イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル【スタイルは揺るがず流行は流れる】国立新美術館
最初に言ってしまうと展示の豪華さとか空間演出は、もう先に行われたDIOR展に勝る展示は今後20年はないと思っている。
財力的にも。
日本語でわかりやすく理解するために考察した「服装(主に洋装)という観点の近代史」だと京都服飾研究財団企画の展示にはなかなか敵わないだろう。
実際、2022年三菱一号美術館で行われたシャネル展は、解説文の質がひどかったし(翻訳・日本語表現の限界)、2020年の国立新のファッションインジャパン展は展示品の網羅性にはやや不満が残った。
美術館(国立新はアートセンターか)で魅せる服装の展示って一体なんなのか。
という不安を抱きながら、あまり期待しないようにしていた。
と、いいつつ初日のオープンの時間に入場したのだけども。期待、抑えきれてないじゃないか。
私は見に行って良かったと思った。
解説のキャプションはやや翻訳と日本語表現の難解さは否めないが、購入した図録の内容が素晴らしかった。
今回のための小池一子氏の寄稿もあって感激したし、サンローランの歴史=女性のパンツルックの市民権はいかにして世界で、日本で獲得されていったのかが深く掘り下げられている。
(余談だがズボン→パンツと呼ばれるようになった流れの話も興味深かった)
今回はサン・ローランの人物に焦点を当てて創作物を魅せる
博物学だと思ってみると良いのだろう。
淡々と服を見せていく。大きな演出はいらない。
それを見ていく中で、サンローランの服は「着たい」「着れそう」と思わせてくれる。
今まで、服飾の展示で「これ着たい」って視点を滅多に持たなかった。
サン・ローランはリアルクローズ寄りなんだと思った。
だからオートクチュールだけに留まらなかったのだろうけれど。
現代の女性服の基本アイテムを作っていたサン・ローラン
今でこそ当たり前のピーコートもパンツスーツも60年前は女性服のスタンダードではなかった。
(女子学生の就活にパンツスーツは有りか無しかでちょっとした論争になったのがごく最近であるという事実は本当に白目を剥いてしまうが)
Diorの展覧会時に皆無だったパンツルックの豊富さ。
女性がパンツスーツで行動できる範囲を広げた、という事実はサン・ローランの大きな功績の一つだろう。
性に対する考え方が1つ先を進んでいたのだと思う。
どうやって作ったのかわからない、というような服はあまりない。
縫い目や構築に突拍子もない線は現れない。
基本のパターンがあり、その展開上に設計図が生まれ、布に落とし込まれ無理のない立体に組み上がっていく。
ただ出来上がったもののシルエット、縫い目、キワの部分の良さ、アウトラインの良さというのですかね。シンプルな洋服ほど際立つ。
唯一無二にかっこいい。
昨年、天王洲アイルの寺田倉庫で行われたサンローランのミューズ、ベティ・カトルーに迫る「唯一無二の女性展」。
こちらも素晴らしかったが、ベースにある女性像がこの方なのだろう。
民族衣装の魅力とは
2002年のブランド終了まで、様々な表現を続けていく中で、今だと文化の盗用、と非難されそうなデザインも正直ある。
インスパイア、オマージュ、◯◯を取り入れた…
という言葉をどこまで、盗用という線引はできないけども。
デザインは独創性だけでは続けられない。過去や既存のものに学びながらリミックスする作業なのだろう。
服に限らず、グラフィックもプロダクトも。
モンドリアンルックという起点
そしてサンローランと言えば、服飾文化史に残る
「モンドリアンルック」。
1967年に発表されたこのルックは主にアメリカで大ウケした、と。
キャプションに興味深いことが記されていたが、
1967年当時、フランスの美術館はモンドリアンを所蔵する館が少なく、初めて個展が開催されたのも1969年だったと言うことだ。
サンローランの美術に対する造詣の深さを垣間見るエピソードである。
モンドリアンの認識、その魅力を美術館より前に理解をしていたのだ。
他にも、ブラック(キュビズムの話になった時、真っ先にピカソでなく、ブラックを選ぶところがやはり美術に対する造詣が深いと思う)やマティス、ウォーホルなど美術界でも重要なターニングポイントをしっかり服に落とし込む。
先人たちと対話をしていたのだろう。
見ると勇気が湧いてくるサンローランの服たち。着たら更なる勇気がうまれそうだ。
展示室補足
広々とし、高さもとってあるので観やすく動きやすいがもう少し服に近寄れるとよいな、と。できれば立体なのだから360度見れるとありがたい。
初日の段階では写真撮影が可能なのは第九室のみ。
しかし…国立新は途中でルール変更とかも起きるので行った日に確認した方が良いだろう。
そして入場券の半券は無くさないように。
最後の特設ミュージアムショップは半券が無いと購入できない。お会計前に用意、がおすすめだ。
作品リストは紙で配っている。