【パブリックコメント】香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案 に対する反対意見

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例の素案が公開され、パブリックコメントが募集される事になりました。

※パブリックコメント...行政機関が条例等を決める際に、あらかじめその案を公表して国民から意見、情報を募集する手続きの事

香川県民兼ゲーム制作者として送らないわけにはいかない、と思い始めてこういったものを書いたので全文をここに載せておきます。これから何かの機会に書く方の参考になればと思います。

私のものはかなり長文ですが、原稿用紙1枚分もあれば充分なようなので「こんなに書かなければいけないのか...」と身構えなくて大丈夫です。書きたい事が沢山ある人や、この条例について意義を唱えたい人向けだと思います。


パブリック・コメントへの意見


香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案 に対する反対意見


私がこの条例に反対する理由は
「ネット・ゲームの利用時間を制限すべき人」と「制限する必要の無い人を明確に区別できる基準が存在しない からです。
これを中心としたいくつかの反対理由として
・ゲーム障害の基準が明確ではない
・娯楽・趣味の時間を制限する事は憲法違反である
・「制限する必要の無い人」が不利益を受ける
の3項目、

ではどのように対応すれば良いのか?
これについての提案として
・利用を制限する事だけが対策ではない
・他のコンテンツをゲームのように魅力的にするべき
の2項目で私の考えをパブリック・コメントへの意見としてお伝えします。


●ゲーム障害の基準が明確ではない

本条例には

"世界保健機関において「ゲーム障害」が正式に疾病と認定されたように、今や、国内外 で大きな社会問題となっている。 " 

と記載がありますが、ゲーム障害そのものの基準が曖昧であり多くの専門家からも疑問の声があがっています。
※根拠となる記事(※下記のリンクから記事のページへ移動できます)

「ゲーム障害」は本当に疾病なのか? WHOの認定で巻き起こる論争
WHOのゲーム障害定義は「時期尚早」 専門家らが懸念

ゲーム中毒になっている人の割合は調査結果によって0.5%以下から50%近くまで見過ごせない程のバラつきがあります。
本条例の冒頭には

"インターネットやコンピュータゲームの過剰な利用は、子どもの学力や体力の低下のみなら ずひきこもりや睡眠障害、視力障害などの身体的な問題まで引き起こすことなどが指摘されており"

とありますが、これらの根拠も記されておらず定かではありません。
専門家が納得できる調査結果や裏取りが無ければ、「ゲーム障害」という言葉の意味自体があやふやなままです。
※ここでの専門家とは依存症対策のみならず、ゲーム開発・体力づくり・ひきこもり・眼科といった素案の内容に記されている幅広いジャンルそれぞれの専門家の事を指します。

つまり、明確な基準が定まっていないゲーム障害を根拠に条例を作る事自体が不適切です。
このまま条例を通してしまうと「ネット・ゲームを制限する必要の無い大多数の人」が不利益な制限を受ける事になりかねません。


●娯楽・趣味の時間を規制する事は憲法違反である

ゲームとは娯楽・趣味です。趣味に多くの時間を割こうとするのは至極当の事であり、趣味に使う時間も人によって様々です。本条例では

"コンピュータゲー ムの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が 60 分まで(学校等の休業日にあっては、 90 分まで)の時間を上限とすること"

としていますが、これは趣味をゲームとする子供達にとって
「子供が趣味に使う時間は平日60分まで、休日90分まで」と制限しようとしている事になります。

趣味の時間に制限をかける事は道徳的におかしな話であり、憲法13条の幸福追求権に違反している危険があります。

憲法第13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


●「制限する必要の無い人」が不利益を受ける

条例には

"子どもの安心感 や自己肯定感を高めることが重要であるとともに、社会全体で子どもがその成長段階において 何事にも積極的にチャレンジし、活動の範囲を広げていけるようにネット・ゲーム依存症対策 に取り組んでいかなければならない。"

とあります。
この文の意図は「ネット・ゲームばかりに時間を割くのでは無く、学習やスポーツといった他のものに触れる機会を増やして欲しい」といったものだと推測します。
しかし、自身の趣味を否定された子供が自己肯定感を高めることができるでしょうか?
何事にも積極的にチャレンジし、活動の範囲を広げて欲しいのにネット・ゲームと触れる選択肢を奪って良いのでしょうか?

制限する必要の無い子供達にとってネット・ゲームは「新しいものに積極的にチャレンジし、活動の範囲を広げる機会」そのものです。
日常生活の様々な場面に溶け込む程に発展したネット・ゲームに触れておくという経験はあらゆる場面で役に立つ可能性を秘めています。
ゲームをプレイする経験が役に立つ一例として、コミュニケーションツールとしての利用・学習ツールとしての利用・トレーニング器具としての利用・eスポーツ等が挙げられます。

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一般社団法人日本eスポーツ連合オフィシャルサイト

コミュニケーションを取る機会・勉強や身体を動かす事を好きになるきっかけ・職業の選択肢と、ゲームが与えてくれる恩恵は多岐に渡ります。
このように幅広く活躍しているジャンルに触れる機会を「制限する必要の無い人」が奪われる事は大きな不利益になると言えます。
本当に対策が必要な人以外から、人生における選択肢を奪われる事があってはなりません。

・利用を制限する事だけが対策では無い

日常生活がままならない、かつゲームを長時間プレイしている人は確かに存在しています。
しかし、彼らからゲームを取り上げたところでその時間を日常生活に使う根拠は全く有りません。
必要なのは「日常生活を行いやすい環境を整える事」であり「選択肢を減らすのではなく増やす事」にあると考えるのが本来のあり方なのです。

本条例ではネット・ゲームに依存している理由を「依存症のせい」としていますが、ゲーム障害の定義が曖昧な事からも他の可能性の検討が不十分だと考えられます。
もう1度本条例の序盤の文章を引用します。

"インターネットやコンピュータゲームの過剰な利用は、子どもの学力や体力の低下のみなら ずひきこもりや睡眠障害、視力障害などの身体的な問題まで引き起こすことなどが指摘されており" 

子どもの学力が低い原因を極端に言えば「勉強をしなかった」からであって、ネット・ゲームに時間を使っていようが家の手伝いをしていようが「勉強しなかった」事実は同じです。
「学力や体力の低下」「引きこもり」「睡眠障害」といった個々の問題とインターネットやコンピュータゲームの過剰な利用を結びつける根拠が不足しています。
ならば、個々の問題についてネット・ゲーム依存以外の「そうなるに至った背景」について充分に検討し、それぞれに必要な対策を施す必要があります。

・「そうなるに至った背景」検討して「選択肢を減らすのではなく増やす」例
「引きこもってゲームばかりしている人がいる」という言葉だけを見ると、ゲームに夢中になるあまり他の事が手につかないように見えます。
しかしこれは、当人の引きこもった後の状態しか見れていません。「そうなるに至った背景」を考えてみると、いじめを受けて外に出る事を恐れたのかもしれませんし、
外に魅力的なレジャー施設が無くて外出したいと感じないのかもしれません。車椅子なのにバリアフリー化が進んでおらず室内で遊ぶ事を選んだのかもしれません。
この場合「ゲーム障害」という根拠が不安定なものよりも、確実に起きている「引きこもり」に焦点を当てて調査を行い、背景にいじめが確認されれば 安心してコミュニケーションが取れる
学校や職場の環境作り、 車椅子で外出しにくい現状が確認されればバリアフリー化を進めて外出しやすい環境を整える、等が目に見えた対策の例として挙げられます。
その結果として「ゲームをプレイする」以外に「外出する」事が選択肢として加わり、日常生活が送りやすい社会になると考えます。

つまり、単に利用を制限するだけが対策では無く、背景にある社会的問題を見極めて失われた選択肢を取り戻す事こそが国や県が行うべき対策だと言えます。
必要とされているのは「依存症対策」では無く、「人権を取り戻す事」です。

法務省:主な人権課題

「人権」とは「すべての人々が生命と自由を確保し,それぞれの幸福を追求する権利」


・ 他のコンテンツをゲームのように魅力的にするべき

ゲームは「いかに楽しんでもらうか」に関して非常に研究の進んでいるジャンルだと言えます。
その為多くの人が夢中になり自由な時間をゲームに当てる事を楽しむ人々が増え、業界は発展していきました。
ゲーム開発に携わる者の目線からすると、義務教育の知識を身に付ける事や身体を動かす事に関してももっと「いかに楽しんでもらうか」に力を入れるべきだと感じます。
「いかに楽しんでもらうか」のノウハウを取り入れ、勉強を楽しくできれば学力の向上、政治を楽しくできれば選挙での投票率の向上など様々な効果を期待できます。
例えば、人は「制限される・やらされている」と感じる事よりも「選択肢がある・自分の意志でやっている」と感じる方が意識も幸福度も高いです。
その為「宿題を何通りか出して好きなものをやって貰う」「納税額の多い人は一部の使い道を自分で指定できる」といった施策を行い
「ゲームの選択肢を与えるノウハウを活かして社会を楽しくする」といった活かし方ができます。
これこそが条例で記されていた「自己肯定感を高める」 「何事にも積極的にチャレンジし、活動の範囲を広げていける」事に繋がる事なのではと考え、提案させていただきます。


・最後に

私以外にも反対意見を送った方は大勢いるかと思います。
今一度県として行うべき施策はどういったものか、国民や県民の声をよく聴いた上で、条例を制定する際は複数の専門家を交え、根拠のあるデータを元に考えていただきたいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

氏名:●●●●(●●● ●●)
年齢:●●
住所:〒XXX-XXXX
   香川県●●●●●●●●●●XXXX-XX
電話番号:XXX-XXXX-XXXX

事業者名:RinG(アリンジ)
記入担当者名:●●●●(●●● ●●)
所在地:〒XXX-XXXX
   香川県●●●●●●●●●●XXXX-XX
電話番号:090ー7572-7490
事業内容:XXX-XXXX-XXXX

今回のパブリックコメントでは提出方法として「郵送」「持参」「FAX」「電子メール」の4種類が用意されており、私は電子メールで提出しました。意見の提出方法や、氏名等を記載する必要がある旨が国や県のホームページに記載されているので、意見を寄せる際にはそれぞれよく確認するようにしてください。

香川県のパブリックコメント募集ページ

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