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道頓堀の女王アリと仲間たち 6

こんな風に話してるように思えてしゃあない

争奪戦 5


大阪 道頓堀に面したテラスの地下深くに広がる巨大なコロニーイブ・シティの地下2階。女王サイのトンデモない聞きまつがいで、いわれのないトバッチリをくらった2匹のアリが、女王の間から血相けっそうを変えて飛び出してくる…

「アンタらッ」
女王の間からトップスピードで逃げ出してきた第8旅団中継班だいはちりょだんパシリカワ入口駐屯室警護班長ウシが呼び止められる。2匹はキッキッキーッと止まり「エッ」と揃って振り返ると、話しかけてきた美しいアリに「エェーッ」と見惚みとれて動けない。
「あきまへん 姫様」と8頭身の屈強くっきょうな3匹のアリが囲み隠そうとするが、「ええんや」とそれを押し退けて、神々こうごうしい羽としなやかな甲殻ボディをもつ美しい顔が、2匹の前にグイッと出てくる。
「姫様ぁ?」素っ頓狂スットンキョウな声を上げるカワとウシ。
美しい姫様は「いま女王に話してたんを、ウチにも詳しく聞かせてんか」そう言うと「ついといで」と、クルッと奥へと歩き出す。
ウシがその背中へ「あの、姫様て…誰やねん?」といぶかしむと、
「黙らんかい💢無礼者ッぶれいもん」と、カワとウシの後ろから8頭身の屈強Aが怒鳴る。「このお方を誰や思とんネン 新女王アリのイズ様や が高い、控えヤッ💢」
ヘッヘェェェ エッ 新女王?...誰? と、目を合わせるカワとウシ。
構わずスタスタと歩いてゆくイズ  「早よ行けヤッ💢」と屈強Aに後ろからド突かれて、アタフタとついていくカワとウシ。
地下2階の女王食料庫の前を通り、女王駐屯地を過ぎる。
通路にひしめきすれ違うアリたちは、イズの美貌びぼうに振り返り、そして 誰? とヒソヒソと話している。
構わぬイズを先頭に、6匹は地下2階奥の昇降通路を降りてゆく。

地下       入口
1階 [ゴミ捨て場] [入口駐屯室] [外勤待機室] [トイレ]
2階 [豪華トイレ] [女王の間] [女王食料庫] [女王駐屯地]
3階 [ゴミ捨て場] [ユリカゴ] [送風係] [外勤休憩室] [トイレ]
4階 [トイレ] [保育園] [保育食料庫] [保育駐屯地]
5階 [ゴミ捨て場] [マユ庫] [マユ駐屯地] [タカラ部屋]
6階 [トイレ] [働き学校] [兵隊学校] [外勤寝室] [ゴミ捨て場]
7階 [豪華トイレ] [秘密の部屋] [ゴミ捨て場]

カワはスッとイズの横に並び、通路を降りながら天空の広場で起きた大事件をまた最初から話し始める、笑顔満開で。
イズはニヤッと「なんや楽しそうやな」と合いの手を入れると、
カワは「あんな夢みたいなん、初めてやよって」とニコニコで返す。
地下4階5階と6匹はどんどん降りていく。カワの話も止まらない。
ウシが「ぉいぉい、どこまで降りんねん」とツッコむと「タメぐちすなッ💢」と屈強Bにらんでくる。ウシはその屈強Bへ恐る恐る「ひょっとして、もしかして、アンタら…オスアリかいな?」と上目うわめ使いで見ると、屈強たち全員が キッ とウシをにらみ、沈黙でこたえる。「恐ッわぁ」と肩をすくめ、複眼をそむけるウシ。

とうとう最下層の地下7階まで降りてくると、ウシはキョロつきながら「ここはアカンで きたらアカンとこや」と叫ぶ。
が、イズは構わずズンズン進み、秘密の部屋へと入っていく。
カワもウシもビビってオタオタしていると「ええから、早よッ入ってこんかいッ」とイズがイライラッとカワとウシを呼ぶ。
うしろの屈強Cにド突かれて2匹がビビりながら秘密の部屋へ入ると、玉座ぎょくざに腰掛けたイズが「で、巨大な喰いモンってわかったあと、マチは何て言うたんや」とカワをかす。
話そうとするカワより前にウシが「ここは…いったい…」と大きな部屋をキョロつくと、イズはイライラッのボリュームをさらに上げて「ここはウチの部屋やッ 次の女王のウチが未来を考える場所やッ 心配いらへんさかい、黙っとかんかいッ」ウシは複眼ふくがんいてイズへ「次の女王って…マジで言うとん!?」と言い返す。
その横で、カワは静かにイズに答える「マチ様は、第8旅団を5個の大隊に分けて、2個大隊で宝の山を守って、3個大隊でお宝をココに運ぼうちゅう作戦を立てはったんですぅ」
イズは中脚と後脚の激しい貧乏ゆすりで「はぁぁぁ? たった2個大隊で守るやて? イブ・シティ1年分の食いモンをかいな?」とあきれかえる。
カワは「せやから、応援が来るまでは2個大隊で何とか持ちこたえようって。それでウチに、2個師団の応援言伝ことづてはったんですぅ」
イズは美しい顔を歪めてカワに掴みかかり「アホかッ 2個師団で足りるかい! たった2000匹でナニができんねん」とイキりたち、うしろに控える屈強たちへ叫ぶ「守護のシシを呼びやッ 今すぐやッ」
すでにカワは真っ青になって気絶している。


しばらくして
「どないしましてん こんな夜更よふけに」と屈強Aに連れられ大きな兵隊アリのシシが、のっそりと秘密の部屋へ入ってくる。
保育駐屯地の警護班長だったシシは、いまイブ・シティ全ての守りを任される守護係しゅごがかり係長として、シティの隅々に複眼を光らせている。
イズが、シシをにらんでドスの効いた声で「緊急事態や いま天空の…」と語り始めると、それをさえぎるように、シシが玉座の横にいるウシを見つけて「なんやッ ウシやないかいッ 入口駐屯室のアンタが、こんなとこでナニしとんねん💢 ここには、地下7階には来たらアカンってあれほどゆうたやんなぁ」と怒鳴り散らすシシに、敬礼したまま直立不動で凍りつくウシ。
イブは後ろから「ウチが連れて来てん 許したりぃ」と助け舟を出し、ドスを利かせて「まずは黙って聴かんかいッ」と、天空の広場の大事件をシシに語り始める。

「…ちゅう訳や ええな、今から全軍出動やッ」
と凄むイズに、シシは「あきまへん」と触角を振る。
イズはキッと「なんやてッ なんでやッ」とイキリたつが、シシは首をかしげて涼しい顔で「あきまへんなぁ」と返す。
イズは「あ”ぁぁぁあッ💢」とブチ切れてシシにつかみかかるが、屈強たち3匹に「おやめ下さい 姫様ッ」と羽交締はがいじめではばまれる。それでもイズは、はばむ屈強たちの間から顔を出して「ワレ ウチの言うコトが聞けへん言うんかいッ💢」と美しい顔をゆがめてわめく。
シシは顔をキツくしてイズをにらみつけ「あきまへん ゆうたら あきまへんッ」
イズもにらみ返し「せやから なんでやッ💢 仲間見殺しにできるかいッ」と一歩も引かない。
シシはイズの複眼を真っ直ぐ見て「いま外に出たら全滅ですッ」と低くうなる。「へッ?」と部屋の全員が揃って首を傾げる。
シシは全員を見回し「いま、外は季節外れにメッチャ冷えてますねん もしいま外に出たら、あッちゅう間に全軍動かれへんようになって、道頓堀も越えられまへんッ」
シィィィーーーン 誰も何も言い返せず、複眼が点になっている。
シシはイズへさとすように「大丈夫です きっとマチたちもどこぞに隠れて朝を待ってる思います。せやから 今はしっかり準備しとかんと。全軍出動は明日、太陽が出てからですッ」
イズはコクッと頷いて玉座に戻り「まだまだやなぁ はぁぁぁ」と大きなタメ息をついた。
シシは、そんなイズをいとおしげに微笑ほほえんで見つめている。

夜が明ける。
寒さが残る朝靄あさもやの中、天空の広場の虫たちはまだ動けない。
そして、静かな花壇の森に陽が漏れ始める。
草の原に、き出しの土に、そしてケーキの山にも、小さな木洩れ陽こもれびがあたり、その陽がだんだんと大きく、そして強くなる。
朝靄あさもやが消え、少しずつ気温も上がり、モゾモゾッとケーキの中から、土の中から、草の中から第8旅団兵たちがい出てくる。
アリたちは木洩れ陽こもれびに集まると、甲殻からだに陽をあててゆっくりと体温を上げてゆく。
いち早くケーキから抜け出していた団長のマチ副長のイチは、山の頂上の木洩れ陽こもれびで温めた甲殻からだをコキッコキッと動かしながら、山の周りを眺めている。
マチ「何匹残ってんねんやろなぁ」
イチ「ようけクモに持ってかれたさかいなぁ」
マチ「先ずは幹部を集めよか」
イチはうなずくと山の上から大きな声で「作戦班長ガリィィ 戦闘班長トラァァ 守護班長タテェェ 救護班長カァァン、中継班長ソラァァ 甲殻からだが温まったまったらなぁぁ 班の兵を数えてぇぇ 本部に集まりやぁぁ」


本部に集まった幹部たちは、暗い顔で肩を落としている。
89匹いた旅団兵は、いまはもう幹部を合わせても67匹しかいない。
ガリが気丈きじょうに「へこんでる場合チャイまっせ。暖かぁなったら、またゴキクモも、それから他の敵もぎょうさんやって来よるさかい、もう全員で守らんとッ」とカツを入れると、幹部たちはウンウンとまわりとアイコンタクトしながら士気をアゲる。
でも、マチだけは「アカン 少しずつでもイブ・シティにお宝を運ぶんや。応援の状況も知りたいよってな」と冷静に反論する。
幹部全員が『マジかいなッ?』と複眼をいてマチを二度見する。
ガリが「ナ ナニうてますのッ 守り減らしてどないしますねん」と食ってかかるが、マチは触覚を横に振りながら「守るんも運ぶんも 半分づつやッ」と一歩もゆずらない。ガリはマチをにらんで近づき「そんなに手柄てがらが欲しいんかいッ」と喧嘩腰ケンカごしつかみかかると、たまらずイチが間にスッと入り「ガリッ、やめんかい」と体を張ってガリを止める。
マチはガリをにらみ返して「ドアホゥ💢 手柄なんかどうでもええねん」としかり飛ばし、幹部たちに向かって「もう応援がこっちに向かっているはずや。でもな、道標みちしるべフェロモンがな、もう消えかかってんねん。道標みちしるべを継ぎ足さんと、せっかくの応援が迷ってまうやろッ。ウチらの半分ぐらいで出さんと道標みちしるべにならへんねんッ」
シィィィーーーン
トラがさとすように「ガリ 団長の言う通りや」
ガリ「せやけど…」
カン「なんのために守んねん」
タテ「守備隊は兵隊アリで固めたらどうや、ガリ」
ガリ「運送隊にかて兵隊アリがおらへんかったら、敵に食われ放題…」
を遮ってマチは「そこまでやッ。もう言いうてる時間はあらへん。敵が来る前に みんな 動くでッ
幹部たちは「ハッ」と前脚と中脚の敬礼で応える。
マチ「ガリ 守備隊と運送隊をキレイに選んでなッ 頼むで」
ガリも「ハッ」と敬礼して、幹部たちと一緒に宝の山へと駆けて行く。

7  につづく

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