2/9JR大阪環状線京橋駅発
駅構内に漂っていたワッフルの匂いを引きずりながら電車に乗り込む。電車の空調を不快に思わないのは外が既に春の予感を孕んでいるからだろう。
珍しく座れたロングシートには誰かの体温が残っている。最初の頃はこれが気持ち悪かった。誰かと体を重ねているみたいな、それは体に乗っかっているとではなくて、体同士が同じ場所にレイヤーだけ変えて混じり合っているように感じるのだ。
私は今日、大事な仕事があるわけでもないのに髪を整えた。いつのことだか、無理にテンションを上げることも大人の仕事なのだと気がついた。窓が僅かに車内の様子を反射する。整えられた私が居る。いつものボサっと頭よりちょっとカッコいい。それだけで気分が上がるのは安上がりなのかもしれない
電車の中では誰もが誰もに無関心を示している。電車は無理やりに近い距離を強いられる。話したこともない人間と密着しなければいけない場合もある。
隣の席の人が大きなタブレットで読むなにかにも興味を示してはいけない。漫画か、小説か、2ちゃんねるの面白スレまとめか、なにであったとしても覗いたりしてはいけない。たまたま目に入る分には良いのだが。え、サバサバ女の漫画読んでるやん。今さらすぎるやろ。あれ読者0人やと思ってたわ。
たまたま目に入ったのだから仕方がない。
まだ朝霞の街が眠たそうにあくびをかいている。
それを見て、私もマスクをはみ出すあくびをひとつ。