黒字経営のゲストハウスをつぶす理由
こんにちは、吉岡拓也です。(@riseyoshioka)
(2021/9/19時点で、211人もの人に購入して頂いています。)
ぼくにとってのゲストハウス1号店であるGood Neighbors Hostel(グッドネイバーズホステル)を、2018年12月末で閉店することにしました。
2015年5月に開業したので、約3年半の営業となりました。
このエントリーでは、なぜ黒字経営なのに閉店することにしたのかを、以下の3点に絞って振り返りたいと思います。
また巻末に有料(4,980円)ですが1年間の損益計算書を掲載しています。これからお店を作る方は、参考にしてください。
2020/5/8追記 - リニューアルしてどうなった??
巻末にリニューアルした店舗の収支を追加しました。合わせてその感想も加えました(2,200字追加)。noteの金額も1,980円→2,450円に値上げしました。
興味ある人だけ買ってください。
2021/6/22に再追記 - 再々リニューアルしてどうなった??
2021年5月、この宿が再び生まれ変わりました。コロナ禍で世の中が急速に変化する中での、次なる打ち手です。
この宿ツイートなのですが(めちゃバズりました..)。6年間で3度目の改装です。このリニューアルも、以下の項目に沿ってご紹介します。
またバズツイート経由でどれだけ売上があがったかも暴露しますね。
(5864文字追記)
noteの金額も2,450円→4,980円に値上げしました。
それでは、いきます。
①なぜ黒字経営のゲストハウスなのに閉店するのか?
現在、弊社(合同会社グッドネイバーズ)は金沢市内で4軒の宿泊施設とトラベラーズラウンジを運営し、来年はさらに管理物件を増やし、かつ新規事業にもチャレンジする予定です。
すべての始まりは1号店のグッドネイバーズホステルであり、会社の原点です。潰してしまうのは、非常に悔しいし残念です。
それでも決断しなければならない理由があったわけです。
ゲストハウスを閉店する理由は1つしかありません。
-利益が出ないから
(そして良くなる見込みがないから)
当たり前ですが、ゲストハウスを経営する目的は営利目的です。
趣味ではありません。
利益が出なくなったビジネスを続ける理由は一つもありません。
幸いにも、利益が出なくなったとはいえ開業以来一度も赤字になったことのない、可愛くてできの良い我が子です。
なんとかして運営を続けていこうと思ったこともありました。
それでもやっぱり閉店しようと思ったのは、これ以上良くなる気配がないから。むしろ今後間違いなく利益は減り、近い将来赤字になると予想します。
ホテルビジネスは、物件ありきです。
3年半も営業していると、建物の至る所で不具合や修繕が必要なところが出てきます。
とくにグッドネイバーズホステルの建物は築50年の古いもの。
だましだまし営業できる部分もありますが、気になる箇所を把握しているにも関わらず、ゲストを受け入れるのはやはり気が引けます。
かといって、それなりの投資を再度行い、建物を修繕するだけのリスクを取れません。
新しいホテルやゲストハウスが次々と誕生して、マーケットが急速に変化しているからです。
ぼくがゲストハウス事業を行なっている金沢では、北陸新幹線開業以降、訪日外国人を含めた観光客が激増しました。
それに伴いホテルやゲストハウスも乱立しています。
2020年には、金沢のホテル客室数が名古屋の客室数を超えるそうです。
完全に需給が狂ってますね。
特にこの1年で客室数100を超えるホテルがどんどん開業しています。
また来年にも開業を控えているホテルも多数あり、正直旅行者が増える速度以上に客室数が増えています。
供給が需要を上回った際に起こることはただ一つ。
料金値下げ合戦です。
グッドネイバーズホステルのような小さい宿(定員25名)では、この叩き合いに参加できるほど下値の余裕もなく、また高値で踏ん張れるほど設備が整っていないのです。
②実際の売上と利益はどうだったか?
ゲストハウス事業が儲からないと思ったことは一度もありません。
むしろ開業場所とタイミングさえ間違わなければ、非常に利益率の高いビジネスです。
実際、グッドネイバーズホステルを開業して3年半、単月で一度も赤字になっていません。
特に開業後2年間は競合の数も少なかったことから、年間の稼働は8-9割を推移。何気ない平日でも満室が続くこともあり、予約をお断りすることが何度ありました。
ここでざっくりですが、グッドネイバーズホステルの売上を明かしてみます。
この売上から家賃や光熱費、人件費、備品消耗品、減価償却費などのコストを引くと利益になります。
どれくらい利益が残るか、想像してみてください。
<<詳しくコストや利益を知りたい方は、有料で巻末に掲載しています>>
直近1年間の損益計算書です。(各項目について追記もあります。)
ここ1年の売上は、数年前と比較してマイナス20-30%になってしまいました。稼働率は75%です。
上述したように、近年のホテル・ゲストハウスラッシュにより、稼働率が落ちただけでなく、単価も急激に下がっています。
3年前はドミトリー1泊が2800円前後で売れていたものが、いまでは30%下げた2000円です。
③閉店後どうするのか
マーケットのことをいくら愚痴っても未来は拓けないので、ここからは次の展開の話です。
グッドネイバーズホステルとしての歴史は幕を閉じますが、新しい形として再オープンさせます。
要はリニューアルして、新しい宿になります。
思い切って、名前も変えます。
来年の1月から1ヶ月ほど改装&模様替えし、2月に再オープンです。
何が変わるかというと、
①ドミトリーを廃止します
現在のグッドネイバーズホステルには、ドミトリーが2部屋あります。
8人部屋の男女共用ドミトリーと6人部屋の女性専用ドミトリーです。
このドミトリーをやめ、それぞれ定員6人と4人の個室にします。
グループや家族が安価に泊まれるグループルームです。
②無人にします
現在、夜間を除いてスタッフが常駐していますが、リニューアル後は無人化します。日中の掃除の時間だけ、掃除スタッフが館内清掃を行います。
チェックインは、金沢駅前に2018年9月からオープンさせたトラベラーズラウンジ 「TRAFFIC」 で行います。
このTRAFFICは、もともと僕たちの会社が運営する各施設の総合受付として生み出したものです。
グッドネイバーズホステルも金沢駅徒歩3分と駅至近なのですが、TRAFFICはさらに近いです。
電車やバスを降り立ったゲストがサクッとチェックインを済ませ、ついでに朝食やカフェも利用して、のんびりくつろいでいけるような場所になればいいなぁと思っています。
グッドネイバーズホステルはこぢんまりとアットホームな雰囲気がそれはそれで良かったのですが、共用スペースが狭く、ゆったりと過ごすのはちょっと難しかったんですね。
この機能をTRAFFICが請け負うことで、ゲストにはまた新たな滞在の楽しみ方を提供できると考えています。
③全予約事前決済(キャッシュレス)にします
全ての予約を事前決済で受けます。
現金で支払いを希望の方はお泊まりいただけません。
ドミトリーを廃止することで、宿泊ターゲットが外国人や、主に30歳オーバーの日本人に限定されることになり、事前決済に抵抗のない層だと考えています。(日本人の若い子は、結構クレジットカード持っていない人多いんですが)
宿泊予約サイトは、全て事前決済の設定に変更します。
唯一、現地決済を受けてしまうBooking.comについては、クレジットカード登録を必須にし、宿泊日が近づいたタイミングで引き落とす予定です。
これで面倒なお金のやり取りはなくなるし、ノーショー(ドタキャン)が発生した際に宿泊料金を取りっぱぐれる可能性がなくなります。
余談ですが、この布石として、予約管理システム(PMS)はクレジットカード管理に強い「Beds24」というシステムに全施設乗り換え済みです。
詳しい説明はここでは省きますが、Booking.comという予約サイトの雄の恩恵を最大限に活かしながら完全事前決済化を実現する上で、Beds24導入は個人的には現時点では最強の選択だと思ってます。
とりあえずの変更は以上の3点ですが、これからの時代の変化とともに、少しづつAI端末を取り入れることでゲスト満足度を高めたり、スマートロックを導入することでさらにチェックインを楽にしたりと、ホテルの実験棟のような場所にしたいとも考えています。
皮算用ですが、これらの変更により
-売上は少し減り、
-コストはかなり減り(特に人件費)
-管理コスト(採用や教育、シフト組み)も著しく減り
全体として残る利益は増え、かつ運営が楽になる予想です。
悪くなる前に見切りをつけて、新しいビジネスモデルで再チャレンジです。
さいごに
金沢という土地柄もあるかもしれませんが、グッドネイバーズホステルの宿泊ゲストは多様性に富み、欧米の国をはじめ実に74の国から泊まりに来ていただきました。
この写真に代表されるように、グッドネイバーズホステルはゲスト間の距離が非常に近いゲストハウスでした。
知らない人同士が自然に声をかけ、また新しい人が加わり、いつの間にか大きな人の輪ができる。
夜21時に宿泊ゲストには無料で梅酒を振舞っていたこともあり、毎晩多くの出会いが生まれました。
設備面では大きなホテルやホステルにかなわないですが、1人で泊まりに来たゲストが寂しいつまらない夜を過ごさないよう、最大限工夫した結果です。
1人でチェックインした後、ここで友人ができ、友人と一緒にチェックアウトする姿を何度見たことか。
彼らにとって、新しい友人ができたことが旅の思い出になったと思うと、こんな小さな宿でも作って良かったと思います。
加えて、このゲストハウスを起点として、多くの素晴らしいスタッフと出会うことができました。
ゲストハウス経営の右も左もわからない状態からのスタート。
とにかく必死に毎日ベストを尽くしていたつもりではありますが、当然経営者として不甲斐ない部分も多々あったと思います。
それでも辛い時も支えてくれて本当にありがとうございます。
それぞれの道を歩み始めて、現在もまだ一緒にいるメンバーは少ないけれど、みんなと出会えて本当に良かったです。
みんなで一緒に作り上げたグッドネイバーズホステルは一旦終了してしまうけれど、それぞれの道でがんばってください。
<追記>
「なぜゲストハウスで起業したんですか?」と聞かれることがあります。
表向きは「ニーズがあるから」と答えますが、本当はただの直感です。
ただの直感で始めたゲストハウスビジネスですが、幸運なのは、自分が本当にゲストハウスという場所が好きになったこと。
加えて飽き性なのに、全然飽きない。
他人に関心がなく、新しい出会いにまったく興味がない自分が、なぜ多くの旅行者が集まるゲストハウスが好きになったんだろうか?
最初は自分でもよく分かりませんでしたが、ゲストハウスを運営しながら、ある時分かったことがありました。
それは、ゲストハウスが「人が流れている場所」であるということ。
毎日多くのゲストをお迎えして、同時にサヨナラを言う。
すさまじいスピードで、人と人が交わり離れていく。
それが、ぼくがゲストハウスが好きな理由です。
変わること(移動すること)、それ自体が是である。
いつも心にある言葉です。
いつもいる場所を離れて、見知らぬ場所へ飛び込むこと。
ひとつの場所にとどまらず、常に変わり続けていくこと。
ゲストハウスは、それをまさに体現している場所なんでしょう。
9割を超える知人・友人に、「失敗するから止めとけ」と反対されても聞く耳を持たずオープンしたグッドネイバーズホステル。
個人的には大成功だったと思います。
だからこそ、いっときの成功に酔わず、新しいチャレンジに挑みます。
ありがとうございました。
オマケ - 直近1年間の損益計画書の全公開(有料パート)
ここからは先は有料パートです。
直近1年間(2017年10月〜2018年9月)のグッドネイバーズホステルの損益計算書です。
月ごとの売上/稼働率の変化の他に、人件費、家賃、水道光熱費などの販管費も細かく入っています。定員25名の小さな宿(4階建て、延べ床170平米)を金沢駅前に出店すると、これくらい儲かります。
またゲストハウス開業に使った資金も、簡単に説明しています。
これからゲストハウスやりたい方、ホテル業に興味のある方には参考になる内容だと思います。
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