カラフルなカラス
2月の東京は寒い。ヒートテックとスパッツの上からタートルネックにニット、厚手のパンツにもちろんコート、おまけにもこもこ靴下をはいてもまだつま先が寒さでしびれるのに、あと3か月もしたら半袖で過ごせるようになって、今はガンガンに暖房をいれているこの電車も今度はキンキンに冷房を入れるようになるなんて。日本の四季ってすごい。すごい変化だけど、少しずつ変わっていくから受け入れられるんだろう。考えてみれば、少しずつ変わっていくから気が付かないことばかりだ。そう。いつから翔太に会ってないんだっけ。見慣れた風景が一瞬外国の景色みたいに見えたところで電車は吉祥寺駅に止まり、降りる人に私も続いた。
私は今、吉祥寺の大衆居酒屋とスナックみたいな居酒屋で働いている。夕方から大衆居酒屋で給仕をし、営業終了後は3軒隣のスナック居酒屋を朝まで。この仕事を紹介してくれたのが翔太だった。いい加減な生活でいよいよ家賃も税金も払えなくなりそう、なんて飲みながら笑い話のつもりで話して飲み仲間にさえあわよくばおごってもらっていたカスみたいな私に、翔太はリコちゃんならできるよって知り合いのお店を紹介してくれた。もう金欠でテキトーな男に頼ったりテキトーな仕事をテキトーにやったりするのも本当にうんざりだったし、吉祥寺の飲み屋街は田舎者の私には摩天楼みたいで、一度でいいからあそこの住人になってみたかったし、それに翔太がいうなら悪い話じゃないと思って働きだした。入ってみたらなかなかハードだけど、体と頭をフルに使う労働は楽しいし、みんななんだかんだいって優しいからなんとか頑張ってる。
翔太も週に一回は彼のバーの仕事終わりにスナック居酒屋のほうに飲みに来てくれた。来たら必ずリコちゃんにも一杯あげて、とかいって本当に律儀なやつだから、翔太には老若男女問わずファンが多い。彼の勤めるバーは彼とお話したい客で溢れていて、私もその中のひとりだった。