モノ言うコーモン 壱 ~はじまりの朝~
注:『 』は心の声です。
『あかん、今日も出ぇへん』イキみ疲れて便座で頭を抱える西 乙女。
『なんでやねんな いっそがしい朝に一瞬でヤッつけたろ思とんのに、もう3日目やで…何が邪魔しとん』そして、もう一回イキもうとしたその時、
『なっとらんのぢゃ』と乙女の心に声が響いた。
乙女は、鬼の形相で便座から飛び上がり、辺りをキョロ見する。
『そんなに躰を固くしたらもう無理ぢゃ 外さんも内さんも驚いとる』
顔面蒼白の乙女は、声の主を探しながら『だ だ 誰や』
『カッカッカッカッ ワシか ワシはのぅ お前さんのコーモンぢゃ』
乙女が真っ白な頭でトイレを飛び出すと、オカンが目を上下させながら
「どうしたんその格好 ちゃんとしぃ なんや顔色オカシイで」
乙女はオカンを見つめて『話せへん、こんなん話せるわけないやん』
サッと格好を直し「だ 大丈夫や」とだけ返すと、乙女はショルダーバッグをつかんで朝食もとらずに家から駆け出した。
戎さんの細道を河内長野駅へ歩いていると
『名前で呼んでもええかのぉ』
が心に乱入し、乙女の歩が止まる。下を向いた目は焦点があってない。
『な なんで着いてきとんねん』 震えながら言いかえす乙女。
『だからのぉ、ワシは乙女のコーモンなんぢゃ。着いてくるんではなく付いとるんぢゃ』
真っ赤な顔で『17歳の乙女に、なんちゅう話をしとんねん』
さすがJK、アッという間に対等になる
『カッカッカッカッ まぁ話をしながら駅に向かおうかのぉ』
『指図すな! なんや話って』 素直に歩き出す乙女。
『ふむ、乙女はナゼ出ないと思う』
『クイズかい!』すっかり慣れてしっかりツッコむ浪花っ子
『乙女はのぉ、ちゃんと己の躰に向き合っておらんからぢゃ』
『なんやそれ、ちゃんと向きおうてるわ』
『そうなら、ウン…いや、乙女の前ぢゃ 実弾としておこうかのぉ ナゼ朝ご飯の前に実弾を出そうとするんぢゃ』
『実弾って… まぁええわ しゃあないやろ、時間がないねん』
河内長野駅の改札を抜けて発車間際の7:20発 南海難波行きに駆け込む
「はぁ、間におうた」と扉横に滑り込むと目の前に…イケメン
『時間の問題ではないんぢゃ 順番の問題なんぢゃ』
乙女は眉の間に皺を寄せて『なんや順番って?』
『乙女は己の腸にちゃんと向き合っておらんのぢゃ』
ちょっと怒った顔で『腸に向き合うって…どないすんねん』
『先ず 腸より始めよ ぢゃ』
はぁ?の顔で『なにイキっとんねん せやからな、何すんねん』
『黙って聞きなさい 朝起きたらまず腸を動かすんぢゃ お腹のツボを押して、腹筋を使い、マッサージをしてから体操ぢゃ ホンの20分ぢゃ』
なに言うとんねんの顔で『あんなぁ、朝からそんなんする時間あるかいな』『大丈夫ぢゃ ワシが起こしてやろう 細かいことは明日の朝ぢゃ』
乙女はトホホな顔で『せやからな… 起きられへん』
次から次へと顔を変える乙女に、目の前のイケメンは別の車両へ逃げた。
『ちゃんと向き合うんぢゃ さぁ、腸が動いたら次は直腸ぢゃ』
ん?な顔で『なんや、直腸て?』
『まったく、直腸を知らんのか よいか、乙女がオナラ…いや、空砲としておこうかの 乙女は今まで空砲のつもりが実弾だったことなどないぢゃろ』
真っ赤な顔で『あたりまえや!あるかいそんなん!そんなんしてみぃ…』『うむ、その空砲か実弾かを見極めておるのが高性能センサー 直腸ぢゃ 凄いぢゃろ さらにぢゃ、気体の空砲を固体の実弾よりも先に下から出せるんぢゃ この直腸のアクチュエータは、もうほとんど神の領域ぢゃ』
混乱する顔で『ようわからへんけど… 凄いねんな』
『ただのぉ、ゲリ…いや濁流としておこうかの 空砲と濁流のセンスはむずかしいんぢゃ 濁流っぽい時は人前での空砲は気をつけねばの』
笑い顔で『なんでそんな一か八かの勝負せなあかんねん、せぇへんわ!』
ハッと、乙女は周りの視線に気がつく。ナンデみんな笑っとん?
『次ぢゃ そして直腸カタパルトにセットされた実弾は、いよいよワシへと送られるんぢゃ』
7:48三国ヶ丘駅着 乙女は俯いて逃げ出すように車両から飛び出し 7:51発 JR阪和線(天王寺行)に乗り換えて「混んどんなぁ」
『こんなズダ袋の芋みたいな毎日 大変ぢゃのぉ』
キッとして『誰が芋や でもなぁJKは色々大変やねん』
『少ぉしワシの愚痴も聞いてもらおうかのぉ』
はぁ?の顔で『なんでアンタの愚痴 聞かなあかんねん?』
『そもそもワシらコーモンは、馬や牛や犬や猫 といった四つ足には横向きについとるんぢゃ いっつも日の当たる場所におっての 堂々とその姿を誇示しとる 四つ足はの、実弾を腹筋で支えとるから、ワシらは実にシンプルな作りなんぢゃ ところが、ところがぢゃ 人間へ進化して二足歩行になると、なんとワシらは下向きに改造されたんぢゃ 実弾は真下に降りてくる 支えるどころではない 全力で実弾の落下を阻止せねばならん もう、ワシひとりではどうにもならん ぢゃからな強力な助っ人を家来にしたんぢゃ 外さん と 内さん コーモンのど根性は、この二人の家来のお陰なんぢゃ』
8:10南田辺駅に着き、桃学へ小走りで向かう乙女は、チョイ悪な顔で
『長い愚痴やったなぁ ようわからへんけど、なんや大変そうやなぁ、外さんと内さん それであんたは何しとんねん』
『二人はワシの一部ぢゃ! でものぉ、尻の奥の日の当たらない場所に隠された下向きの辛い仕事なんぢゃ この悲劇を乙女にわかって欲しいんぢゃ』
プイッと『わかるかいな、そないな悲劇』と教室に入る
『さぁ、いよいよ外さんの緩め方ぢゃ この体操が...』
に怒った顔で「あとにしてんかぁ」と怒鳴る 一瞬で鎮まる教室 あッ
「乙女 あんた誰にいうとん?」隣のチカが大丈夫?の顔で見つめてる。
「だ 大丈夫や」そこへ先生がやってきた。
「またなぁ」放課後、駅でチカと別れてひとりになると
「朝のあのオッサン なんやったんやろなぁ」と思い出した途端
『もう話して良いかのぉ』
『まだおったんかい!』
『おる というよりは、ある が正しいかのぉ』
赤い顔でICOCAをバンッと改札に叩きつけながら『もうええっちゅうねん』
『では朝の続きぢゃ 外さんと内さんはもう紹介したかのぉ 二人ともワシの内側と外側でギュッと〆て実弾の落下を阻止してくれとる そして二人がスゥーと緩むと実弾が投下されるんぢゃ』
空いた席に腰掛けながら『それで終いやな』
『何をいうか その緩むとが難関なんぢゃ まず、内さんは内肛門括約筋というての、ワシの内側に陣を敷いておるんぢゃ 内さんは不随意筋での、乙女がどうこうできん筋肉なんぢゃ』
はぁ?顔『そんなんどうにもならんのやったら知っててもしゃあないやろ』
『なんということを 内さんは頑張っとるんぢゃ 覚えんか!』
やれやれ顔『まぁええわ』と三国ヶ丘駅で乗り換え腰掛ける
『次が外さんぢゃ 外さんは外肛門括約筋というて、ワシの外側に陣を構えておる 外さんは随意筋での、乙女が操ることができる筋肉ぢゃ』
あぁと思い出した顔で『それやな、朝 言いかけてたんわ』
『そうぢゃ ぢゃがの便秘が続いたりするベンピニストは外さんをうまく操れんことがある 今の乙女がそうぢゃ』
目を大きく開けて『ベンピニスト! イキっとんなぁ まぁええわ それや それどないすんねん』
『うむ まずワシをな、ギュッとするんぢゃ そぉれ』
は?の顔で『何やて? 今かいな』
『やりなさい』
乙女は周りをキョロ見してから ギュッ
『なんぢゃそれは 弱いのぉ もっと強くぢゃ』
乙女は下唇を出して ギュゥッ
『まだまだぢゃ 頭のてっぺんを掴み上げるように〆るんぢゃ』
歯を食いしばって ギュウウッ
『わかっとらんのぉ 外さん 懲らしめてやりなさい』に、外さんが声なく〆あげる ギュアグウウウッー
乙女は飛び出しそうな目で天井を見上げ、躰は引き攣り、身動きできない
ようやく外さんが緩めると、乙女は席から立ち上がり下に向かって大声で
「どアホォ! こんなんできるかい!」
車両の全員が乙女をガン見している 『しもた…』
「河内長野ぉ 河内長野ぉ」と助け舟のアナウンスが流れ、乙女は真っ赤な顔で俯き、開いたドアからそそくさと駅に降りた。
改札を出て戎さんへ歩き出す
『あんなんウチにできるわけないやん』
『まぁ、あそこまでしなくてもいいがのぉ』
はぁぁぁ『だったらすなや!』
『まあまあ、大事なのはその後なんぢゃ』
へ?『は?』
『ワシを〆たあとにゆっくりと緩めるんぢゃ ゆっくりとぢゃ これを繰り返すと外さんをうまく操れるようになるんぢゃ』
なんや『先にそれ言わんかい なんでいきなり〆んねん』
『これを骨盤底筋体操というんぢゃ』
ほぉ『ふーん、それで終いやな』
『そしてぢゃ』
へっ?『まだあるんかい』
『顔を洗う時に、コップ一杯の水を一気に飲むんぢゃ これも大事ぢゃぞ』
へぇ『水が…かい』
『そうぢゃ、そして朝ごはんをちゃんと食べて聖域で勝負ぢゃ』
そんな『勝負て…大袈裟やろ』
『わかっとるのか乙女 4日目に入ったら、そりぁ大変ぢゃぞ』
乙女は家の前で俯き『せやな 明日は勝負や よろしゅうな』
『ふむ、任せなさい たっぷりと寝るのも大事ぢゃぞ カッカッカッカッ』
弐 につづく
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