道頓堀の女王アリと仲間たち 5
こんな風に話してるように思えてしゃあない
争奪戦 4
湊町リバープレイス横の天空の広場で、探索係第8旅団の目の前に巨大なケーキの山が落ちてきた、その夜遅く。
大阪 道頓堀に面したテラスの地下に深く広がる巨大な巣イブ・シティの地下1階 外勤待機室がナニやら騒がしい…
地下 入口
1階 [ゴミ捨て場] [入口駐屯室] [外勤待機室] [トイレ]
2階 [豪華トイレ] [女王の間] [女王食料庫] [女王駐屯地]
3階 [ゴミ捨て場] [ユリカゴ] [送風係] [外勤休憩室] [トイレ]
4階 [トイレ] [保育園] [保育食料庫] [保育駐屯地]
5階 [ゴミ捨て場] [マユ庫] [マユ駐屯地] [タカラ部屋]
6階 [トイレ] [働き学校] [兵隊学校] [外勤寝室] [ゴミ捨て場]
7階 [豪華トイレ] [秘密の部屋] [ゴミ捨て場]
天空の広場からイブ・シティまで、全速力で走り抜いて気絶した第8旅団中継班カワ。カワは、警護班長のウシに抱えられて外勤待機室で目覚めるが、カワの顔を覗き込む3匹の長老 オオ、トシ、ヨリのデッカい顔にレロレロッと目を回し、ガクッと、また気絶する。
「しっかりせんかい、長老たちやで」とウシに揺り起こされ、目を回しながらも長老たちへ向き直り、頭を振って目を醒すと、カワは気合を入れてマチの言伝を唱える。
「第8旅団 天空の広場でお宝を発見セリ。お宝はイブ・シティ1年分の食料ナリ。貯蔵庫を増設されタシ。大至急、2個師団の応援を要請スル」
長老のオオはヨロヨロと立ち上がり、
「ななな なんやてぇぇ こ このイブ・シティを む 向こう1年 くッくッくッ 食わせられるやとぉぉぉ」
と叫ぶと、目を回してそのまま後ろへひっくり返る。
「おぉぉぉ ほぉぉぉ うぉぉぉ」
長老たちに呼ばれて外勤待機室に集まっていた係長級の幹部たちも、マチの言伝に歓声を挙げる。
長老のトシは微笑みながら「ホンマ特急便ご苦労さんやったな、カワ。ようやった でかしたでェ。そんなお宝イブ・シティ始まって以来や」と涙目になってカワの肩をグラングランと揺らす。
そして、トシは隣のウシに「早速やけどな、ウシ。入口駐屯室と女王駐屯地の兵隊全員でな、地下1階と2階に食料庫を増築してんか。ケチッたらアカンで、しっかりしたデッカいのんを頼むわ」と差配すると、ウシは「ハッ」と前脚中脚の敬礼で応える。
そのうしろで、長老のヨリがヨタヨタと待機室の奥へと向かう。
待機室の奥で、師団や旅団を束ねる探索係 係長ツキが、カワの話を聞いて怪訝な顔つきで壁に寄りかかっている。
ヨリはツキの前に立ちダミ声で「ええかぁ、ツキ 大仕事やで。いまシティにおる第1師団と第2師団を天空の広場へ応援に向かわせるんやッ」
ツキは「ンンンーん、ちゃんと調べてからの方がエエんちゃいますか?」と訝しむが、ヨリはダミ声のボリュームを上げて「アンタに報告がのうてオモんないのもわかるけどな、調べてる暇なんてあるかいな。守っとんは1個旅団やで。たった100匹で何ができんねん。あッちゅう間に敵に潰されて、お宝全部持ってかれてまう。せやから直ぐや いま直ぐ動くんや。2個師団2000匹で応援に行けば、なんとかなるやろ。頼んだでぇ」と捲し立てると、ゴホッゴホッと咳き込んでその場にヘタり込む。
ツキは「ハッ」と係長らしく前脚だけでヨリに敬礼すると、スタスタと外勤待機室をあとにする。
トシはカワにニコッとしながら「でな、もうひと仕事頼むわカワ。このビッグニュースをサイ様に報告してきてんか。ウシも一緒にな。きっと喜ばはるで」と告げたあと、咳き込むヨリの腹をゆっくりと摩りだす。
カワとウシはペコリと長老たちにお辞儀をして、静かに室を出ていく。
ちょうどその頃、夜が少しすすんだ天空の広場の片隅では、第8旅団守備隊36匹が方円の陣でケーキの山を取り囲み、運送隊53匹が山のあちこちで出発の準備を整えている。山の麓に構えた作戦本部でガリがマチにボヤく「こんなん方円の陣ちゃいまっせ。隙間だらけですヤン。これやったらどっからでも入ってこれますがな」マチはブスッと「そこをなんとかするんがアンタの役目やろ」ガリが複眼を見開いて言い返す「お言葉ですけど、できひんもんはでき…」
そこへ守備隊長カンのヒステリックな声が響く「敵襲 敵襲」山がザワつく。
真っ先に駆け出したイチが叫ぶ「来よったでぇ、デッカいGやぁぁ」
巨大なGが1匹、カサカサとこっちに向かってくる。
イチが守備隊へ「みんなぁ、戦闘フェロモンばら撒きやぁ。近くの仲間に知らせるんやぁ」に、ガリが「近く て.. おるんかい」とツッコむ。
マチ「トラ! お宝 運ぶんはちょっと止めるでぇ。旅団戦闘班 みんなで出撃やぁ」の号令にトラが駆け出すと、守備隊と運送隊から戦闘班の兵隊アリたちが飛び出し、我先にとトラに続く。
ガリが、飛び出す戦闘班へ「まずGの動きを止めるんやぁ」と大声で作戦を出すと、トラを先頭にGへ襲いかかり、Gの脚や羽根に顎を食い込ませる。
イチがカンに向かって「旅団救護班 出動やぁ。みんなでGに蟻酸攻撃やぁ」と叫ぶと、カンと救護班が次々と山から降りてGに飛びかかり、Gの顔や腹に蟻酸をお見舞いする。
ところが、圧倒的なパワーのGは、アリの顎や蟻酸などモノともせず、噛みつくアリたちを引き摺りながらケーキへと突進する。
仲間の危機に、山の上にいた働きアリたちも勇敢にGへと向かっていく。
そこへもっとヒステリックにガリが叫ぶ「上やぁ 上からも来るでぇぇ」
勇敢にGに向かっていた1匹がフッと消える。
その後ろもフッと、また1匹、そしてまた1匹…
動きを止めたアリたちが恐る恐る花壇の森を見上げると、仲間を咥えたクモたちがスゥーッと森の上へと登っていく。
「キャァア ギャァアァァ ウワァァ」 あちこちで上がる悲鳴。
その声を目がけて、モノ凄いスピードでたくさんのクモが降りてくる。
マチが叫ぶ「みんなぁ逃げるんやぁ コイツらの狙いはこの甘い山やない 甘味まみれのウチらやぁぁぁ」
山の上ではパニックになった兵たちが逃げ回る。
イチも声を張りあげる「もし捕まったらなぁ 顔に蟻酸をカマしたりぃぃぃ」
イチの叫びが森の上まで届いたのか、連れ去られた何匹かは攻撃で逃げ出し、遥か上空から墜ちてくる。が、次から次へと降りてくるクモに1匹また1匹と連れ去られ、山の上からどんどん仲間が減っていく。
下ではGが暴れ放題 食べ放題、上ではクモが連れ去り放題 食べられ放題。
その惨状に、マチがお宝からの撤退を叫ぼうとしたその時、突如Gは山を離れカサカサと暗闇に消えてゆき、クモたちの降下も止まる。 ブルッ
気がつくと、真夜中の花壇の森は季節外れの寒さに包まれ、虫たちの活動限界を超えて急激に冷えてゆく。
マチが旅団へ叫ぶ「アカン寒すぎやぁ 作戦は中止やぁぁ みんなぁぁぁ 動けるうちに 隠れるんやぁぁぁぁ」
第8旅団兵たちは、ケーキの中へ、土の中へ、草の中へと身を隠す。
さらに気温は下がり、そして天空の広場は静寂に包まれる。
天空の広場が静かになる少し前…
イブ・シティ地下2階女王の間の前で、カワとウシがあたりをキョロキョロ眺めながらモジモジしている。
カワ「ウチな、女王様に会うたことあらへんさかいな、どないしたらええんかわからへんねん」
ウシ「ウチかてや。サイ様ゆうたらドえらい怖いらしいでぇ。お世話係長がゆうとったわ」
カワ「無理やん、そんなん… 戻ろか?」
ウシ「せやな ほな、行ったことにしとこか」と2匹が戻ろうと振り返ると、お世話係長のムラが あぁぁーん の顔で待ち構えている。
2匹を睨みつけ「ナニが『行ったことにしとこか』やッ💢 コラッ、ウシ 兵隊アリのアンタが何ビビっとんねん。あんたら、長老たちから大事な役目もろてんやろ。さっさと行ってこんかいボケッ💢」
ムラのごっつい気迫に押され、カワとウシはトホホと見つめ合い、一緒に振り返ると恐る恐る女王の間へ入っていく。
「ナンや、アンタら」
女王の間に響きわたるその声に、ビクッと下を向いたまんま脚が止まり凍りつくカワとウシ。怖くて2匹とも顔を上げられない。
やれやれとムラが後ろから助け舟を出す「サイ様 第8旅団中継班のカワと入口駐屯室警護班長のウシですぅ。この子らからサイ様にナニやらご報告があるそうですぅ」
サイは首を傾げて「ナニやらて、なんや 食いモンかいな?」
カワとウシは前脚と中脚をイエイエと振りながら「ちゃうちゃう」
ムラ「コラッ、言葉に気ィつけんかい💢」
カワはテヘッとムラに微笑むと、ビビリの呪いがとけて笑顔がこぼれ、巨大なサイを見上げて「女王様に申し上げますぅ」と、天空の広場のできゴトを、甘い甘い巨大な山の大事件を、楽しそうに嬉しそうに複眼を輝かせながらサイへ語る。
サイはデッカいお腹を引き摺って、「ほぉ」「ほぉ」と合いの手を入れながらカワに近づき、いつの間にか齧りつきで話を聞いている。
サイ「そんなにウマいんかい、山が?」
カワ「そりゃもう、トロけまっせ」 ムラ「コレッ💢」テヘッ
サイはニコニコで「ホホホ はよ喰わさんかい。それにしてもマチのヤツ、デッカい手柄立てよったで。ウチも行ってみたいなぁ、その甘い甘い山に。天空の広場のどの辺やねん?」
カワ「確か近くにトラットリアなんとかって… ナントカ..レストラン せや、イタリアンや。サイ様も行かはりますか、イタリアンレストラン?」
フッとサイの笑顔が消え、目つきが変わり「ヘタレのラストランやとぉ💢」 ヘッ? カワとウシは、あんぐりとサイを見つめる。
サイは2匹を睨みつけて「ワレ誰に向かってモノ言うとんねん💢」
何がなんだか訳がわからず、2匹はヒィィィーと一目散に逃げてゆく。
ムラはやれやれと「サイ様 イタリアンレストランだす イ・タ・リ・ア・ン。 なんですの ヘタレのラストランって。聞きまつがいにもほどがありまっせ。かわいそうに、カワもウシも逃げてもうたやないですか」
サイは頭をカキカキ「またやってもうた ホホホ」と照れ笑いして、ポポポンッとタマゴを産んでごまかした。
6 につづく
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