道頓堀の女王アリと仲間たち 4
こんな風に話してるように思えてしゃあない
争奪戦 3
大阪 道頓堀に面したテラスの前にはお洒落な花壇。その地下にザッと5万匹のアリたちが暮らす巨大な巣イブ・シティが深く深く広がっている。
5月のある夜、湊町リバープレイス横の天空の広場で、探索係第8旅団およそ90匹の目の前に巨大なケーキの山が落ちてきたその夜、第8旅団中継班のカワがフラフラになってイブ・シティに帰ってきた。
イブ・シティ
地下 入口
1階 [ゴミ捨て場] [入口駐屯室] [外勤待機室] [トイレ]
2階 [豪華トイレ] [女王の間] [女王食料庫] [女王駐屯地]
3階 [ゴミ捨て場] [ユリカゴ] [送風係] [外勤休憩室] [トイレ]
4階 [トイレ] [保育園] [保育食料庫] [保育駐屯地]
5階 [ゴミ捨て場] [マユ庫] [マユ駐屯地] [タカラ部屋]
6階 [トイレ] [働き学校] [兵隊学校] [外勤寝室] [ゴミ捨て場]
7階 [豪華トイレ] [秘密の部屋] [ゴミ捨て場]
「緊急速報ぉ 緊急速報ぉ」
そう叫びながらヨレヨレと入ってきたカワに、入口付近にいたアリたちが驚き、騒ぎ出す。入口駐屯室から警護班長 兵隊アリのウシが何事かと飛び出してきて、倒れそうになるカワを
「どないしたんや、ヘトヘトやなジブン」とサッと支える。
カワは乱れる息で「ハァハァ.. 第8旅団団長のマチ様から ヒィヒィ.. 特急の言伝を フゥフゥ.. 承ってますぅ。ヘェヘェ.. 長老にお伝えして..」
ガクッ と気を失った。
ウシ「おい、パシリ しっかりせんかい コラ..」
ウシは近くにいた部下たちへ「オイッ 長老たちを外勤待機室に集めるんや。大至急やで」と命じると、カワを顎で挟んで外勤待機室へと向かう。
話をケーキ落下直後に戻す
天空の広場 その花壇の森の中で、巨大な山が落ちてくる、団長マチと副長イチの直ぐ目の前 いや触角の前に。吹き飛ぶ大きな破片が第8旅団に襲いかかる。
イチが叫ぶ「総員退避ぃ 総員退避ぃ」
だが、間に合わない。
生クリームの雫が、イチゴの岩が、クッキーの土砂が、旅団のあちこちに降りそそぎ、兵たちを圧し潰してゆく。
マチは悲壮感を纏って走り出し、大声で「みんなぁぁ 大丈夫かぁぁ 元気なモンは手ぇ貸しやぁ みんな助けるんやぁ」と全兵に告げると、自分も「今いくでぇぇ」と叫びながら直ぐ触角の前の生クリームの雫へ頭から突っ込む。
イチがひっくり返った声で「マチィィィ 団長が何してんねん」と叫びながら、いまマチが飛び込んだ雫に駆けつけ、生クリームを掻き分ける。
「ん?」 掻き分ける前脚と中脚を止めるイチ。
そして、救助を始めた第8旅団全兵が 「ん?」 動きを止める。
『なんや、この心奪われる香は』
ポンッ 雫の中からクリームまみれのマチが顔を出し、
イチの触角の前でニヤッとして「やったで」
ニコッとして「きた来たキタきたぁ」
そして笑顔満開で「宝の山やぁぁぁ」と前脚と中脚のガッツポーズで叫ぶ。
ウォォォォォォォォォ 第8旅団の全兵がマチに合わせて雄叫び いや、雌叫びを挙げる。
たくさんの雫から生クリームまみれで這い出してくる笑顔たち。
ゴロゴロ転がっているイチゴを押しのけて、真っ赤な口をモグモグしながら出てくるニヤニヤたち。
土砂崩れのクッキーからムクッと顔を出して、顔のまわりをガリガリと頬張るニコニコたち。
見上げるほど巨大な、心奪われる香の、甘い甘い塊の前で、第8旅団のお祭り騒ぎは止まらない。
腹一杯食べて、別腹に貯めるだけ貯めて、笑い、歌い、肩を組んで、ハシャギ、倒れ、そしてまた食べる。
食べても食べてもビクともしない巨大な塊。
およそ90匹の幸せの踊りが止まらない。
いや、1匹を除いて。
「団長」..踊り狂うマチと愉快な仲間たち
「団長ぉ」..満面の笑顔でイチゴをかじるマチと愉快な仲間たち
「だ・ん・ちょおおおぉぉぉ」その大声にピタッとバカ騒ぎが止まり、みんなの顔が声の主を向く。
ただ1匹、冷静な作戦班長ガリが「団長ぉ すぐに敵が来まっせ。早いとこ作戦会議やりまひょ」
顔じゅう生クリームまみれのマチが真顔になり「おおきにガリ。せやな、騒いでる場合ちゃうな。班長たちぃぃ 集まりやぁぁ」
マチは、第8旅団幹部の副長イチ、作戦班長ガリ、戦闘班長トラ、守護班長タテ、救護班長カン、中継班長ソラを集めると
「旅団を5個の大隊に分けてやな、4個大隊をイブへお宝を運ぶ運送隊にしてな、隊長はトラや。ほんで1個大隊はお宝を敵から守る守備隊にしてな、隊長はカンにやってもらうゆうんはどうや?」と始める。
直ぐにガリが食いつく「あのデッかいお宝を守るんに、1個大隊は少なすぎでっせ。3個大隊でも足りひんのに」
マチは「うん、あんな、まずな、パシリにイブ・シティに走ってもろてな、1個師団ざっと1000匹の応援を頼むんや」そしてパシリ班長のソラを見て「ソラ 足の速い娘 1匹呼んできて。直ぐやで」それからガリに向き直ると「応援が来るまではな、大変やけど守備隊1個大隊で守てもろてやな、その間にできるッだけたくさんのお宝をイブへ運ぶちゅう作戦や」
ガリは前脚と中脚で腕を組み「ンンンー」と首を傾 げ
「やっぱり無茶や。1個大隊なんてアッちゅう間に敵に捻り潰されまっせ。守備は3個大隊にしときまひょ。あと、応援は無理を承知で2個師団にしときまひょ」とグイグイくる。
マチも「運ぶんが2個大隊は少なすぎや。いつまでたっても終わらへんやんか」と譲らない。
ガリはしばらく考え、渋々「しゃーないですね そしてたら応援が来るまで守りは2個大隊でなんとかしまひょ」
マチ「頼むなガリ そしたらこれでいこか」とみんなを見回す。
イチが横から「なぁガリ、あのお宝ナンボやろ」
ガリは山を見上げて「そうですねぇ、向こう1年イブ・シティ5万匹を食わせられるぐらいあるんとちゃいまっか」
オォォォッと周りがどよめく。
マチはうなづきながら、ソラと一緒にやってきたパシリ班のカワへ
「ええか、カワ 大役やで。イブ・シティへの緊急速報を言伝 るさかい、しっかり頭に入 れてや」
そして、フゥとひと呼吸おいて、ゆっくりと、ドスをきかせて
「第8旅団 天空の広場でお宝を発見セリ。お宝はイブ・シティ1年分の食料ナリ。貯蔵庫を増設されタシ。大至急、2個師団の応援を要請スル」
複眼をキョロキョロさせながら復唱するカワへ、続ける
「頼むでカワ イブ・シティへ伝えるんや。全速力のぉ特急便やぁぁぁ」
その大声に驚いて飛び上がったカワは、そのままイブ・シティへ向かって走り出す。道標を頼りに。
ガリがその背中へ「きばりやぁカワ、はよ応援頼むでぇ」と拝む。
カワを見送ると「そしたらなガリ、あとの細かいとこは任したで」と振り向くマチに、ガリは「ハッ」と敬礼して、直ぐに旅団を大隊へ分けてゆく。
その上を、ハエが1匹 お宝に向かって飛んでゆく。
イチ「もう来よったでハエ族が。早いがな。アイツら空からヒットアンドアウェイやよって、戦にならへんしなぁ。直ぐにギョウサンやってきよるでぇ」そう言って守備隊長のカンを探すと
「ええか、カン ちょっとぐらいやったらアイツらにお宝取られてもカマへんけどな、長居するようやったらガツンと追っ払うんやで」
カンは「ハッ」と敬礼すると、たったいま決まった2個大隊の守備隊を引き連れてお宝へ向かう。ガリはカンに守備隊の陣形を伝えながら、一緒に山へ向かう。
マチは残り3個大隊の運送隊の先頭にたち「そしたら、みんな行くでぇ」と、イチと並んで宝の山へと向かう。
陽はトップリと暮れ、5月というのに妙に肌寒い いや殻寒い夜が始まる。
「ななな なんやてぇぇ こ このイブ・シティを む 向こう1年 くッくッくッ 食わせられるやとぉぉぉ」
イブ・シティ外勤待機室で中継班カワの報告を聞いた長老のオオは、ヨロヨロと立ち上がりそう叫ぶと、目を回してそのまま後ろへひっくり返る。
5 につづく