【読後の爽快感】いのくまさん 茨城県近代美術館
近隣の美術館で時々展示される猪熊弦一郎氏の作品を見かけては、ああ、まとめて見てみたいなと思っていたのでは今回の展示は大変楽しみだった。
猪熊弦一郎の個展、ではあるが、谷川俊太郎の著書「いのくまさん」という絵本に沿った展示である。
沿ってはいるが、子供にも、大人にも猪熊弦一郎の画業がしっかり伝わる内容はとても良い。さすが、本として編集された内容というのは展覧会に組み立てても通用するものもあるのだな。
1920年代〜50年代
学生の頃のスケッチまで丁寧に残っていてその絵の基礎の部分が伝わる。
そしてパリへ。
マティスに会ってるのですね。これまたなんとタイムリーな。先日個展をみてきたばかり。
しかし猪熊さんはマティスから「君の絵はうますぎる」と言われてしまう。あれ?なんかこれ佐伯祐三のアカデミック!事件と似てるな?そこからの変化、というか俄然、絵がのびのびとしてくる様なそんな気がした。
パリでの藤田嗣治とのエピソードも肖像画も見応えがある。
顔シリーズ、鳥、ねこ(1980〜90年代)
この顔シリーズ。最初はなかなかキているな!とその迫力を感じていた。
しかし描き始めたきっかけが亡き奥さんの面影がいつか出てくるかもしれない、という思いからと知りうるっときてしまった。
なんかもう五百羅漢とか曼荼羅とかそういう祈り、尊さまで感じる。そして改めて人の顔は一つとして同じではないのだな、と実感する。
鳥の柔らかさ
猪熊さんは幼い頃お堀で見たゴイサギに魅せられて鳥の絵も大量に残っている。
ただかわいい、だけではなくちゃんとらしさがわかる。フニャフニャなんだけど鳥たちなのだ。(ポストカード写真参照)
ねこ
猫はなんか箱型だった。ある油彩の一枚に、ナメクジみたいな猫が描かれていて笑ってしまった。
でも猫ってこういう状態になってる時あるよなぁ。
さて、ここまで見て、あれ?自分がよく見ている作風の時期の絵がないな、と気がつく。
後半展示室へ。1960〜70年代
パリに行く途中で寄ったニューヨークが気に入りそこにアトリエを構えた、と。この頃ラウシェンバークやジャスパー・ジョーンズと交流があったとも。新しい美術の流れに猪熊さんの画風もガラッと新しくなる。
ここまでの画業歴がありながら、ガラッと作風を変えることが出来るって、すごいな。
今回わかったのは、私が都内近郊で見てた猪熊弦一郎作品はニューヨーク時代の作品ばかりだったことがわかった。
リズム的で、色彩の妙もあって。
先日オペラシティで見た今井俊介の作品に共通するものがある、と思ったら、オペラシティに巡回する前は丸亀市猪熊弦一郎美術館で開催していたそうな。納得。
デザイン分野での活躍
三越の包装紙のデザインは有名ですね。
あの模様は、千葉の犬吠埼で拾った石をモチーフにしたんだそう。
これまた急に知っている地名が出てきて親近感が。そしてその石の画像を見た時、急にあの灯台横の崖下に広がる石だらけの海岸線を思い出した。波に揉まれて丸い、角の取れた石がころころしているあの場所を。
すごいなぁ、と感嘆の気持ちで終える
絵本の構成から組み立てた展示だが、しっかりその画業がわかる。
そして色彩の豊かさと晩年までずっと描き続けたその気力。画面からエネルギーがもらえる。
見終わった後に充電完了できるような、爽快感がのこる展覧会だった。