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関西弁と東京と息子

6年ほど前のこと。会社勤めの長男が東京本社に転勤になった。それまでも大阪でひとり暮らしをしていたのだが、大阪にいるときは、ひとり暮らししてるとこ見てみたいと言っても、嫌や、とか、なんの必要があって?とか言って、ぜったいに訪ねさせてくれなかったのに、東京へは、遊びがてら来たらええやん、と快く承諾してくれたのだ。

私は東京へはほとんど行ったこともなく、ましてやひとりで行くなど、不安が大きい。住んでいるのは新宿区だと言う。新宿と聞けば、歌舞伎町しか思い出さない私は、どんなとこなんやろう?と、ネットで調べまくった。今はなんとも便利で、息子の住むマンションは閑静な住宅街にあることもわかったし、マンションの外観も、出入り口に自動販売機があることもわかった。

出かける前に、乗り換えの駅、電車、ホームまで調べまくって、これで大丈夫、と思っていたのだが、やっぱり駅員さんに聞かなくてはわからないことがあった。ふだん関西弁(まあ正しくは京都弁なのだが)丸出しの私だが、東京では標準語を使うぞと心に決めていたにもかかわらず、最初の「すみません」のひと言が、「すいませーん」と完全な尻上がりの関西弁のイントネーションになってしまった。やっぱり無理やったか。

そうこうして、長男の住むマンションに着いて、これから東京観光に行くのかなーなんて思ってたら、俺これから美容院行くし、とか言って出かけてしまうし、帰ってきたと思ったら、夜になって何と高熱を出し、40度にもなった。見知らぬ土地で、なんとか夜間救急で診てくれるところを探し、タクシーを呼び、病院へ向かった。これがまたドラマに出てくるようなところで、救命救急の病室からはピコンピコンと音が聞こえてくる。夜間にも関わらず大勢の患者さんが待っていて、やっと診察の順番が回ってきたけれど、検査結果が出るまでに小1時間待ち、ようやくまあ風邪かな、みたいな感じで薬をもらった。

結局、次の朝には熱も下がってきて、そんなに心配はいらなかったけど、1日中どこにも行けず、消化のいいものを食べ、あとは寝るだけの息子の横で漫画を読んで過ごした。そして次の日は、息子は仕事へ、私は帰らなければならず、息子といっしょに部屋を出て電車に乗った。電車の中で、
「お母さん、何か悪かったなあ、せっかく東京来たのにどっこも連れて行ってあげられんかったなあ」
と言う息子に、東京タワー行きたかったな、と思いながらも、
「いやいや別にいいんやで。どんなとこに住んでるか見たっただけやし。それにたいそうな病気でもなくて、熱下がってよかったわ」
と返した。息子は、自分は次で降りるけど、お母さんはどこどこで乗り換えて、ちゃんと新幹線乗りや、出口は右やで、とか慣れた様子で道案内してくれるので、
「あんたも東京に慣れたもんやな」
と言ったら、
「僕ももう東京の人になっちゃうかもね」
とドヤ顔で言ったけど、あんた、イントネーションが完全に関西弁やで。笑うわ。

そんな息子も東京に住んで早6年。結婚し、家を買い、子どもも生まれた。本人は東京の人になってるつもりだろうけど、あいかわらずの関西弁で子育てをしている。関東生まれのお嫁さんのほうが、妙な関西弁のイントネーションになっているくらいだ。



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