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喜びを全身で表現できるということ

 おかげさまで、最近は新体操を指導する立場になることがあります。指導といっても、月2回、計4時間。彼女たちに何か影響を与えられているとは思えませんが、私にとっては楽しくて面白い時間になっています。

 これまで私は、自分が実践者としてスポーツに関わる・関わってきたことに重点を置いて考えてきましたが、今回は、指導者としての立場から、「スポーツがくれたもの」について考えてみました。

できた出来事

 思い返せば、私はいつ、どんな場面で側転ができるようになったのか、全く覚えていません。側転に限らず、倒立も、ターンやジャンプも、手具を使った技についても、何にも。気づいた時にはできていて、できることが当たり前。指導者からも、できることが大前提というように指導を受けていたように思います。

 と、こうやって書いている間に、一つだけできたことを覚えている技がありました。

 ボールを投げて、なにかしら回った後に、お腹を下に寝て、足の間でキャッチするという技です。(想像できますでしょうか…。)当時の私にはかなり難易度の高い技で、太ももの裏が真っ赤になるくらい何回も練習していました。

 この技が「できた」となるのは、1分半の演技の中で成功した時です。 

 単発で練習しててもなかなかできないのに、前後の流れがある演技の中ではできるはずもありません。それでも、何度も挑戦して…ついに…演技の中でできた!

 なぜ私がこの場面を覚えているのかというと、私以上に先生が喜んでくれたからです。先生は「おーー!!」と叫んで、「エース!」と一言。私はチームの中でも下っ端だったので、そんなこと言われたことありません。先生がそうやっていってくれたのがとても嬉しかった記憶があります。結局この技は本番ではしないことになりましたが、あの練習過程とできた喜びは、その後の私の自信ややる気に大きくつながりました。

ある日、側転ができた

 さて、私はこれ以外の「できた!」出来事は全く覚えていないのですが、指導する場面で、「できた!」場面に遭遇することができました。

 彼女は新体操初心者の2年生。2年生の割にはしっかりしている子で、新体操をしているだけあって身体の感覚もいいのですが、立ち方や仕草はまだまだ新体操選手とは言えず、これからの伸びに密かに期待している子です。

 先々週から、側転を練習しています。得意な方はかなり綺麗に回れてきたのですが、苦手な方はまだ完成ではない…少し恐怖心もあるようです。一度背中から落ちたこともあるようで、苦手な方の側転をするよーというと、毎回背中から落ちたことを話してくれます。

 さて、さすが新体操を習っているだけあって、苦手な方の側転もかなりよくなってきました。そこにメインの指導者が一言エッセンス。すると、しっかり軸に乗った、得意な方に劣らない綺麗な側転ができたのです!

 「いい!!」「綺麗!」私たち指導者は口々に叫びます。彼女もできた実感があったようで、その場でガッツポーズをしながら何度も飛び跳ねました。もうそれは、何度も何度も…。できたことが、とてもうれしかったんだなあと、見ているこちら側もうれしくなりました。

喜びを全身で表現できるということ

 スポーツにおいて「できる」という実感は、その後の意欲や有能感に対し、とても重要だとされています。運動が「わかって」「できる」ということは、スポーツ実践者にとって大きな成果であり、この達成感がスポーツの動機であることも多いでしょう。

 しかし、競技の結果ばかりを追い求めていた私は、いつしか「できる実感」や「喜び」を味わうことを忘れ、できることが当たり前の世界線を勝手に作り上げていました。結果、スポーツに対し楽しさや喜びを感じられる場面は極端に減り、スポーツはきつくて辛いものという思いを抱くことになりました。

 できることが当たり前で、その先の質の高さや美しさを求めるということは、スポーツに限らず何かを極めたい人にとっては必要な思考であると考えています。ただ、だからといってできる実感や喜びを忘れる必要はなく、むしろ忘れてはいけない物事の契機だと、側転ができて大喜びする彼女を見て気づくことができました。

 特に、スポーツはその喜びを全身で表現できる土壌があります。開放的な空間の中で、心身ともに開放的な状態であり、嬉しさを全身で受け止める&解き放つことができる。逆に、辛さや悲しさも全身で受け止めることができるのですが…。

 子どものスポーツに関わる大人として、運動のレベルに関係なく、プラス感情を受け止め解き放てるような指導ができればいいなあと思う出来事でした。スポーツにおいて、私が忘れていた「できる」喜びの大きさ、その重要性を教えてくれた側転の彼女には大感謝です。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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