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[西洋の古い物語]「パン屋の少年」

こんにちは。
今回で50回目を迎えることができました。
いつもお読みくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
皆様が読んでくださることを励みに、これからもヨーロッパの古い物語をご紹介していきたいと思います。
どうぞよろしくお願い申し上げます。

今回は、いたずら小僧が機転をきかせて町を守る物語です。
ご一緒にお読みくださいましたら幸いです。

※ 画像は物語とは関係ないのですが、ベリーと蜂蜜のかかったパンケーキがあまりにもおいしそうなので、パブリック・ドメインからお借りしました。

「パン屋の小僧」

 昔々、ドイツの人々は、高い壁に囲まれた小さな町々に暮らしておりました。人々が町の回りに壁を築いたのは、他の町々と争いがあったためでした。壁は人々を敵から守っていたのです。

 高い壁の上には蜜蜂の巣箱が置かれることもありました。蜜蜂たちは壁の外の畑へと飛んでいって蜜を集めることができました。壁の内側の町には蜜を集める花があまりたくさんありませんでした。

 ある朝のこと、パン屋で働く二人の少年たちはおなかが空いていました。なにしろ朝早く起きなければなりませんでしたから。ちょうどおいしそうなロールパンが竈から取り出されたところでした。少年たちはロールパンに蜂蜜をつけて食べたらおいしいだろうな、と考えました。

「壁に登って、蜜蜂の巣箱から蜂蜜を少し取ってこようぜ」とジョンが言いました。
「でも、蜂に刺されてしまうよ」とジェームズが答えました。「それに、壁の見張りに見つかってしまうかも。そうなると厄介だぜ。」

 しかし、ジョンはジェームズを説き伏せました。二人の少年はお店を忍び出ると、通りを走って横切りました。数分後、彼らは壁の上へと上がる階段をこっそりと登っておりました。

 見張りの姿はありませんでした。多分、眠くなってどこかに寝に行ってしまったのでしょう。それなのに、どこからか音が聞こえてくるのです。少年たちは耳を澄ませました。しかし、音はやみ、静かになりましたので、彼らはそっと壁の上を進み、蜜蜂の巣箱のところまでやってきました。

 そして二人は顔を覆い、蜜蜂から彼らの宝物を奪う準備を整えました。ところが、ジョンが一つの巣箱の蓋を持ち上げようとしたとき、また聞き慣れない音がしたのです。ジョンは巣箱を大急ぎで手から離しました。

 音は壁の外側から聞こえてくるように思われました。二人が見回すと、少人数の兵士の一隊が見えました。それはリンツ(※現在のオーストリア中部の町)の兵士たちで、ジョンたちの町を攻撃にやってきたのです。

 最初、少年たちはひどく肝をつぶしました。しかし、町を救うために何かしなければならないことはわかりました。
「ジェームズ」とジョンは言いました。「あそこまで走っていって鐘を鳴らすんだ。僕はあいつらの頭の上に蜂の巣箱を落としてやる。」

 ジェームズは言われた通りにしました。ジョンは巣箱を壁越しに投げ落としました。それは敵の指揮官の頭の上に落ち、粉々になりました。こんなひどい目にあわされた蜂たちは怒りました。そして、兵士たちめがけて飛んでいき彼らの手や顔を刺しましたものですから、兵士たちはもう喜んで逃げ出したい気持ちになりました。

 続いて、一つ、また一つと巣箱が投げ落とされました。そして怒った蜂たちは敵の一隊をまるごと退散させたのでした。

 この頃には、鐘の音を聞いた人々が町の防衛のために集まってきました。しかし、軍勢は既に立ち去った後でした。二人の少年と蜂たちが町を救ったのです。

 二人は罰せられるどころか、人々は彼らの賢い行いを褒めました。そして、彼らを称える記念碑が建てられることに決まりました。

 少年たちの一人は後にこの町の市長さんになりました。もう一人はその当時一番有名なパン屋さんとなり、長くその名を知られることとなりました。

「パン屋の小僧」のお話はこれでお終いです。

 思いがけず何か恐ろしい危機に直面したとき、きっと私なら怖くて固まってしまうか、とにかくその場から逃げることばかり考えることでしょう。ジョンとジェームズのように勇気をもって機転を利かせることは、とてもできそうにありません。怖くても踏み留まって、今なすべきことは何か、自分に何ができるのかを考える勇気と冷静さを私も身に付けたいものです。

このお話が収録されている物語集は以下の通りです。


今回も最後までお読みくださり、ありがとうございました。
次のお話をどうぞお楽しみに。


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