のんべんだらり。
いつだって目覚ましの音は不快で、何度聞いても耳馴染むどころか逆撫でる。
ピッ…ピッ…ピッ…
ピピっ…ピピッ…ピピッ…
ピピピピピピ…!!
「あー、もう…!!」
起きなければならないから、と勝手にセットして
起こしてあげたにもかかわらず八つ当たりをされる目覚まし時計はさぞ不憫だ。
それでも八つ当たりをしたくなる。
もう起きないといけないタイムリミットの目覚ましだ。
何度目のスヌーズか。
「…はぁ…絵梨花さん…起きて、絵梨花さん」
ゆさゆさと体を揺する。緊張の一瞬。
なぜなら彼女は寝起きがあまり良くないから。
いつしか生田先輩、生田さんを経て下の名前で呼ぶようになったのは、お互いの距離感の接近を証明し
そしてそんな信頼した相手にだからこそ、絵梨花さんが寝起きの悪さをさらけ出すようになってしまったのも、また事実だろう。
『ん…んぅ…〇〇ぅ…』
珍しく寝起きにしては甘ったるい声を発した彼女に、すぐさま異変を感じる。
あら、もしかして…
確かに、思えばそろそろか。
そんなことを考えているうちに手を握りしめられる。
「…絵梨花さん…もしかして…」
『…ぅん…ごめん…』
「謝ることじゃないよ」
みなまで言わせるつもりもない。
俺はゆっくりと布団に身を戻した。
『…〇〇…今日…経営学の日じゃん……』
「いいよ、サボろうと思ってたから。…ゆっくりしようか」
『……スキ…』
絵梨花さんは、その日になると少しだけいつもと違う甘えん坊になる。
トロンとして、少し気だるげで
それでいて、何だか色っぽい表情の絵梨花さんを撫でると、俺はもう一度布団の中で強く抱きしめた。
⊿
絵梨花さんはもともとスキンシップが多いが、それは言うなれば理性の延長線上と言える。
例えば日頃するのは、パイパニックを含めて「もっと私を見ろ!相手しなさい!」という明確な意図を持ったスキンシップだ。
絵梨花さんは非常に頭がいいから、行動のひとつひとつに意味があることが多い。(深夜の熱唱リサイタル等は例外)
ただ、こういう日の絵梨花さんのスキンシップは少しだけ違って
意図とか、目的なんてない。
まさに本能で、己が欲するがままに動く。
「…絵梨花さん」
『んひゃい…』
「…耳たぶかじらないで」
『…うー…』
不機嫌な猫のような鳴き声を発すると、渋々といった感じで今度は首元を吸い始める。
「…んっ…」
『…へへぇ…えっち…』
嬉しそうに甘ったるい声を出しながら首筋にキスマークを増やす絵梨花さん。
俺はただただ甘美な電流が首筋を伝うことに堪えていた。
こんな日、少しだけ絵梨花さんは猟奇的になるんだ。
⊿
もうひとつだけ、絵梨花さんがいつもと変わることがある。
それは、
『…ねぇ、私の事、スキ…?』
「…好きだよ。」
『ホント…?居なくなったりしない…?』
「しないよ。」
『…どこが好き…?』
「…全部好きだよ。絵梨花さんだもん。」
『…約束だよ。…絶対の絶対、結婚してね。』
絵梨花さんは、ほんの少しだけ、ネガティブになる。
いつもの自信満々で、ポジティブシンキングな絵梨花さんを見ていると驚くだろうが
俺はこっちが本来の絵梨花さんだと、そう思っている。
「…大好きですよ。…ずっと。」
『…ありがと…私も、大好きだよ…』
満足したように、絵梨花さんはゆっくりと眠りに落ちていった。
その細くて白い四肢を、俺の体にキツく巻き付けたまま。
そんな蕩けるような束縛を味わいながら、
俺はゆっくりと絵梨花さんをおって夢の世界へと進んでいく。
のんべんだらりとした、午後の事だった。
fin.
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