フランスガム個展 巻頭エッセイ|《L’OISEAU DISPARUー彼方の鳥ー》に寄せて
先ずはじめに、菫色の小部屋再開へ盛大な拍手とお祝いをお贈りいたします。
そして吉祥寺店舗終幕の一年の始まりという記念にこのような展示の機会を頂きましたことに心より感謝申し上げます。
昨年、霧とリボンさんのweb配信の新しい試みであるモーヴ街という企画にお誘い頂き、空き物件だった十番地にマダム・ロマランという人物が引っ越してきてそこで小さなお話を売るお店を開く、という一つのお話が生まれました。
今回の展示では、マダム・ロマランのその後のお話をお届けすることにしました。以前から展開してみたいなと思っていたテーマ、ドードーという鳥をモデルにしたお話にしようと思いました。
翼が小さく進化した為に人間の営みに淘汰され、この世界から消えていった鳥。
以前からドードーという鳥に何か特別な情を抱いていて、何か他人事ではない感情というか、それはもしかしたらルイス・キャロルがドードーに対し抱いていたと言われている共感のようなものとそう遠くないものではないかと勝手に想像したりします。
勿論鳥の気持ちなど分かりませんし、人間が人間の感覚で勝手に思いを重ね陶酔しているに過ぎないとは知りながらも、そのような気がしてならないのです。
この昨今の殺伐とした世界の流れの中で、余計にそう思うのかもしれません。
L’oiseau disparu(絶滅した鳥)。
自分自身なのか、自分の中に住んでいるのか、もういないけれどどこかにいる(と思えてならない)鳥、それを「彼方の鳥」と名付けました。
そんな彼方の鳥をみんなどこかで知っているのではないか、という思いを抱きながら作った物語です。
モーヴ街という架空の街を歩きながら、マダム・ロマランの部屋で眠ったりお茶を飲んだりお向かいのマドモワゼル・イリスとお喋りしたりしながら、お話が出来上がりました。
公開に先駆け見ていただいた際に、お話の中に霧とリボンさんのルーツとなる洋館にそっくりな情景が描かれていたとお聞きして驚きました。
お話を作る時はなるべく自分を透明にしてそこへ入って聞いてくるような形をとっていて、(それはマダム・ロマランが誰かの失くした思い出を空から拾って書き綴ったという設定そのもののことでもあります。)もしかしたら今回はそのおかげでその洋館(或いはそこへ繋がる場所)へと辿り着くことができたのでしょうか…!なんて考えると楽しくなります。
偶然にしてもそんな風に少し不思議で嬉しくて素敵なことがあるのなら、これからも創作活動を続けてみようかなと改めて思っているところです。それは自分にとっては生命活動そのもののことかもしれません。
とても長くなりましたが、どうぞ皆様ご一緒にロマランのいるモーヴ街を歩いて頂けたら嬉しいです。
そしてそこへ舞い降りた彼方の鳥と暫しの時をご一緒頂けたら、とても幸せに思います。
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ドードーを知ったのはわりと最近、数年前のことで、ある本をきっかけにいつになく猛烈な勢いで興味をそそられ調べている時にちょうどかつてドードーのいた島モーリシャスの海で日本商船の座礁事故が起こり、遥か遠くに思っていたその島が急に身近なものになったようでとても驚いたという出来事がありました。
その時期に開催して頂いた霧とリボンさんでのweb展示『ノスタルジー』では、飛べない鳥をテーマにした絵を一枚描きました。
何かその流れに不思議な縁を感じたため、長年かかると言われていた海の除染作業に少しでも貢献できるよう、霧とリボンさんにもご賛同頂きその絵の売上金をモーリシャスの地元で活動されている自然保護団体に寄付しました。
ささやかに続けていこうと思っていたその活動ですが、その後商船三井の立ち上げた莫大な保護基金により汚染自体はだいぶ改善されたとの情報を踏まえ、今回はある一枚の絵の売上金をモーリシャスを含め全ての自然や野生動物保護へと繋がる活動をされている自然保護団体へ寄付することにしました。人間が自然や野生動物の一部として共に生きる世界に少しでも近づいていくことを願っています。
彼方の鳥、ドードーへのあるささやかな返信として。
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