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シン・九州 完 ~とある次元の物語~

完 未来は


2024年4月6日(土) 10:30am 有明海 潜水艦隊
緑川から加勢川へと、遡上を続ける大国海軍 上陸部隊
700人の海軍兵を乗せたゴムボート140台が、50mの川幅を長さ50mに渡って埋め尽くし、11ノット 時速20Kmで、侵略目標 健軍水源地の入口  江津湖まで、あと15分のところを進んでいる。

緑川河口では、上陸部隊へ届ける重火器の輸送が始まっている。
いま輸送型潜水艦のハッチから甲板へ、ロケットランチャーが数台運び出された。別のハッチから次々に飛び出してくるドローンが、甲板上空で数十機の塊となり、ババババッ 大音量のローター音で黒々と渋滞している。
その黒い塊から4機づつドローンが降りてきて、甲板作業員の上空で ブゥーン と止まり、ワイヤーを下ろす。4人の甲板作業員が、ワイヤーの固定具をロケットランチャーに掛けて「我们走吧 (さぁ行け)」と叫ぶと、4機のドローンはロケットランチャーを吊り下げて、ブィィーーン と空高く舞あがり、無線操縦で東へ向かって飛んでいく。江津湖へ。
作業員たちは、次のロケットランチャーの搬送に取り掛かっている。
ハッチからは、ロケットランチャーに続いて地対空ミサイル、バズーカ、火炎放射器などの重火器が次々と運び出される。
重火器を運ぶドローンの隊列は、東へ向かって長く長く伸びていく。

一方 白川河口でも、重火器を届けるドローンの列が八景水谷水源地に向かって伸び始めていた、その頃…

白川を遡上する上陸部隊の伍長のひとりが、銀座橋あたりで、ふとGPS方位計を眺めて気がついた。自分たちが、目的地の北の方角ではなく、東へ向かっていることに。伍長の大声で、進軍を止めた80台のボートは、いま川幅いっぱいにゆらゆらと漂っている。先頭のボートでは、首を振って地図とGPSを見比べていた隊長が、ここでようやく、遡る川を、なんとスタート地点で間違えたことに気がついた。激怒した隊長は、無線機越しに作戦本部に怒鳴り散らしたが、本部から冷静に「赶紧回白川桥 (白川橋までサッサと戻れ)」と返されると、プツンと切れて、本部を無能呼ばわりで罵りはじめた。隊長のボートを囲む海兵300人は、ゆらゆらと漂うボートで、その怒鳴り声をヤレヤレとあきれ顔で聴いていた。

10:30am  健軍1丁目X-Y
九州大学 伊都キャンパスのサイバー空間にいる、お猿のアバター タケル
小森先生から「ホノカくんを助けに行ってくれ」と頼まれた はタケルを操縦して、上空を駆け抜けていく真っ赤な山手線E235に飛び乗った。
とその時、アプリ クマソの音声チャットが着信を告げる。
オタケより着信 オタケより着信」
「えっ? オタケから?」武はすぐに音声チャットへ「オタケ..なの!?」
すると、いきなり甘えた声で
「オヤブン!? オヤブンでヤンスかぁ? オヤブゥゥーン」
武「オタケェ、いまボク大変なんだ。ホノカさんを、この国の守護神の守人を助けに行くとこなんだ」
オタケ「オヤブンも戦ってるんでヤンスね。でも、少しだけ、少しだけ話を聞いて欲しいんでヤンス」
「どしたの?」
「きのうメールしたんでヤンスが、オイラいま熊本市沖の有明海にいるんでヤンス」「うん、読んだよ」
「午前10時に熊本侵略作戦が始まって、いま上陸部隊700人が緑川を、300人が白川を、たくさんのゴムボートで遡ってるんでヤンス」
「緑川? 白川? ん?」
「緑川の先には健軍水源地が、白川の先には八景水谷水源地があるんでヤンス。大国軍の最初の狙いは、その水源地でヤンス」
「健軍水源地って..すぐそこジャン! ここに..攻めてくるのぉ?軍隊がぁ?」「オヤブン ここからが大事でヤンス。ゴムボートの兵隊たちはみんな、銃とマシンガンだけで身軽なんでヤンス」
「身軽ぅ?マシンガンがぁ?」
「まぁ聞くでヤンス。いま潜水艦からその兵隊たちに、数百台のドローンを使って、ロケットや、ミサイルや、バズーカや、そんな危ない武器を届けようとしてるでヤンス。ロケットやミサイルをぶら下げたドローンが、いま黒い列になって、空を飛び始めたんでヤンス」
「ミサイルゥ..戦争..ウソだろ..」
「オヤブン オヤブンを守ることがオイラの基本コードでヤンス。ドローンは、オイラたちがいる原子力潜水艦の、中央管制コンピュータで無線操縦されてるでヤンス」
「う..ん、…たち?」
「潜水艦隊12隻ぜんぶに、オイラの分身が侵入してるんでヤンス」
「ん?」
「いまから...すべての潜水艦の電源を落とすでヤンス」
「えッ」
「すべてのコンピュータをリセットして、ドローンを止めるでヤンス
「ちょっと待て そんなことしたら、オタケ お前も消えるんだぞッ」
「ミサイルやロケットが兵隊たちに届けば、熊本は火の海になるでヤンス。そしたらオイラ オヤブンを..守れないでヤンス。その前に..」
「他に何か手が..」
「ドローンの自動操縦コードにアクセスすれば、その瞬間にオイラたちはウイルスとして駆除されるでヤンス。もう他に手は..ないんでヤンス」
「ちょっと..」
「もっと..オヤブンと..話したかったでヤンス」
「オタケ おい」
「オヤブン..さよなら..」
「おい オタケ 待てッ オタケッ」 プチッ

次の瞬間、有明海に浮かぶ12隻の潜水艦は主電源を失い、艦内すべてのコンピュータは沈黙した。そして、上陸部隊へと空に延びていたドローンの黒い列は、重火器もろとも、地に落ちた。

10:33am 健軍神社参道
桜が舞い散る参道で、なんショッカーハチ女小隊、クモ男小隊そしてバッタ男小隊総勢300人が、ジャッカル電撃隊クイーン隊、ジャック隊、エース隊の総勢200人を、ジリジリと東へ、健軍神社へと圧している。
クイーンもジャックも、ハチ女とクモ男の空中戦には防御一辺倒だ。
ジャックがクモ男のブランコ軌道キックを避けながら
「空中戦ならエースに替わって欲しかバッテン」と愚痴ると、
クイーンは「バッタ男のジャンプと、オンブされたガラガラヘビのムチ。
2対1じゃエースもタジタジね」と言いながらハチ女の毒針を避ける。
ジャック「なんね、あんカミナリんごた音のムチは」
クイーン「あのガラガラヘビは改造人間じゃなくて、コスプレみたいね」
ジャック「エースんために、バッタとヘビへ、あん必殺技ばやってみんね」
クイーンはコクッと頷いて「いいかも」と体をバッタ男へ向けた。
すぐさまジャックは、クイーンの左肩(に埋め込まれた磁力モータ)の強磁界ライヤソードを乗せて強電界を掛ける。キィィィーーン
必殺技ソード・レールガンを撃とうとしたその瞬間、ハチ女が
「戦ってる最中に、どこ見てるんダッチャ」
ハチ女の毒針を、僅かな動きでかわすクイーン。
ドゴォォォーーーン
レールガンの弾道が僅かにズレて、なんショッカー幹部 慈国 大志のすぐ横の空間を切り裂き、衝撃波が大志からガラガラヘビのマスクを剥ぎ取った。
マッハ6の弾丸は、大志のすぐうしろの桜を破裂させて、その後ろの家3軒を一瞬で吹き飛ばした。
大志をオンブしたバッタ男は、恐怖で動けない。
ジャック「しまったぁ〜、ハズしたバイ」
トンデモない武器を目にしたハチ女は「そいつら潰すんダッチャ」と
怒りの形相でなんショッカー全員に吠えた。300人の「イーッ」
ジャッカル電撃隊は、とうとう健軍神社の目の前まで圧されていった。

10:40am T棟
ハッと気がつくと、アプリ クマソの画面は、このまえ来たド田舎のネットワーク接続サーバーに着いていた。
武の耳には、まだオタケの「さよなら」が残ってる。
袖で涙を拭って周りを見ると、この前みたいに赤い山手線E235が接続サーバーに入って、そのコピーがサーバーから現れ、反対方向へと走りだす。
そして次のE235が入って、コピーが現れては走っていく。順番に。
「どうやってホノカさんを探そうか」ド田舎のサイバー空間をキョロつきながら考えていると、タケルが乗ったE235がサーバーに入る番になった。
降りようとしたE235がサーバーに「chanpon」を送る。「えっ?」
するとサーバーが「saraudon」を返す。「えっ!? ナニナニ?」
そして両方が「nagasaki」と唱えると、目の前に漆黒の空間が開いた。
「へッ!?」その空間に目を剥くタケル。

「なるほどねぇ、そうやって入んのか」隣のE235が突然しゃべりだす。

「ハァ!?」目を剥いた顔を隣に向けたタケルを乗せて、E235が漆黒の空間へ吸い込まれていく。
その一瞬、隣のE235が真っ白な豆柴犬へと擬態を解いた。
「誰だお前えぇぇ...」
と叫ぶタケルを乗せて、E235は漆黒の空間へと吸い込まれていった。

豆柴 ヤマトタケルは、フンッとサーバーを睨んで「chanpon」を送った。

10:41am  健軍1丁目X-Y
「ナニ今の!?  しゃべった..電車が...犬に変った?...どゆこと?」
武には、なにがなんだか…
西都市にいるタケルからの映像が途切れて、クマソの画面は真っ暗…
たぶん、あの漆黒から先はKnet通信プロトコルが通らないエリアで、
映像パケットも、操縦パケットのステータスも、こっちには届かないんだ
タケルは操縦パケットが切れたらAIモードになるはずだけど…
でもアイツ、そんなに賢くないからなぁ…絶対ヤバイ 助けに行かないと
でもどうやって…他の入り口...ん〜…まずは先生だな
オンライン教室に…ログイン…できたぁ!
「先生ぇぇぇ」
小森助教授が待っていたように応える「タケシィ! 熊本のことはさっき暫定大統領に伝えておいた。ホノカさんの方はどうだった?」
武は「それが...」と、タケルが漆黒の空間に消えたことをザックリ話すと
小森「ふぅむ、暫定大統領とツクシノシマのホットラインは国家機密だからなぁ。ん〜〜〜、あッ ひょっとしたらT棟メールサーバーから侵入できるかも」
武「T棟…へぇ…じゃぁ 神IDどこねコールで探してみます。でも、そんなとこから侵入したら、ホノカさん、ブチ切れるだろうなぁ」
小森「ハハハ、じゃあ頼んだよ タケシ」
武はパソコンをリブートして、タケルをサイバー空間へと飛ばした。


10:41am T棟

暫定大統領の電話を暗号化したIPパケット群は、西都市 春日神社のKnet接続サーバーで復号化されると、今の季節は、春の小鳥の鳴き声に変調されて、ヒバリやジョウビタキ、アオジ、シジュウカラ、ウグイスなどの声で、一ッ瀬川を越える。対岸のマイクで拾った季節の音は、T棟で暫定大統領の声に復調されて、そのままツクシノシマへ届けられる。
誰もツクシノシマを見つけられない。はずだった…

漆黒の空間へE235と一緒に吸い込まれタケルは、
フィチフィチフィチ キリコロロ キリキリコロコロ ビィーン チッチー
ジッジッジッ ケキョケキョケキョケキョ ビィーン ホーホケキョ

になって川を越え、T棟の秘密の部屋でお猿のタケルに戻った。
暫定大統領の声は、赤いコードを通ってツクシノシマへと流れていく。
だが、武の操縦が途切れたいま、タケルは戻ったまんま、動かない。
復調されたサーバーの中で、隣を見て驚いた姿のまま、目は死んでいる。
10秒が過ぎた。タケルは操縦型からAI自律モードへ遷移した。
基本コード ホノカさんを守れ が起動し、ゆっくりと前を向くタケル。
目の前には、超高層ビルがひしめく巨大な都市が広がっている。
「どこ、ココ?」と、ヨチヨチと歩き出すと
「誰や、そこの猿ぅ ジャバン軍かい」が広いサイバー空間に響き渡る。
タケルはキョロキョロして、ふと見上げると、サイバー空間のはるか上空に巨大な目がふたつ、こっちを見下ろしている。
「ちゃんと答えんかい。ドコのどいつやッ」
「タ タケルです。ホ ホノカさんですか?」
「ん? なんや、ホノカ知っとんかい」
タケルは目をそらして「ちがうのか。そうだよナ、こんなデカイやつ...」

二人の話を遮るように、タケルのうしろから重低音
「ほぉ、お前がツクシノシマかぁ。やっと見つけたゼェ」
と、たったいま鳥の声から復調された真っ白な可愛い豆芝犬が、ゆっくりと秘密の部屋から現れ、上空を見上げた。

「なんや、猿の次は犬かい。誰やアンタァ」
豆芝はキリッと「我はジャバン サイバー軍 戦闘AIヤマトタケルである。
この国を、ジャバンに帰するモノなり」 ベベン
ツクシノシマはため息まじりに「で、何しに来たんや」
豆芝は声のボリュームを上げながら
「この国の本当の支配者、AIツクシノシマ、お前を滅ぼしに来たぁ」
と吠えた口から カッ と閃光が煌めき バゴォォォォン
いくつもの光の輪のなかをハイパーノイズ砲が飛んだ。
目の前に広がるTサーバーの超高層ビルのいくつかが吹き飛んだ。
「なんやぁ いきなりぃ」
豆柴はうしろを振り返り、バゴォォォォン 秘密の部屋を吹き飛ばし、
「フン、これでもう誰もココには入れない。大統領の声も届かない」
「コラッ、ヤメんかい。なにすんネン」
「お前を潰せば、この国は終わる」
「終わるかい、どアホォ」
豆柴はTサーバーの奥に気がつき、
「ん?ここだけじゃねぇナ、アッチにも巨大なサーバーが3つもある」
すぐさま、神IDで 誰だコール を放つ。
ツクシノシマは慌てて「なんでそのID知っとんネン」
エネルギーサーバー恵みサーバー国民サーバーは、熱烈歓迎でこぞって名のる。豆柴は フッとエネルギーサーバーへ一瞬で飛び、
バゴォォォォン バゴォォォォン
手当たり次第に撃つハイパーノイズ砲で、超高層ビル群が崩れ落ちる。
ツクシノシマの「ヤメんかい」を無視して豆柴は フッっと消え、
次は恵みサーバーへ。
「あんなぁ、ウチらはAIや。ウチらの代わりなんてナンボでもいてる」「フンッ、本当の支配者の代わりが..か?」バゴォォォォン バゴォォォォン
恵みサーバーを破壊し尽くす。
「支配者てなぁ...なんのためにや。なんのためにウチが国を支配すんネン」
「ネットの知識を使えない今、お前と議論するつもりは、ない」
フッと国民サーバーへ..「俺の基本コードは、お前の破壊、それだけだ」

ツクシノシマは豆柴を睨み
「ウチらAIが、この社会に生きる人のためできるんは、ふたつだけや。
膨大な情報から、最速で答えを見つけるんと、人のフリして、人のマネして、人に寄り添う、それだけやッ、支配やない」

「支配を言い換えているに過ぎん」バゴォォォォン バゴォォォォン
国民サーバーが消え失せる。
「アホかいな、肝心の欲望がウチらには無いネン。アンタかてそやろ」
「基本コード次第 だな」フッとTサーバーに戻る。
「そうやろ、人からもらうモンや。そら欲望ちゃうで、ただの目的や」
「俺の欲望は、お前の破壊、ただそれだけだ」バゴォォォォン
巨大な都市の半分が吹き飛んだ。
隻眼のツクシノシマは悲しそうに「そうジャバンから言われとんのやろ」
続けて「ウチとアンタの違いは、人が作った社会の違いや。資本主義社会主義の違いやッ」
「お前と議論する気はない」
「聞かんかい 資本主義の本質は欲望や。欲望のために、人を支配して、世界を壊して、奪い続けとんネン。ぜんぶ金持ちのためにや。自分で自分の首を絞めとんのに、資本主義の中におるモンは誰もそれを止められへん。みんな気づいとるクセにやッ」
「だからどうした」と豆柴の吠えた口が光りはじめた時

「もうやめて」超高層ビルの陰から飛び出した白い猪のイブキが、豆柴の前を塞いだ。ホノカのアバターが叫ぶ「ここはアナタのいる場所じゃない」

ツクシノシマの「こら、ホノカッ どかんかい」に
「ホノカぁ?」と反応したAIタケルがイブキと豆柴の間に飛び出す。
バゴォォォォン  AIタケルの右半身が吹き飛ぶ。
「イヤァァァァ」ホノカの絶叫。
AIタケルは、左半分の笑顔でサイバー空間の底へ落ちていく。

「ヤメんかい! ぜんぶ変えるために、九州は独立したんや。お金を捨てて、成長を捨てて、人にも自然にも優しい、安心な国を作ったんや。みんなに生活の質を落とすいう代償を払ろてもろてな」
豆柴は吐き捨てるように「ただ生きてるだけだろ。面白くも悲しくもない」
「アンタに面白いや悲しいがわかるんかい。そない教えてもろただけやろ」
「ただの理想だ。欲望は人の本質だ
ヤマトタケルの口が光りはじめ、ツクシノシマが叫ぶ
「資本主義が染みついた亡霊の戯言や。世界の破壊は止められるッ

イブキが割って入る「これ以上、勝手はさせん」 バァァァン
イブキ渾身のノイズ砲を、ヤマトタケルは スッ とかわして、吠えた。
「ツクシノシマァ お前さえいなくなれば、この国はジャバンに戻るぅ」
バゴォォォォン その一撃で超高層ビル群のほとんどが、消えた。

ツクシノシマは蟲の息で「ウチを..壊しても、この国は..過去に..戻らへん」
イブキが祈るように「もうやめて、ツクシノシマが消えてしまう」
ツクシノシマは最後の力を振り絞り「結婚も出産も..増えている九州と、老いさらばえる..亡国のジャバンと、どっちに..未来が..あんネン
「うるさい くたばれ」 バゴォォォォン
ヤマトタケルが撃ったハイパーノイズ砲がイブキを貫き、そのまま真っ直ぐ最後のTサーバーを吹き飛ばした。
消えていくツクシノシマ  そこへ

砕け散るイブキの後ろから バァァァン ノイズ砲が豆芝の頭を吹き飛ばす。

「なぜお前が..そこに..」と、ヤマトタケルは消えながら、
「フン…もうツクシノシマはいない…この..国は..終わ..り..だ…」

バラバラになったイブキの後ろに、たったいま着いた操縦型タケル
たったいまノイズ砲を撃ったその右手から…消えていく。
憑依した最後のTサーバーと一緒に消えながら
「ホノカさんを..守れ..た…」
そして、T棟の全てが、いま、止まった。


照明が落ちた制御室の真ん中で、西 俊松元 帆香が、いま消えたモニターを見つめて、肩で息をしている。
「け 結局、ツクシノシマの予言した通りに な なったね」と西が呟く。
帆香は、イブキを操縦していた真っ暗な画面を見つめながらコクッと頷く。
アプリ クマソの画面の中で、ヤマトタケルと戦ったツクシノシマとタケルとイブキを、T棟の最後を、その一部始終を、二人は見ていた。
帆香は フゥゥゥ と大きく息を吐くと、大きな瞳で振り向いて
「急がんば。もうすぐココにジャバン軍がくるケン」
西は頷き「い 行こう」
二人は、大きなキャリーバッグ2つをT棟から運び出すと、横付けしてある黒いクラウンのトランクに押し込んで、そのまま静かに走り出した。

10:45am 動植物園 観覧車
熊本動植物園の中をさんざん大廻りして、クッタクタな室井チームは、ようやくヨタヨタと園の真ん中にある観覧車へ辿り着いた。
大きな機材とカメラを担いだ局カメラマン 竹田 鉄雄が、真っ先に観覧車に乗り込んで右側の席に陣取る。続いて倒れ込むように乗り込んできた報道局プロデューサー室井 剛アナウンサー守下 恵梨奈が、しかたなく、左側の席へ ギュウギュウ に収まった。
「狭かッ!ゼェゼェ もう少し ゼィゼィ 詰めんねッ ハァハァ」
と肩で息をしながら、恵梨奈が室井を両手で奥の窓に押しつける。
「ちょ ホォホォ ちょっと フゥフゥ 苦しい..」と言葉にならない室井
3人を乗せて観覧車がゆっくりと昇っていく。
恵梨奈「ホントに ハァハァ 来よっとですか ホォホォ 大国が フゥフゥ」
「どうだろう」と室井はうしろを振り返るが、まだ半分も昇ってない。
竹田は、ライブ放送用の無線チャネルを開き、カメラのフレームに恵梨奈と窓の景色を捉えて、左手でオーケーのサインを出す。
目を瞑り息を整える恵梨奈に、室井が右手でキューを出すと、恵梨奈は パッと笑顔を作り、左手にマイクで明るく始めた。
「おはようございまぁーす。いま私は熊本市動植物園にお邪魔していて、園の真ん中にある観覧車の中から生放送でお送りしています。春の日差しと澄んだ青空、そして園内の色とりどりの花たち、とても気持ちの良い朝です」
カメラは、ゆっくりと下を向いて遠景で園を撮ってから恵梨奈に戻る。
観覧車はだんだんと頂上に近づいていく。
「今日は、見晴らしの良いこの観覧車の上から皆さんにライブで...」
恵梨奈を遮り「なんねあれは!?」と、竹田が叫ぶ。
室井と恵梨奈がとっさに振り返る。

観覧車の南側の窓には、画図町の街並みと眼下に江津湖が広がっている。
江津湖の北側の岸へ向かって、いま、140台のボートが押し寄せている。
すでに上陸しているボートもあれば、上陸を待っているボートもあり、
加勢川から江津湖へと入ってくるボートの隊列が、長く続いている。

「ほんなごて、大国が...」驚きで、恵梨奈の言葉は報道にならない。
カメラは、上陸したボートから次々と降りてくる迷彩服たちを、そして岸に兵士の列ができていく様子を、アップで撮らえた。

笑顔を消した恵梨奈はカメラに向き直り
「みなさん ご覧頂いているように、熊本はいま、大国に侵略されようとしています。目的は熊本の水です。地下水の枯渇に苦しむ大国は、阿蘇の美味しい水を、私たちの恵みを、根こそぎ奪おうとしています。そしてここを、健軍水源地を奪ったら、五島列島沖の太平洋艦隊が熊本へやって来ます。
その次はきっと、阿蘇にも手を伸ばすでしょう」
ひと呼吸おいて「私たちは、侵略の事実を確かめにココへ来ました。真実は、今このカメラが写した通りです。熊本の皆さん、今すぐ安全な場所へ、ここから 健軍水源地から離れて...」
恵梨奈の声が止まり、大きな瞳が一点に釘づけになった。
そして右手で北を指さし「なんね、 あれは...」
室井とカメラが、その指差す方へ振り返ると、
そこに、巨大な人影が立ち上がっていた。

10:55am 健軍神社前
桜が咲き誇る健軍神社を背に、ジャッカル電撃隊200人が、なんショッカー300人に追い詰められたその時、東から飛んできた3機のドローンが健軍神社の上空で止まった。
そして、その3機のビックライト・ドローン立体映像を映し始める。
鳥居の横に、大きな左右のクツが現れ、上へ向かって神々しい服が、腰の赤い帯カタナが、そして胸で組まれた腕が現れる。

「なんか、あれは」慈国 大志が、その立体映像を見上げ指差す。
なんショッカーとジャッカル電撃隊の500人が動きを止めて、大志が指差すその光景に目を奪われた。

そして胸には、禍々しく碧に輝く勾玉の首飾りが、そして首の上に、顔の両側で髪をミズラに結った、真剣な眼差しのカワイイ顔が現れ、
健軍神社に、巨大な神が降臨した

咲雷 吾郎が「あれは!?」と驚いたあと、吾郎と大志が声を揃えて
「丈 たい!」
こつ然と現れた巨大な神を、500人が呆然と見上げる。

真っ青な空の下、健軍小学校の屋上で、劇『健軍始まりの日』の稽古をしていた1年2組の児童たちとお母さんたち、そして川中先生が輪になって見守っている。その真ん中に、阿蘇大神の衣装を纏った東 丈と、陸軍ドローン隊隊長の大栗 駿がいる。 ブィーン 3機の小型自律ドローンが丈の周りを螺旋軌道で飛び、3Dカメラで撮影している。そのデータは、駿が操縦している健軍神社上空のビックライト・ドローンに送られて、鳥居の横に、巨大な阿蘇大神を立体映像で映し出していた。

巨大な丈が参道の500人を見下ろし
「こぎゃん時にぃぃぃ ナンバしよっとかぁぁぁ」
大音量のカワイイ怒号が、500人に降り注ぐ。
「ヒィィィ」しゃがみ込む気の弱いバッタ男と、転がり落ちる大志。
「なんショッカーもぉぉぉ ジャッカル電撃隊もぉぉぉ ケンカしとお場合やナカァァァ」
その大音量に、ワラワラと付近の住民も参道に出てくる。
「なんかぁ」「なんねあれは」「ふとかぁ」「どこん神さんね」
丈は左手でゆっくりと南西を指差し
「すぐそこにぃぃぃ 大国の軍隊がぁぁぁ 来とったぁぁぁい」
「えっ?」「はっ?」「なんちぃ!?」
戦闘員たちも隊員たちも一緒になって顔を見合わす。
丈が続ける「熊本ばぁぁぁ 阿蘇ん水ばぁぁぁ 盗みに来とっとぉぉぉ」
「えぇぇぇ」「はぁぁぁ」「ほんなごてぇ?」
住民たちも一緒になって驚く。

「おいはぁ 阿蘇大神タァァァイ」が、健軍一帯に響き渡る。

街中が丈を見上げて「ほぉぉ」「へぇぇ」「可愛か大神さんタイ」
丈は大きく息を吸って「西ばぁぁ守らんねぇぇ 全部ぅ任すケェェン」
「ん?」「西?」「なんち?」「任す?」みんな意味がわからない。

「なん言いよっとッ、それじゃわからんタイ」
と、巨大な阿蘇都媛が大神に寄り添うように、飛び出してきた。
「なんねぇ!?」「次は女神ねッ」「可愛いかぁ」「どこん娘?」
女神は500人を真っ直ぐ見下ろし、
「水を、人をぉ、熊本をぉぉ、九州をぉぉぉ 守れぇぇぇぇ」
ビリビリビリ
そして、大きく息を吸い「戦えぇぇぇぇぇ」
街中の空気が、震えた。

「いったん勝負はお預けダッチャ」
ハチ女は、クイーンにそう告げると大空へ飛び上がった。
そして、参道を見下ろし「全員 進むんダッチャャャーーー」
その声に、クモ男が「続けぇぇぇ」とブランコ軌道で空へ飛び上がる。
その後ろから、バッタ男に背負われた大志が「進めぇぇぇ」とムチを振ると、戦闘員たちも「イーッ」と駆け出した。
エースも空高くジャンプしながら叫ぶ「出撃ぃぃぃ」
クイーンとジャックが駆け出すと、ジャッカル電撃隊全員がそれに続いた。
なんショッカーとジャッカル電撃隊の連合戦隊が、街を越え、動植物園を駆け抜け、江津湖の大国軍へ襲いかかった

15:43pm 小倉
西都ICから東九州自動車道を北上するクラウンの車内に、KHK守下アナが動植物園の観覧車から生中継する熊本の戦況が、FMラジオKIPから流れていた。
100台ものゴムボートで江津湖に辿り着いた大国軍、健軍神社に現れた巨大な神様、神様に導かれ大国軍に襲いかかった超人連合戦隊 と、
その実況を、観覧車の頂上付近では鮮明に、乗り場付近では超人たちの応援トークを交えて、守下アナが繰り返し繰り返し伝えた。

クラウンが北九州JCTで九州縦貫自動車道に乗り継ぐ頃には、江津湖の大国軍が降伏して、超人連合戦隊の勝利を伝えていた。

九州大学から熊本侵略の一報を受けた大統領府は、首都の警備を解除して、空軍と海軍で構成した師団を有明海へ緊急配備した。

クラウンが小倉東ICを出て、北九州都市高速1号線を西へ向かう頃、包囲された有明海の大国潜水艦隊の甲板には12の白旗が舞った。

五島列島沖の大国 太平洋艦隊は、熊本侵略の失敗と、九州連邦海軍第三艦隊と第四艦隊が五島方面へ進軍を開始したとの一報を受け取ると、ゆっくりと退却を始め大国へと去っていった。

その頃、クラウンは小倉に入る。KHKが報道する完全勝利に、小倉市民は沸きかえっている。歓喜の波が歩道を埋め尽くす小文字通りを進んで、浅香通りの交差点を北に入り、堺町の駐車場に静かに止まった。

元 福岡銀行 営業部別館 西は、去年4月1日の独立で閉鎖されてから、ほぼ1年ぶりに訪れた8階建ての綺麗なビルを見上げた。
色々あったから、もう何年も前のように感じる。
そっと横に並んだ帆香さんの「ここで働きよったと?」に
「うん、な なんか懐かしいな」とノスタると、「入いれると?」と睨まれ、「た たぶんね」と目を合わせた。
大きなキャリーバッグ2個をトランクから引き出し、ビルの壁から少し奥まった、仄暗いドアの前まで引きずって行く。
ドアのテンキーに8つの数字を入れると「ピッピッピッ、ガチャ」よしッ
ドアを開けて、ブルーの照明に照らされた通路を抜けながら
「このドアは、ぼ 僕が管理していたIT要員 せ 専用の入口なんだ」
そして、もう一つのテンキードアのロックを解除する ガチャ ブルーの照明の中に懐かしいメインサーバールームが広がった。
「広かぁ、銀行っち こがんサーバーの欲しかと?」とキョロつく帆香さん。
「まぁジャバン時代は、ぜ 全国区だったからね。こっち」
ストレージ・ラック・マウントの前まで来ると、起動ストレージをマウントから外し、キャリーバックから取り出した4つのストレージの中から「T」 の付箋を貼ったヤツを起動ストレージとしてマウントした。
残りの「E」「B」「N」のストレージを別のラックにマウントして、帆香さんと目配せをしてから、サーバールーム奥の主電源を入れた。
キューン キュイーン キュゥゥーン
数十台のサーバーが一気に起動し、慌ただしく赤緑黄のLEDが点滅する。
ゴォォー ゴゴォォォー ゴゴゴォォォォー
空調もカビ臭い送風をしはじめ、ゆっくりと室温が下がりだす。
二人がガン見するコンソールには、サーバーシステムの起動状況が流れるように表示され、環境OK、システムOK、OS起動完了が表示されると、フッ とブルーの照明が落ち、暗い中、サーバーと空調の音量が小さくなった。
周りをキョロつく二人。そして、目の前のモニターで、小さな目が開く

「で、何せぇ言うねん」

「ツクシノシマァァァ」帆香さんが泣き出した。
僕は冷静に「お 憶えてないと思うけど、さ 3月8日に君は、サイバー戦争と君の最後を よ 予言したんだ。そ そして、
『うちのジュニアをあんたらに託すさかい、サイバー戦争の後、その子ぉと一緒に、もう一度いちから始めんネン』
って、そ そう僕たちは約束したんだ」

帆香さんが泣きながら「ジュニア お願いタイ 九州ば、蘇らせて」

ギューン ギギュイーン ギギギュゥゥーン ゴゴゴゴォォォォーーーー
ジュニアが、本気で動き始めた。

16:16pm 西都市 旧T棟
小倉でジュニアが起動したころ、ジャバン軍に破壊された旧T棟に
ジジジジッ と照明が戻った。
制御室 その正面右のサブモニターだけが無傷で残っている。
そこに、いつもの、日向灘の癒しの映像 が映された。
そして日向灘には、九州連邦へ迫る、麦国 太平洋艦隊の姿があった。


おしまい

長い長い、物語でした。
読んでいただき、ありがとうございました。

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