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わ、私、遠藤さくらの大学デビュー!!…です……。


夢に見たキャンパス


憧れていた、大学生活


新品のスーツ


ここから、新しく私の大学生活が始まるんだ…!!


そんな風に意気込んで、入学式が行われる講堂に向けて石段を歩み始めたのも束の間


パキッ…という音とともに、右側に私の視線が傾いた。



『ふぇ…?』



嫌な予感しか、しない。


恐る恐る右脚を見ると、買ったばかりのはずのヒールが折れていた。


『えぇ〜……なんでよ。…どうしよ…』


キョロキョロと、不安そうに周りを見回すけれど、ガヤガヤとした中で、見知った顔なんて見当たらない。



すると、ドンッ…と、後ろから来た人にぶつかる。



『あ、あ…ごめんなさい。』


「いって…こんな所で立ち止まったら危ねぇよ。」



投げかけられた捨て台詞。

もう、私の心までパキって、いった気がするよ。



ひょこひょこと間抜けな歩き方で右足のヒールをかばいながら、私は大学のメインストリートから外れたベンチに腰を下ろした。



『…どうしよう…お金もないし…替えなんて持ってきてないし…』



惜しむらくは、母親を連れてこなかったことだろう。


母親は娘の入学式に嬉嬉としていたが、さすがに大学生にもなって一緒に入学式に行くのは恥ずかしいから!と、門の前で記念写真だけ取って、帰らせてしまった。



『…電話して、帰ってきて貰おっかな…それか、お金さえあれば…購買部とかに売ってないかなぁ…』



ブツブツと呟いていると、目の前を同じ新入生と思われる女の子が通り過ぎて行くのが目に止まった。



『あ…あの……!!』


『…ん…?』


『あの…すみません……その…ヒール…折れちゃって……後で必ず返すので、少しだけ…お金貸して貰えませんか…!!わ、私…文学部1年の遠藤さくらです…!!』



藁にもすがる思いで、声をかけた子は、キリッとした出で立ちと、濃ゆい目元に、綺麗なロングの髪がよく似合っていた。



じろり、と私を私を上から下まで見回すと、ただ一言



『やだ。』

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と、吐き捨てて、スタスタと歩いていってしまった。



『ふぇえ…』



うわぁ、顔にピッタリの性格してるよぉ…



てか、この大学何か…冷たい人多くない。


名古屋から心機一転、状況したはいいものの…こんなに都会が冷たいなんて…



『…あぁ……友達できるのかなぁ…』



というか、そんなことより目先の入学式だ!と、ハッと気がついて、私は諦めて左右高さの違うヒールで向かう決心をした。



ひょこひょこと、変な歩き方をしている私に注がれるのは、好奇の目。


そりゃそうだよ、私が逆でもそうだもん。



そんな中でふと、1人の男の人に声をかけられた。



「…ねぇ…君、大丈夫…?」


『…え…私…?』



「…うん、明らかに、君。」



パッと、顔を上げるとそこには私と歳があまり変わらなそうで、そして失礼極まりないが私と同じ田舎者の匂いがする人が立っていた。



『…あ…あはは……ちょっと…ヒール折れちゃって…』


「…そっか。…何センチ?」



『あ、163cm…この前測った時は4です。…でも伸びてるかな…どうだろう……伸びてますかね?』



「…いや…あの…」



『ふぇ?』



「…足の…サイズだよね…この場合は」



確かに。


指摘されて一気に顔が熱くなる。

恥ずかしすぎる。てか、伸びてますかねって、知るわけないですよね。ごめんなさい。


『…3.5です……あ、23.5です…163.5じゃないですぅ…』



「…わ、分かってるよ。」



明らかに困惑しているお兄さん。変なやつ捕まえちゃったって感じですよね。えぇ、変な子です私は。ナンパはよそでやってください。



『し、失礼します!!』


そう言って立ち去ろうとした私を、引き止めて



「あ、ちょっと待ってて、すぐ、戻ってくるから!!」


と、少し離れた場所にいた女の人の所に走っていく。



そして何やら2言、3言交わした後、お兄さんと話していた女性と共にどこかへ向かってしまった。



またもやポツンと、大学の構内で取り残されてしまった私。俗に言うボッチだ。多分国語辞典でボッチって引いたら、例文で私が出てくる。



『…ほ、放置ですか…。この大学って…この大学って……』



と、涙が溢れそうになった矢先、お兄さんは私のもとに走ってきた。



「はい…これ。…サイズ一緒だと思うよ。」


差し出された紙袋を覗き込むと、黒のヒールが入っていた。



『え、え…こ、こんなの受け取れません…知らない人に貰うなんて』


「いや、あげるなんて言ってない…終わったら…今度返してよ…」



『あ、…そ!そうですよね…お兄さんも履きたいですよね…』



「……ん。」



『…ん』



「いや、これ…先輩の借りただけだから。就活で使ってたの、たまたま持ってきてたやつ。」



…そうか。だから、あのお姉さんと話してたんですね。さくら、反省します。


今は多様性を認める社会なので、そういう趣味も、アリだと思ってしまったのです。



『あ、ありがとうございます…!!必ず…必ずや返しますので…!!』



突如あらわれた救世主のお兄さんに深く頭を下げると共に、有難く履き替えさせてもらう。


サイズはピッタリ、まるでシンデレラ。



「お礼は、俺より、先輩に言って。」



お兄さんが指さした方を見ると、先輩と呼ばれている女性と目が合ったので深く頭を下げる。


すると、先輩は凄く満面の笑み、かつ素敵な表情で大きく両手で丸を作ったあと、グーサインをしてくれた。




『あの先輩…かっこいぃ……!!』

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あぁ、私、この大学に入ってよかった…こんなにいい人達がいるんだ。



『…あ、やばい…!!式始まっちゃう…!!』



「俺らこの辺いるから、式終わったらまたおいでよ。」



『ありがとうございます!!』



一目散に、私は入学式へと走り出した。



ヒールが折れてなければ、私はきっと全く違った人生を歩んでいたんだろう。



私の運命を変える出会いが、これだったなんて、この時は思いもしなかったのだけれど─────





す、凄い…


凄いです。


遠藤さくら、18歳。未知の世界に足を踏み入れました。


これが噂に聞く大学生…ですか…。



「2人寄り添って、歩いて!!永久を愛のカタチにしてぇ…!!」



広めのカラオケボックスで大きな音で鳴り響く、名曲、キセキ。



回されていくマイクに、並々に注がれたお酒。



おじいちゃん、出てきたら、飲むなんて初めて知りました。


というか、御手洗行って帰ってきたら飲むですね。


愛知の高校にはない文化です。(注:お酒は20歳になってから!!)



1杯だけ飲んだお酒は、甘くて美味しくて、ちょっと顔がポカポカします。クラクラします。


ふわふわふわふわして、何だか楽しくなっちゃいます。



なんて考えてた時、ふと、〇〇さん(連絡先を交換しました!)が耳元で囁きました。



「遠藤さん…席、変わって。」



『ふぇ…なんでですかぁ…』



「ちょっと汗かいちゃって、ここ暖房が直で当たって暑いんだよね。」



『えぇ、暖かいのにぃ…いいですよぉ…』



そう言って席を代わって、手拍子をしながら、生ぬるい暖房の風を受けつつ、私はゆっくりと意識を手放した。



気持ちいい睡魔に襲われながら、私が最後に見たのは、〇〇さんが歌いながら、画面に映ったおじいちゃんを恨めしそうに見つつ、ジョッキを一気飲みしてる姿だった。




頭に響く鈍痛と共に目を覚ますと、私はまだ1度しか寝ていない新居のベットの上に寝ていた。



寝ぼけ眼で当たりを見回すと、また荷解きが終わっていないダンボール達と共に、とあるものが視界に入る。



あれって…



『きゃああああああああああ!!!!?』



私の叫び声に、ビクッとして、壁に持たれて寝ていた〇〇さんが目を覚ます。



「な、何!?」



『〇〇さん…!?何してるんですか…ここ私の部屋ですよ…!!』



「ま、まって…遠藤さん…落ち着いて…!!とりあえず携帯おいて!!」



『置きません!!呼びます!!今すぐ呼びます!!』



「だ、だから誤解だって…!!てか、119番してどうすんの!!救急車じゃなくて、110番でしょ!?」



『ふぇ…あ、そ、そうでした!!』



「ってかやめて!!昨日カラオケで遠藤さんが寝ちゃって、そのまま寝ぼけて帰れなかったから送っただけ…!!何もしてないから…!!」


『ど、どうやってここが分かるんですか!!ストーカーですか!?』



「いや、遠藤さんが出したサークルの入会届け見ただけだから…!!…ま、まぁ…それも悪用っちゃ悪用だけど…」



『か、鍵は!!』




「こっちのセリフ!!締めて出るようにしなよ!!危ないから!!」



『あ、開いてました…?』




「…開いてました。…不用心だよ、女の子の一人暮らしなんだし…それに、遠藤さん可愛いんだから…」




その言葉に、キュンとする。


遠藤さくら、恋を知る、の巻でしょうか。



『…へ…えへへ…』



「うわっ…何か…似てる。」



『…え…似てる…?』



「あ、いや。なんでもない。てか俺も気がついたら寝ちゃってた、ごめん!!帰るね!!」



そう言うと慌てて荷物をまとめて、〇〇さんは玄関に向かった。



『え!あ…あの…!!』



「うわぁ…やべぇ…めちゃくちゃ電話来てる…。…あ、何かあったらいつでも連絡してね。…あと、この先輩の靴、持って帰るから!!」




『あ、は、はい……!!』



ドアを開ける直前、〇〇さんは振り返って、いった。






「遠藤さん、映画研究サークルにようこそ!!」






『…ふぇ…?』

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映画研究…サークルとやらに、私は入部してしまったそうです。



映画を見た記憶は、ないんですけれど…。






ゆーっくりと、ドアを開ける。


よし、よし…まだ寝てるみたいだ。



バレないように、横で寝よう。夜には帰ってきたことにしよう。



そっとスニーカーを脱ぎながら、ヒールを下足入れに片付けると、俺は愛しの彼女がいるベットに潜り込んだ。



静かに寝息を立てている姿がいじらしい。横を向いている彼女を後ろからだく形で、眠りにつく。


「…あったかいぃ…暖かいし、柔らかいぃ…」



『ゆっくり寝られそう?』



「うん、ゆっくり寝られそう…」



そーっと、意識を手放して、瞳を閉じた時、違和感に気がつく。…あれ?



パッと目を開くと、目の前には、それはそれは鬼の形相をした…



『だれが鬼だって?』

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「…いえ、姫です。」



『今から、…おやすみ?おはよう…?どっち?』



「も、もちろん…おは…!!」



『…嘘ついたら、…〇すよ?』



「……おやすみ、です。」




『へぇえええ、今、何時?』



「…7時」



『随分と、遅いお休みだねぇ…昨日は、何してたのかなぁ…』



「いや、分かるでしょ…新歓だよ…」



『ふーーん。私も行けばよかったかなぁ!!』



「…絵梨花はもう追いコンしたし…」



『あーーー!追いコンした彼女がもう居ないうちに、そーやって新歓で、朝帰りとかしちゃうんだーーーー、へーーーーーーぇ!?いい先輩だねぇーーーーーー!?』



「いや、…その…ごめんなさい…」




『…で、本当は?』



「…新歓コンパ…」



『なら、電話出れないわけないよね。…どこに居た、吐きなさい。』



「あー…その…カラオケで…うるさくて」



『…昨日は3時に解散しましたって…後輩から、LINE来てるけど。二次会でもあったんでしょうか?』



「……潰れた1年生を…送って…」


『送って…?』



「…そのまま、そこで…寝てました。」



『1年は、オス、メス、どっちや。』



「オスメスって…」



『あん?』



「…め、メスです。」



『はい、〇刑。』




「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ、じょ、情状酌量をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」




その後、どんな拷問を食らったかは、遠藤さんは知る由もない──────────




『みんなも、浮気☆ダメ☆絶対☆だそっ!!』

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fin.








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