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[西洋の古い物語]「ダフネ」

こんにちは。
いつもお読み下さり、ありがとうございます。
今日は、アポロンから逃れて月桂樹に変身したニンフのお話です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

このお話は、ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』に収録されています。画像は、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ作の彫刻『アポロンとダフネ』(1622-25年、大理石、ボルゲーゼ美術館蔵)です。ダフネの指先や神が月桂樹に変わり始める瞬間を見事に表現しています。

 
「ダフネ」
 
昔々、輝く太陽の神アポロンが地上をさまよっておりますと、キューピッドに出会いました。弦を張った湾曲した弓を携えたキューピッドは、愛の矢で傷つけようと人間を探していたのでした。
 
「馬鹿な少年よ」とアポロンは言いました。「戦いのための弓なんかどうするのだい?そんな荷物は私の肩に最もふさわしいのだ。近づく者すべてを忌まわしい息で破滅させるあの獰猛な大蛇ピュートーンを私は殺さなかっただろうか。戦いの武器は強い者のためにあるのだ、お前のような子供のためにではなく!お前は、人間の胸に愛を灯す松明を持ち歩くがよい。だが、もう私の武器である弓を欲しがったりはせぬことだ!」
 
しかし、キューピッドは怒って答えました。
「アポロンよ、あなたの弓には何でも望むものを射させるがよい。しかし私の弓にはあなたを射させましょう!」
そして愛の神は立ち上がり、空中で翼をはばたかせながら、矢筒から2本の魔法の矢を引き抜きました。1本は輝く黄金の矢で、異なる色の矢尻がついておりました。その矢尻でキューピッドは愛の傷を負わせることができるのです。もう1本は鈍い銀の矢で、それがつけた傷は憎しみを生み出す力を持っておりました。
 
その銀の矢をキューピッドは、河の神ペーネイオスの娘ダフネの胸に打ち込みました。そのため、彼女は男性が住む所から逃げ、森の中で獣を狩っておりました。
 
キューピッドは黄金の矢でアポロンをひどく傷つけました。するとアポロンは森へと駆けていき、そこでニンフのダフネが鹿を追いかけているのを見ました。たちまち太陽神は彼女の美しさに恋に落ちました。彼女の黄金の髪は首元に垂れかかり、両の瞳は星のよう、姿はほっそりとして優美、そしてぴったりとした白い衣を身につけておりました。軽やかな風よりも速く彼女は逃げ出し、アポロンはその後を追いました。
 
「ああ、ニンフよ!ペーネイオスの娘御よ!」と彼は叫びました。
「止まっておくれ、お願いだから!なぜそなたは逃げるのだ?まるで子羊が狼から、鹿がライオンから、そして鳩が翼を震わせて鷲から逃げるかのように?私は身分卑しき者ではない!羊飼でもないぞ!そなたは知らないのか、慌て者の乙女よ、自分が誰から逃げているのかを。デルフォイとテネドスの神官たちは私に礼拝を捧げるのだぞ。ユピテルは我が父だ。

私の矢は的を違えぬが、キューピッドの狙いはもっと正確だ。彼はこの傷を私の心臓にもうけたのだからな!ああ!あわれな私!私こそ、癒やしの術を見出した偉大なる者であるのに、この愛は私の薬草でも私の医術をもってしても癒やされはせぬだろう!」

※デルフォイは、ギリシャのパルナッスス山の南斜面の聖地で、託宣で有名なアポロンの神殿がありました。また、テネドスはエーゲ海のダーダネルス海峡南方にある島で、トロイア戦争時のギリシャ軍の基地と伝えられます。
 
しかし、こうした言葉にも、ダフネは足を止めませんでした。彼女は怖びえた足取りで彼から逃げました。風が衣服をはためかせ、髪は軽やかなそよ風になびき、後ろに広がりました。アポロンは俊足で迫りました。あたかも鋭敏なグレイハウンドが怯えた野ウサギを追い詰めていくように彼は追いかけました。

震える足でダフネは父ペーネイオスの住む河を探しました。太陽神アポロンはすぐ近くまで迫っています。彼の息が髪にかかり、手が肩に触れるのを彼女は感じました。もう力尽き、蒼ざめた彼女は、かすかな声で河に懇願しました。
「ああ、お助けください、お父様。太陽神アポロン様から私をお救いください!」
 
彼女がこう言い終わらぬうちに、重苦しさが彼女の体をとらえました。彼女の胸は木の皮に覆われ、髪は伸びて緑の葉に変わり、両腕は枝になりました。ほんの少し前まであれほど素早かった彼女の足は地中に根付きました。ダフネはもうニンフではなく、緑茂る月桂樹の木となったのです。
 
このように姿が変わったのを見るとアポロンは大声をあげ、その木を抱きしめ、葉に口づけをしました。
「美しいダフネよ」と彼は言いました。「そなたが我が花嫁となることはかなわぬ。だが、そなたを我が神木となそう。これ以降、我が髪、我が竪琴、そして我が矢筒は月桂樹で飾られるのだ。そなたの葉の冠は凱旋の英雄や名誉と喜びの獲得者に与えられるであろう。そして、我が髪が一度も刈られたことがないごとく、そなたも緑の葉を冬も夏もまとうのだ、永遠に!」
 
アポロンが話すのをやめると、月桂樹は同意のしるしに真新しい枝をかがめました。幹は揺れ、葉は優しく呟いているかのようでした。
 
 
「ダフネ」はこれでお終いです。

ダフネがアポロンをこれほど嫌がって逃げ続けたのも、アポロンがダフネをこれほど執拗に追いかけたのも、すべて、愛の神キューピッドの矢のためでした。愛の神は小さな少年の姿で描かれることが多いですが、その力は人間だけでなくニンフや神々をも支配するほど強いのですね。

でも、アポロンのように「私は偉い神様なのだぞ。私のような者に愛されることを光栄に思うがよい」と、上から目線で言われても、全然嬉しくありませんよね。キューピッドの矢傷を受けていなくても、「断固拒否」です。
やはり、優しく、尊敬と思いやりをもって、愛し、愛されたいものです。

最後までお読み下さり、ありがとうございました。

このお話の原文は以下の物語集に収録されています。

次回をどうぞお楽しみに。

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