占いにすがる

少し前、私が一生懸命取り組んでいたことといえば、占いだった。

某大先生の「○○大全」などと大層な名前のつく分厚い本を購入し、何時間も机に向かっては自分の「本来の性格」や「持って生まれた才能」が書かれている箇所を暗記する程読み込んだ。有料・無料問わず片っ端から占いサイトに登録した。自分の手のひらを永遠と眺め、吉兆の手相を血眼になって探した。

そんなことをしていると、時間はあっと言う前に過ぎる。でも、その時間が無駄だとは思わなかった。これも夢を叶えるために必要なことだと、本気で思っていた。

表現の道で生きて行きたいけれど、それが叶うのは才能のあるごく一部の人たち。だから、自分がそういった「才能」を持って生まれているのかどうかは、とてつもなく大きなモンダイだった。自分のことを一通り調べ終わると、今度は、憧れの作家や好きなミュージシャンなど「成功している人たち」にまで占いの触手を伸ばした。〇〇タイプだとか、××の星だとか、とにかく自分と同じ要素をひとつでも見つけようと躍起になり、いかなる小さな情報も見落とさぬよう隅から隅まで読み尽くした。

薄々気づいてはいた。
持って生まれた才能や運気を知ることよりも大事なことがある。
しかし、それでもどうしても占い本から手を離すことができなかった。

私は焦っていた。
20代後半にも差し掛かった年齢。やりたいことはたくさんある。同級生たちは順調に仕事でステップアップしている(ように見える)し、結婚して家庭を持っている人もいる。いい大人と言われるこの歳で夢を追いかけるんだから、初めから才能がなかったらきっと無理に決まっている。
そして、怖かった。
丸1カ月もの間ウンウンと唸って苦しんで、やっと短編小説を一つ書き上げることしかできない自分が、この先新人賞の審査員なり編集者の目に留まるような作品を書くことが出来るのだろうか。作家デビューできたとして、人の心を動かす作品を生み出し続けることが出来るのだろうか。私は、私の思った通りの私になれるのだろうか。
会社を辞めるという一大決心をしておきながら、本当にこのまま道を突き進んでも良いかどうか、自信が持てなかった。だから、占い師でも誰でも良いから「あなたは大丈夫。才能あるんだから、そのまま行けば成功するから。」って、そんな風に言って貰いたかったのだ。

結局自分に才能があるのかどうかは、分からなかった。あると言われたり、無いと言われたりで、私の欲しいたった一つの答えには辿りつかなかった。

何が正解なのか分からず、迷いはそこに漂ったまま。そんなある時、ふとこんな疑問が頭に浮かんだ。

ーじゃあ、辞めるの?
小説を書くことも、それを仕事にすることを目指すのも、はたまた歌うことも踊ることも、上手く行かないなら辞めてしまった方が良いのか。
答えは、ノーだった。

やるべきか、やめるべきか。
部屋に閉じこもって考え込んでいるだけでは、その答えは出るはずもない。
でも、
やりたいかやりたくないか。
その二択問題には、すっと答えが出せた。

未来の自分がどんな状況でどんな考えを持つかは分からないけど、今の私は表現することを諦めていない。そのことに気づいたとたん、余計なものがふっと剥がれ落ちた。
あとはただ、やればいいんだ。

それから、具体的に今の自分が何をすべきなのかを考え始めた。
小説の賞や締め切りを調べて、スケジュールを決めて執筆を始めた。他にも色々と、やりたいことと出来ることを見極めて、今すべきことに着手し始めた。形になるまでに時間はかかるかも知れないけど、以前のように自分の進む方角も立ち位置も見失っているような樹海にいるような状態からは抜け出せたと思う。

自分のことばかり調べていたあの時間。でも、自分の中の一番目を向けないといけない所からは目を逸らしていた。怠惰で意気地なしな、そんな自分のことは、見て見ぬ振りをしていた。

占いは信じても良いし信じなくても良いと思う。
どちらの場合にせよ、自分で行動を起こさなければどうにもならないことは変わらない。
信じることと、あてにすることは違うのだから。

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