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道頓堀の女王アリと仲間たち 2

こんな風に話してるように思えてしゃあない


争奪戦 1

大阪 道頓堀に面したテラスの前にはお洒落な花壇。5月のよく晴れた空の下、その花壇の端を100匹ほどのアリの群れが、浮庭橋うきにわばしに向かって進んでいる。イブ・シティ探索係 第8旅団である。その先頭を並んで歩いている2匹は、第8旅団を率いる団長のマチ副長のイチ
イチマチへ話しかける「アンタの後釜あとがまは、タマゴ班長やったムラに決まったらしいで」
マチは「そうらしいな、ウチも今朝けさ聞ぃたわ。今、サイ様お世話係長やるんは大変やで」と眉間に皺を寄せた。
サイ様 マチたち5万匹のアリが暮らす巨大コロニーイブ・シティ女王アリ サイのことである。
マチが続ける「今朝もな、サイ様に『朝から晴れてよかったぁ』て挨拶したらな『何で困るん?』言うさかい『は?』って顔したらな
『まさかの晴れで困ったぁ って、あんたサボる気やろ 💢』 やて…
 なんやねんそれ へこむでホンマ」とトホホ顔。
イチは「そりゃ大変やったなぁ アハハハ」と陽気に笑った。

あの日 保育園で兵隊組クマが大暴れした日、マチは長老のトシから差配された通りに、サイと涙涙のお別れをして、探索係長ツキのところへ異動の挨拶に行くと、その場で第3師団 中継班への配属を命じられた。
中継班… 師団や旅団といった大きな部隊が、遠征先からイブ・シティへ探索状況を報告する情報班 とは名ばかりの、いわゆるパシリである。
そのパシリたちは、イブ・シティとの往復の中で、荷物やお土産を持たされたり、言伝ことづてを頼まれたりと、雑用ばかりを押しつけられるが、実のところ その力量や底力を試されていたりする。
探索係は、その名の通りイブ・シティが求めるモノを探し回り、情報やモノを持ち帰るというコロニー存続の重責を背負っている。
主たる任務は「ほうぼう探し回って、喰いモンを見つけてこんかい」
それ以外にも、甘露協定を結んでいる友好的なアブラムシ一家いっかが、いまどこでアブラを売っているか いやもとい、どこの草にシャブリついて甘露を貯めているかを調べて回る役目もある。大きな係なので、中には長老たちから密命を帯びたモノも紛れ込んでいたりする。
師団はザッと1000匹の大部隊で、遠征する縄張りは半径500mほどにもおよび、例えば南方面は元町中公園あたりまでがその探索範囲になる。
旅団はその縮小版の100匹ほどのアリで構成され、およそ半径100m、例えば湊町リバープレイスを一周するぐらの範囲を探索する。
なぜ師団や旅団といった戦闘部隊の名前で呼ばれるかというと、アリの喰いモンは当然ほかのムシたちも狙っているわけで、探索係が一歩外に出ればそこには7種の敵がいると言われ、ひとつの獲物エモノを見つけたら、そこは7種の敵との戦場であり、戦闘を勝ち抜いた勇者だけが食料という名の栄光を手にすることができるからである。
師団や旅団は、団長と副長の下に部隊の頭脳である働きアリの作戦班、猛々しい兵隊アリの戦闘班守護班、働きアリと兵隊アリ混成の救護班、そして働きアリのパシリ班 もとい中継班で構成されている。

マチは、1ヶ月に及ぶ第3師団のパシリ生活で探索のなんたるかを叩き込まれたあと、探索係長のツキに呼び出され第8旅団団長に任命された。任命されたその日に、長老たちの差配でイブ・シティ地下1階の外勤待機室に100匹ほどがに集められ、新しく編成された第8旅団の結団式が執り行われた。マチは、その100匹の中に懐かしい顔を見つけて駆け寄った。

イブ・シティ
地下       入口
1階 [ゴミ捨て場] [入口駐屯室] [外勤待機室] [トイレ]
2階 [豪華トイレ] [女王の間] [女王食料庫] [女王駐屯地]
3階 [ゴミ捨て場] [ユリカゴ] [送風係] [外勤休憩室] [トイレ]
4階 [トイレ] [保育園] [保育食料庫] [保育駐屯地]
5階 [ゴミ捨て場] [マユ庫] [マユ駐屯地] [タカラ部屋]
6階 [トイレ] [働き学校] [兵隊学校] [外勤寝室] [ゴミ捨て場]
7階 [豪華トイレ] [秘密の部屋] [ゴミ捨て場]

マチ「ありゃまぁ イチやないかい! なんやアンタも第8なん?」
周りの騒がしい連中を掻き分けて、イチが「ホンマ久しぶりやなマチ 半年ぶりや。アンタが団長やてな、ウチが副長や。よろしゅう頼むな」
マチはびっくりした笑顔で「アンタが副長かい! また楽しなるなぁ」
とお互い抱き合い肩を叩き合った。
マチとイチは、同じ日にタマゴから孵り、同じに日にマユを作り、同じ日にサナギから羽化し、同じ日に働き学校へ入学した、幼馴染の親友である。
働き学校を卒業した後、マチは女王のお世話係へ、イチは働き学校の教育係へ配属され、今日まで会うこともなく、お互い忙しい日々を過ごしてきた。

そして今日、マチとイチを先頭に第8旅団が探索へと出発したのである。
目指すは、浮庭橋うきにわばしを渡った天空の広場
浮庭橋に向かって花壇のヘリを進んでいくと、十本ほどのソラ豆が青空に向かって生い茂り、見上げるとその茎にビッシリとアブラムシの群れがシャブリついている。
マチが「おーぃ、ガリ ちょっと来てんかぁ」と呼ぶと、小さな働きアリの作戦班長ガリがチョコマカッと近づいて「なんですの?」と冷静に答える。
作戦班は、戦闘モードでは部隊の作戦をたてる戦術参謀だが、通常は探索行動を計画したり、情報収集したりする役目のインテリ集団である。
マチがソラ豆を指差して「あそこのアブラムシたち知ってるか?」とガリを振り返ると、ガリは首をかしげて「いやぁ、このあたりのモンちゃいますねぇ。よそモンや思いますよぉ」と即座に分析してみせた。
マチは、隣に生えているエダ豆のテッペン付近をチラ見してから
「おーぃ、タテ ちょっと来てんかぁ」と呼ぶと、大きな兵隊アリの守護班長タテがノッタリとやってきて「どないしましてん?」とマチを見下ろす。
マチは「あそこのアブラムシ一家いっかにな『ウチらイブ・シティと甘露協定を結ぼか』って掛け合って来てんか。断りよったらなぁ『あそこのエダ豆のテントウムシ ほっとくいてもエエんかぁ』 ってカマシたりぃ」
タテはエダ豆を見上げて「おおぉ」とひと声あげると、シャカシャカッとソラ豆を登っていった。
マチの指揮を横で見ていたイチが「おーぃ、トラァ」と戦闘班長トラを呼んでゴニョゴニョと何やら準備させる。
シャカシャカとソラ豆を登りきったタテは、アブラムシ一家いっかの親分にオラオラッと談判すると、すぐに前脚でマルを作って笑顔を見せた。
マチが「よぉーし、よぉやったぁ」と前脚と中脚の4本のガッツポーズを見せると、その横でイチが「トラァァ、あそこのテントウムシ シバいたれぇぇ!」と叫ぶ。イチの号令で、トラを先頭に戦闘班20匹がエダ豆の茎を駆け上がっていく。
そのテントウムシが、ソラ豆のスミっこにいた可愛いアブラムシを食べようと、ヨダレを垂らしながら前脚を伸ばしたその瞬間、トラたち戦闘班が全員でテントウムシに襲いかかった。楽しい食事の時間だったはずのテントウムシは、いきなり6本の脚を強力なアゴで挟まれ、顔に蟻酸ギサンを噴射されて、「ギャァァ」と叫んでパニック気味にあとずさった。
トラがスタッとテントウムシの目の前に降り立ち「さっさと消えんかい!」と凄むと、テントウムシは「またかいな、クッソォ」と6本脚で地団駄じだんだを踏んで逃げ出した。
第8旅団100匹は花壇の端っこに並んで、あわてて飛んでいくテントウムシを見送ると、大歓声で勝鬨カチドキを挙げた。
「エイエイッオォォ、エイエイッ…」 

マチもイチも、探索係になって親分肌と戦闘色がさらに強くなったようだ。
のっけから阿吽の呼吸を見せたマチとイチを、班長たちが「やるやん」の顔で見つめている。
新しく甘露協定を締結したアブラムシ一家のことを伝えるようにと、パシリ班ヤマをイブ・シティへ送り出すと、マチとイチを先頭に第8旅団100匹は目の前の巨大な柱を一列になって登っていく。
巨大な柱が支える遥か上空に掛かる吊り橋 緑溢れる天空の橋 浮庭橋うきにわばしの向こうに、とてつもないお宝が待っているとも知らずに。

3  につづく

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