シン・九州 結 四~とある次元の物語~
結 モノローグ 2
2024年2月28日(水) 14:01pm 健軍小学校 1年2組 東 丈
「はぁーい、みんな席についてぇ、静かにぃ」
そう言いながら、担任の川中先生が寒そうに教室に入ってきた。
「うぅぅ寒ッ。えェーとねェ、この前話したぁ、4月8日の入学式で君たち新2年生がやるダシモノが決まりましたぁ」 なんか先生 楽しそう
「1組が学校紹介でぇ、3組が合唱でェ、ウチら2組は劇をやりまぁーす」
「えぇぇぇぇ」「劇ぃぃぃ?」「なんでぇぇぇ」「マジィィィ」
うん、みんな チカラいっぱい…嫌がってる
「ハイ静かにィィィ、お芝居はねぇ『健軍はじまりの日』っていうのぉ」「ハァァぁぁ」「なに何ナニなに」「マジぃでぇぇ」
川中先生 怒らないから、みんな言う言う
「簡単に言うとねぇ、天から降りてきた神様たちがぁ、阿蘇を蹴飛ばしたあとぉ、健軍神社を作っちゃうってお話なのぉ」
「ハァ〜ッ?」「カミサマぁ?」「アソをケとばすぅぅ?」
ん? 先生 ホントに何言ってんの? もうちょっとちゃんと...
「今日中にぃ、台本を書いちゃうからねぇ、明日からお稽古やるヨォ」
「ハァァぁぁ」「おケイコぉぉ?」「明日からぁぁ?」
へぇ〜、先生ってそういうの好きなんだ
「誰が何をやるかなんだけどぉ、まずぅ ニニギノミコト を天野さん」
「ニニギの?」アマちゃん びっくりしてる
「んで、神武天皇を三田さん、阿蘇大神を東さん、阿蘇都媛を吉見さん...」ちょっとちょっとちょっと 先生ぇ!? えっ、みんな…黙っちゃった
アソオオカミって、あの健軍神社の...子供のオオカミさん?
…ボクがぁ?
【シン・九州 転 五 も読んでみて】
2024年3月8日(金) 16:12pm T棟 制御室
国防省 サイバー軍 セキュリティ本部 宮崎州支部 T棟局 西 俊 局長
T棟を一歩外に出ると、学生たちが賑やかに歩くキャンパスのド真ん中
ここは、宮崎州立産業技術専門校
その真ん中に聳えるドーム状の旧応用実習棟を、独立前にシャドウ・キャビネットが、T棟に改造した
西都市には「連邦政府機関 T棟」とだけ知らされている
関係者以外は原則立入禁止なんだけど、ここの建築科,鉄工科,電気科のサポートが無いと、T棟は成り立たない
おそらく大統領府の連中は、そこまで織り込み済みでこの学校の中にAIツクシノシマを隠したんだ、きっと
T棟局の仕事は大きく4つ
ITインフラと電力制御と空調監視そして建物のメンテナンス
どの仕事も、父割や母割で3〜4時間しか勤務しない職員3人と僕と帆香さんだけではとても捌けないから、学生の部分徴労制度(要するにアルバイトなんだけど)に頼ってる
いや、…助けてもらってる
連邦政府のバイトだから、学校も優先してくれるし、学生もバイト代でUSKカードに食材やカラスミのポイントがタップリと入るので、順番待ちになるほどの人気みたい
AIツクシノシマを取り巻く、ネットワークやサーバーなどのITインフラはもちろん重要なんだけど、そのITインフラへ、安定した電力と一定の温度と湿度を供給する電力制御と空調監視、そしてこれらを守る建物のメンテナンスも大事な縁の下の力持ち どれ一つ欠けても、T棟は成り立たない
なかでも電力はT棟の生命線
もし送電網の事故で西都市に電力の配分が必要になったら、僕らは躊躇なく、他を停電にしてでもT棟への給電を優先する
そして、ここ西都市にT棟を作った最大の理由
もしも全ての電力が消失したとしても、一ツ瀬川上流の一ツ瀬ダムが発電する最大18万キロワットの電力すべてを、このT棟が独占して使う特権と制御機能を連邦政府から与えられている
連邦内で、これほどの特権が与えられている施設は、他には無いだろう
それほどの想いで、T棟は連邦政府に守られている
まぁこの国をツクシノシマに守ってもらってんだから、当然と言えば当然なんだけどね
エネルギー、空調、建物それぞれの監視サーバーから、ほぼ毎日、修理や交換などのメンテナンス要請が、制御室の中央監視モニターに届く
だからバイトの学生には、制御室とサーバー室を除くT棟のすべての施設に、自由に出入りしてもらってる
たとえば、変電所の補強は鉄工科に、空調機器のガス補充や建屋の修理は建築科にお願いしてる
サーバー室で使うCPUボードやメモリボードの修理は、ほぼ毎日電気科へ定期便で送ってる
ここの学生は素朴だけど、元気なあいさつが可愛いし、何より真面目で一生懸命だから、ついつい頼っちゃうんだよね
まぁ、品質は今ひとつなところもあるんだけど
こんなT棟に一ヶ所だけ、局長の僕も入れない秘密の部屋がある
去年の6月15日 福岡で誘拐されてココに連れてこられ、田柴大佐に「サイバー軍か土木作業員か」と呆れた選択を迫られ軍門にくだった、次の日
帆香さんと僕は、田柴大佐から1日かけてT棟をレクチャーされた
Tサーバー室に入るなり「このTサーバー室に祀られたAIツクシノシマは、腐ることのない新しい社会主義の柱だ」とドヤ顔で微笑む田柴大佐。
あぁぁぁウッザッ
揚々と話し続ける大佐にウンザリしていたその時、帆香さんがTサーバー室の奥にドアを見つけ「こん部屋は?」と重いドアを僅かに開けると
ゲコゲコ ゲゲゲ ゲコッゲコッ ゲッゲッゲッ ガゥガゥガゥ ゲーコゲーコ
ゲロゲロゲロ ガッガッガッ ゲコッゲコッ...
バァーン
「ここは立入禁止だッ」と大佐は体当たりでドアを閉めた。
ブーンと、いつものサーバー室の音に戻る。 唖然…
「ったく、なぜ開いている」
大佐は震える指でUSKカードをかざして、ガシャンッとロックした。
「カ カエルを、か飼ってるんですか? なんかモ モノスゴイ数の...」
「うるさいッ、今のは...今のは 無しだッ」
帆香さんと声を揃えて「無しぃ?」と大佐に眼を剥くと、
「この部屋はサイバー軍セキュリティ本部直属の管轄区域だ。T棟局員の立入は一切禁止だ。わかったなッ」と、大佐はひどく狼狽えて睨み返した。
この秘密の部屋に、あの赤いコードが繋がっている
去年の9月4日 Tサーバー室で見つけた、あの赤いコード
AIツクシノシマと暫定大統領 長崎皿うどんの会話が漏れていた赤いコード
次の日、その赤いコードを辿っていくと、秘密の部屋に辿り着いた
ツクシノシマと大統領とカエル? いくら考えても繋がらない
「あ あの赤いコードに、と盗聴器をつけちゃおうかな」と呟くと、
「なん言いよっと 九州ん男が、そがん盗み聞きんごたせんとッ こん国の大統領バイ」と帆香さんに本気で怒られた。
いやボク...九州男じゃないけど
その時はまだ謎だらけだった...
どうやってTサーバー室のツクシノシマが長崎の大統領と話してるのか
ツクシノシマの計画がどうやって連邦に通達されるのか
あのカエルはいったい...
「ちょっと よかッ!?」
帆香さんの緊張した声で、僕の頭は9月5日から3月8日に戻った。
「ど どうしたの?」
「DMZ(非武装地帯)のファイアウォールに、偵察のログが残っとっと!」と大きな瞳で振り向く。
「サ サイバー攻撃の偵察ステージってこと?」
帆香はうなづき「T棟がサイバー攻撃の標的になったこつはなかバッテン」
帆香のモニタを覗き込んで「ま まだ偵察だよ。ぶ武器化する潜入の痕跡はまだないから、とりあえずDMZの ぜ 脆弱性検査をやっとこ。あと、セ セキュリティ本部へ報告しといて」
帆香は「ウン」とうなづいて「そろそろ多層防御にも取り組まんばイカンとやなかかね? 複数の防御壁ば設けて、Tサーバーに到達されるっとだけは絶対に阻止せんば」と真剣な瞳を向ける。
僕はあきらめの顔で「そ そうだね、本当ならゼ ゼロトラスト対策して多重防御したいんだけど...い 今はT棟を維持するだけで...精一杯だから」
と返すと、帆香も「誰にでもできる仕事ではなかけんね」と顔を曇らせた。
ITスペシャリストがそうそう居るわけない
仲間だった欲望に正直なITエンジニアたちは、野望に牙を剥く狼たちは、
みんなこの国から逃げ出した
残されたのは、逃げ遅れて飼いならされた羊 だけ
羊と素人だけじゃ、守れない
サイバー空間では、今この時も、世界中の至る処で、
正義のために、欲望のために、壊し、奪う攻撃と、
それから守る防御の戦が繰り広げられ、繰り返され、研ぎ澄まされてる
サイバー戦争の名の下に、攻撃も防御もそれぞれが高みへ駆け上がってる
僕らが想像もできない技術の高みへ
過酷なサイバー戦争を生き残ったケダモノたちが、本気で僕らにサイバー攻撃を仕掛けてきたら、
「ひとつ・成長はできるときにすればよか」
「ひとつ・安心して暮らしてよかと」
平等で弱者に優しいゆっくりと成長するこの国の、IT技術で、セキュリティ技術で、守れるわけない
一瞬で勝負がついて、サーバーたちは蹂躙される
エネルギー同様、ケダモノたちの先進技術を買うしかない
でも、先進技術を使える頃には、もう陳腐化している、きっと
この国のIT技術は、きっと永遠に世界には追いつけない
だから、見つからないように、…隠れるしかない
この国の仕事はどこかイビツだ
「ひとつ・自然の恵みも社会の恵みも全部みんなのもんたい」
そう、財産が土地が家が、何もかもが国のモノに、みんなのモノになった
だから、自分のモノは自分以外、何もない このカラダだけ
「ひとつ・生くっとにお金は必要なかばい」
そう、医衣食住には困らない このカラダの労働と引き換えに
「ひとつ・みーんな正規の公務員たい」
そう、誰も労働から逃げれない
選べるのは、軍の徴兵制か、民の徴労制の どちらか
平等に仕事を分配するための徴労制は、希望する職種を申請できるけど、
判断するのは労働省 のAIだ、きっと
仕事をイビツにしているのは、労働とその報酬
資本主義なら、たくさん働けばたくさん貰える
でも、この国の報酬、医衣食住のワケマエには、平等のルールと上限があるだから、この国でたくさん働けない 労働時間は厳守
だって、残業に報酬を出せないから
だから、スキルを上げて、時間の報酬を受け取ろう ってゴマかす
皿うどんが言ってたっけ「やることが同じやったら、スキルが上がれば、労働時間の短かくなるケン、そん時間ば自分の時間に還元できるっタイ、これも社会の恵みバイ。こん国では、価値は時間に置き換わるとッ」ってね
アホかッ
漁業であれ、建築業や公共鉄道やバイオであれ、何次産業であっても、
仕事は熟練したスキルの上に成り立ってんだ
スキルが上がってくのは初心者かお手伝いだけだろ
本当にそうなら、僕も帆香さんも、ちょっと働けば帰れるはずジャン
つまり、熟練スキルの犠牲の上に成り立ってるってことだろ
さらにイビツにしてるのが 分業クソッタレ政策
DJサトミが話してたっけ「資本主義は、効率化で非人間性を要求してくるでしょ。そのひとつが分業と単純作業。この国は非人間性を否定するの。人が人らしく、分業なんかクソくらえ ってね。この国はみんなで、非効率を楽しみ、生きることを楽しむの」
【シン・九州 転 六 も読んでみて】
あのさぁ、頭ん中お花畑かッ
切羽詰まった僕たちに、非効率を楽しむ余裕なんてあるわけないじゃん
だいたい、漁業や農業が非効率なら、この国はあっという間に食糧危機だ
いったい、なんのために働いてるんだろう
漁師のモチベーションって、何だろう
今までみんな、金のために働いてきた 金が生活を支え、欲望を満たすから
それをいきなり、国のために みんなのために って...
医衣食住のワケマエが、食を支える矜持に見合う報酬とは思えない
そりゃ、この国のユルさに馴染んでる漁師もいるだろうけど
ほとんどは、ガソリンの配給を止められない程度に、船を没収されない程度に、職を変えられない程度に
与えられた水揚げ計画に、頑張ってるフリをしてるだけなんじゃないか?
急激な変化に、やる気がイビツに歪んでる
いったい、なんのために生きてるんだろう
儲けるための仕事ではなく、生きるための仕事
でも、生きた証を残せない
毎月消えていく医衣食住のワケマエだけで、何も残らない
ただなんとなく生きてるだけジャン
面白くも悲しくも悔しくもない
いったい、どんな未来がこの先に待ってるんだろう
その未来は、ツクシノシマが描いた未来なのか
もし、この国が壊れたら
何も持たずに、何の保証もない世界に投げ出されたら
制御室 正面右のサブモニターに映る日向灘の癒しの映像に目をやる
僕たちは、生きていけるのかナ?
結 五「ボクのアバター タケルが 、Knetの中を 飛んでるぅぅぅ」
につづく
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