女性向けゲームアプリの高騰する開発費に潜む危機
女性向けゲームアプリを開発し続けて10年を迎えたゲームディレクターです。女性向けアプリの歴史を振り返ると2013年にボーイフレンド(仮)が登場してから数多の女性向けアプリがリリースされてきました。ガラケー時代から女性向け黎明期から見続けてきた身としては現在の市場の状況に非常に大きな危機感を感じています。
市場としても期待されていなかった女性向け市場ですが年々規模は拡大し、今や年間500億規模にも上ります。しかしその500億のうちの300億はほぼ上位10タイトルが占めており、そのランキングもずっと変わりません。
今回は市場規模として成長を続けてはいるにも関わらずなぜ危機感を感じているのか?という話になります。
現状抱える課題として今回は大きな課題であるゲーム開発費についてお話したいと思います。
ゲーム開発費の高騰が抱える問題
女性向けと言えばゲーム性が低く、絵とストーリーが良ければ売れると言われゲーム会社としてはリスクが低く参入しやすい領域でした。その為ゲーム会社でないITサービス系の会社が『ストーリーを読むアプリ』という位置づけでリリースすることも多く数多くの会社が参入してきました。
しかし現在はよりクオリティの高いゲーム性や3Dを使用したビジュアル、イラストやストーリーの高品質化などユーザーの目が肥えてきており、かかってくる予算は桁違いになりました。
開発費に関して言いますと開発期間が2~3年はかかるので最低で1億、開発遅延がなくても3億、遅延や作り直しをすると10億近い開発費がかかってきます。その中でも3D等を使うと更に高騰していきますのでそこに投資出来る会社というのは限られてきます。
ゲームをリリース出来たとしてもリクープラインというものがあり、〇ヵ月で開発費を回収という目安がありますが、仮に3億で制作したとして月商が5000万だとしたら開発費回収にはかなり時間がかかってきます。
内訳としてはこのような感じです
プラットホーム手数料(30%)…1500万
人件費(20~30人)…1500万~2000万
家賃やサーバー代…100~400万
開発費回収…1000万
このようなラフな計算ですが月1000万開発費回収ですと最低でも3年近くかかります。利益は約500万程になり、これでは次のゲームに投資出来ないのです。
5000万の売り上げがあったとしても会社としてはライブやグッズ収益などの二次収益を上げていくという方針もありますが、多くは他社と共同で制作したりという形なので売上=人気という形なのでその手段もこの規模だと取るのは難しいです。
つまり会社としては売上が1億あったとしても安心は出来ない状況が続いていくので、事業として次の投資が出来るラインは1.5億あたりになります。
ゲーム開発費高騰に潜む危険な未来について
最初の話に戻りますが市場は拡大しているのになぜ危機感を感じるのか?というお話です。
ゲーム開発費が高騰すると参入が難しくなっていくのはもちろんですが、現在ゲームをプレイしているユーザーにとって大きな課題があります。
それは上位10%の会社しかゲームを作ることが出来ないという状況になり、現在までの多様性を持ち続けていた女性向けゲーム市場が縮小しゲームアプリ文化が衰退していく未来です。
株式会社など株主がいる会社にとって事業をどこに投資するか、という課題があり小ヒットしても投資を回収出来ないリスクがある女性向けは投資先として外され女性向け市場からの撤退を余儀なくされます。なので女性向けを作り続けられる会社が年々減ってきている現状です。
いわゆる女性向け大手と言われる会社から出るゲームさえあれば問題ないという状況かもしれませんが、女性向けゲームはストーリーやコンテンツ追加が膨大で非常にコストや人手がかかります。設定なども細かいので、少しでも設定が違うとユーザーからの問い合わせが殺到するので、ゲーム全体をを把握し続ける必要があるためヒットしたゲームの開発者はずっと同じゲームを運営していくことになります。
つまり女性向けゲームの開発ノウハウがヒットしたコンテンツだけに留まり、それが同じ社内であっても次のゲームに活用されづらく、より開発の難易度が上がっていくこととなります。
売り切り型のコンシューマーであれば所謂ベテランと呼ばれるクリエイターは新作に着手することが出来、連続してヒットを出し続けることが出来ます。しかしアプリ運営ともなるとそれを実現するのが難しくヒット作を作っても次のゲームを作ることが出来ない、というジレンマを抱え続けることとなります。
現在ヒットと呼ばれるアプリはハイクオリティなイラストや綿密なストーリーが魅力ではあり、男性向けゲームとは違った魅力がありそれが今の市場を作り上げてきました。
ユーザーが求めれば求めるほどクリエイターは必死になりそれに応えようとします。しかし間違いなくそれが可能な会社はどんどん少なくなり、リリースされるゲームはなくなっていきます。
PCゲームやコンシューマーゲームも同じように衰退し、女性向けアプリも衰退をしていくのは盛者必衰の理で仕方ないのかもしれません。ただ今までと違うのはゲームアプリの衰退はデバイスの変化ではないということです。
今まではPC、PSP、そしてスマートフォンとデバイスが変化しそれぞれに市場が出来ていました。しかしスマートフォンの次となる市場は未だ姿が見えない状況です。今の市場でゲームを作れないとなると女性向けゲームは姿を消し、その文化は消えてしまいます。
時代の流れは止めることは出来ないですし、ゲームという形に捕らわれないコンテンツも出てきています。それでも女性向けのゲームという体験をどうか消えることのないように生き抜いていこうと思います。
今回は高騰する開発費についてお話しましたがまだまだ抱える問題はありますのでそれは次の機会にお話ししようと思います。それでは。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?