして、一口。
「くう~、うまい」
生まれて初めて、電車で飲むお一人様ビール。
さっき新幹線で、仕事帰りの男性2人と女性1人がビールを飲みながら、自分たちがしたプレゼンについて討論をしていた。それから、20代女性が1人でスマホの音楽を聞きながらビールをゴックンしていた。それから、ビールとお弁当を入れた袋を持って、新幹線に乗り込んできたスーツ姿の女性もいた。それから、それから…。
「そうだよ、そういう時代だよね」
私の心に、湧き上がる何かを感じた。
だから、さっきの売店でコーヒーを買うつもりがビールになったのだろうか。たかがビールと思うかもしれないが、アラフィフの私には、女性の一人飲酒のイメージは、まだまだ悪い。それだけはできないとずっと思ってきた。こういうところが、男女平等と思っていても、心の芯みたいなところに、女性蔑視を受け入れてきたのかもしれない。
それが、数時間前の、男女でビールを飲みながらの対等な話合い、水かお茶を飲むように自然にビールを飲む若い子、お弁当をつまみにビールを飲むだろう女性。その光景が、私の固定観念を粉々にしてくれたのだろう。
もう一口ビールを飲んで、窓の外を見た。ちょうど日が沈むところだった。その美しい眺めを堪能しながらのビールは格別。電車に揺られながら飲むうちに、ほろ酔い気分になってきた。サンドイッチも食べて、私のビール付き夕食完了。
「なんだあ、ちっとも後ろめたくない」
旅の楽しみが増えた。窓の外には星が出てきた。