見出し画像

道頓堀の女王アリと仲間たち 3

こんな風に話してるように思えてしゃあない


争奪戦 2

大阪 道頓堀にかかる浮庭橋うきにわばし
五月晴さつきばれの下、この緑溢みどりあふれる天空の橋を、イブ・シティ 探索係第8旅団たんさくがかりだいはちりょだんおよそ100匹のアリたちが颯爽さっそうと進んでゆく。天空でありながら、橋の入口には深い森の公園がある。初めて見る新兵たちは、美しい天空の公園に息をみ、立ち止まり、そしてキョロつく。公園の真ん中には巨木が天をくようにそびえ、巨木の周りに2つの銀色の輪が浮かんでいる。その銀色の輪に腰掛ける2頭のヒト 2本の後脚うしろあしで歩く巨大な種。イブ・シティでは『探索係が一歩外に出れば、そこには7種の敵がいる』と教わるが、この種は出会ってもほとんど敵になることはない。それでも、初めてこの巨大な種を見る新兵たちは、そのデカさに凍りつく。
探索経験が長い戦闘班長のトラが陽気に「大丈夫や コイツらデカァてノロいだけで、敵やないで。ウチらはな、ウチらに気ぃつかへんコイツらの後脚うしろあしにな、ノロいノロい後脚うしろあしに潰されんようにしとったら、それでエエんや」となごますと、新兵たちはホッと溶け始める。一転、トラはキツい顔で「ウチらがマジで気ぃつけなアカンのはな、コイツらの半分ぐらいのデカさのやっちゃ。コドモ言うねん。間違いなく敵やで。アイツら容赦ようしゃのぉウチら追っかけて来よるからなぁ、目があったらなぁ、逃げて隠れてやり過ごすんや。間違ってもイブ・シティに連れてったらアカンでぇ。ソイツらにカチコまれたらなぁ イブ・シティ 滅ぶで」恐怖の余韻に、また凍る新兵たち。
「あんなぁ」と副長のイチがトラを叱る「ナニみんなビビらしとんねん 先行さきいかれへんやない..」を遮る ズシン ズズ..ズシィン.. せまり来る地響じひびきに合わせて揺れる第8旅団。すぐ横を、空にそびえる別のヒト3頭がゆっくりと動いてゆく。凍りつき見あげる新兵たち。ズシーン ズズ..ズシィィン.. 3頭が通り過ぎると、団長のマチが笑顔で「すぐ慣れるさかい、大丈夫やぁ」となごますが、もう簡単には溶けないガチガチの新兵たち。
マチが「はぁぁぁ しゃぁない、ほっとこ。そしたらなぁガリ、小隊にこの公園を探索させてんかぁ」と命じると、作戦班長ガリは「はッ」と右前脚みぎまえあし右中脚みぎなかあしで敬礼し、作戦班と戦闘班と中継班からサクッと5匹を第1小隊だいいちしょうたいに選ぶ。そして、その前に立ち上目遣うわめづかいで「ええかぁ、お前ら命懸けてこの公園を探すんやでぇ。もしええモン見つけたらなぁ、お前らみんな勇者や。しっかりやって旅団に戻ってくるんやでぇ。きばりやぁ」と作戦班らしくモノ静かにげきを飛ばす。第1小隊の5匹は引きつりながらも「はッ」と右脚左脚バラバラで敬礼して、アタフタと公園の森の中へ消えてゆく。
それを見届けたマチが「よぉーし、そしたら第8旅団 出発やぁ」
副長イチが「みんな道標みちしるべたっぷり出してやぁ。薄いとなぁ、みんなイブ・シティに帰られへんし、第1小隊もウチらに合流できひんさかいなぁ」と号令すると、第8旅団全員は道標みちしるべをたっぷりとバラきながら進んでゆく。

遠いところからコロニーに戻ってくる 見つけた喰いモンに辿たどり着く 仲間のピンチに駆けつける
まるでナビが道順を教えているかのように、行き先の標識が並んでいるかのように、遥か上空から眺めているかのように、迷うことなく最短でゴールへ辿り着けるのは、先をゆく仲間たちが残していった道標みちしるべフェロモンかおりが、追ってゆくアリたちを導いているから。仲間の道標みちしるべフェロモンのかおり姉妹しまいかおり姉妹しまいかおり それはつまり、母なる女王サイのかおり 家族のかおり。心安らぐそのかおりを探して進んでゆくと、いつのまにかゴールに着いてしまう。まるでそこに道があるかのように
でも、1匹が道標みちしるべはすぐに消えてしまう。大行列で進んでいくアリたちが道標みちしるべを次々とバラ撒くことで、濃密でクッキリとしたかおりの道が生まれる。
姉妹たちの香に包まれて、誇らしく、元気よく進むその至福の道を、とんでもなくイヤなにおいの道が横切ることがある。邪悪じゃあくな、触覚が曲がるほどにクサい道。至福と邪悪の交差点に入ると、隊列はパニックで崩れてしまう。それはほかコロニーの匂い。ザワつく敵の匂い。もし敵と合間見あいまみえれば、お互いの邪悪な匂いは戦いのゴングになる。

第8旅団が、公園を出て天空の曲がりくねった道を進んでゆく。
まるで科学特捜隊本部のような湊町リバープレイスを左脚に望みながら、橋の両側に生い茂る花壇の、その森の中を南へと向かう。
森の奥、はしハシから、さらに高いそびえ立ち、その壁一面に森が絡みついている、空へと伸びるかのように。橋の外へとあふれ出た森が、五月晴さつきばれの中で揺れている。
もう少しで橋が終わる森の中で第8旅団を休憩させると、マチははしハシから顔を出して下を眺める。遥か下界を大河たいが道頓堀が流れ、いま橋の下からヒトギッシリと積まれたリバークルーズ船が現れて、湊町船着場に接岸しようとしている。
マチは、隣から顔を出して下を眺めるイチに「あれは、いったい何をしてんねんやろなぁ。あないぎょうさんヒト集めて」
イチ「ホンマやなぁ、どっかにゴッツイ喰いモンが落ちてて、いくさにでも駆り出されるんちゃうか」
マチ「ホンでも、アイツらなんや楽しそうに赤い顔してわろてるで。ウチらとはチャウやろ」
イチ「せやな、アイツら喰いモンに困ってるとこ見たことないしな。何でやろな。なんか腹立つなぁ」
マチはニヤッと「ボヤかんとき、ボヤかんとき。ほな行くで」そして第8旅団へ「出発やぁ」と声をかけたその時 ズドーン..ズドドド..ズシーン..ズドドド.. 縮こまる第8旅団の横を真っ赤な髪のヒトが1頭 地響きをたてて通り過ぎてゆく。
そのうしろから ズシィィン..ズシィィン.. 追って来た緑の髪が「待ってぇな、プルちゃーーん」 大音量と地響きが通り過ぎる。
またまた凍りつく新兵たち。
地響きは遠くに消えたが、イチの「さぁ、行くでぇ」に動けない旅団。
ガヤガヤとビビり倒す新兵たちに、マチは笑顔で語りかける「ほなな、みんな行こかぁ」 ようやく新兵が溶け出し、ゆっくりと動き出す旅団。
浮庭橋うきにわばしの出口に差しかかると、こちら側にも緑豊かな公園がある。マチはここでもガリに小隊の探索を指示して、第2小隊が公園の森へ消えてゆくの見届けると、第8旅団を橋の出口から広い広い天空の広場へと連れてゆく。

「アンタの顔なんて、もう見たないネン💢」
湊町リバープレイス横の大階段から続く2階の広場、そのキレイな広場の端を緑の花壇が縁取ふちどっている。少し日が傾き始めたその花壇の前で、カップルらしき2人が何やらモメている。
「プルちゃん、ナニ怒っとん?」花壇の奥に見えるイタリアンレストランを背に、緑髪の男はニヤけた顔で困っている。
「はぁ?ウチがナンも気ぃついてへんとでも思とんカイ💢」赤髪の女が湊町リバープレイスを背にブチ切れる。
緑髪のニヤけ男「俺が何してん?」
赤髪の怒り女「カッちゃん昨日、千日前せんにちまえで知らん女とベタベタしとったヤロ💢」
一瞬の真顔のあと直ぐにニヤける緑髪の男「アレはちゃうねん。何でもないんや。それより、ホラ 誕生日おめでとうプルちゃん」と袋から取り出した大きな白い箱を、赤髪の目の前に差し出す。
緑の男 白い箱 赤い女 背後のイタリアンレストラン…
怒りの赤髪は白い箱をつかむと「何やこんなモン💢」と花壇の中にブチまける。
緑髪は、白い箱が消えた花壇を振り返り「嘘やろぉぉぉ アルションのケーキやでぇぇぇ」と叫んで、真顔で赤髪を振り返る。赤髪は投げた先へ瞳を見開き「嘘やぁぁぁ」と両手を口にあててヘタリこむ。

天空の広場 その端に茂る森の中を、マチとイチを先頭に意気揚々と第8旅団が進んでゆく。とそこへ、イチとマチの目の前へ、いや触角の前へ、突然、 巨大なケーキの山が、心奪われるかおりの喰いモンが、落ちてきた。

4  につづく

#小説 #創作 #オリジナル #物語 #短編 #フィクション

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?