ツルゲーネフとヴレフスカヤ
うちの定期的なテーマであるロシア『語』やロシア『文学』関係の話題。
昨今の国際状況でロシアに触れるのは、なかなか微妙なものがあります。わざわざ「ロシア語」や「ロシア文学」とお断りを入れるのもそんな理由。
これは私のロシア文化への知識のなさを裏付けるものなのですが、少しばかり不思議なこともあって一つの記事としてまとめておくことにしました。
この記事で初めてうちのnoteに起こし下さる方のために、ちょっとだけ昔の記事の説明から始めます。
ロシア語学習のためのロシア語文庫(対訳・解説付き)
ロシア語学習に関して、手ごろなサイズでありつつ初級の文法学習などを終えた学習者が中上級の文学作品に触れながら、丁度良い分量で繰り返し利用しながらロシア語学習を深められる大学書林の『語学文庫』があります。
『語学文庫』は50年以上も前に出版され現在でも書店に並ぶという息の長い新書版の教材ですが、出版当時は困難だったカセットテープやCD(あるいは最近ならMP3のダウンロード)などといった音源は、残念ながら今でも提供は難しいようです。
ロシア語のオーディオブック LitRes
英語の学習教材のように山ほどテキストやら問題集、CDブック、ストリーミングサービスが提供される環境をうらやましく思っていたのですが、ロシア語版の「Amazonのようなサービス LitRes」を見つけたことで状況はかなり改善されました。
このLitResのサイトはシンプルながら便利な造りにもなっていて、それなりのボリュームのある作品は電子書籍・オーディオブックが両方とも手に入ったりします。
しかしツルゲーネフの散文詩のような小品集のようなものは見つからないことが多いです。他にも『語学文庫』が出版されていながらいまだに朗読音声が見つけられていないものに、トルストイの『子供の知恵」があります。
そんな状況に驚天動地の変化が起きたのがなんとYouTubeに大量に公開されているオーディオブック動画の存在を知った事でした。
YouTubeのオーディオブックと『散文詩』
そのことをまとめたのがこちらの記事。
それまでLitResでは見つからなかったツルゲーネフの『散文詩』の朗読で大学書林の『語学文庫』に掲載されている作品はすべて見つけることができました。
ツルゲーネフの『散文詩』には83篇の詩が収められているそうですが探せばほとんどの朗読が見つかるに違いありません。
さて。この記事を書いたときには意識せずに記したことが、あとで別な事柄とつながる不思議な瞬間を目の当たりにしました。
上記の記事は「ツルゲーネフの『散文詩』の朗読動画@YouTube」となっておりますが、利用している画像は『語学文庫』に収録されている14篇の詩の朗読動画から転載したものではありません。
『ユリア・ヴレフスカヤの記憶』:『散文詩』より
記事をお読みいただけますと分かりますが、たまたま無関係に引用した『ユリア・ヴレフスカヤの記憶』という詩の朗読も追加でリンクを貼り、その動画の作りこみがかなり丁寧に作られたものだったので、画像もお借りしたという状況でした。
「ツルゲーネフ『散文詩』の朗読動画@YouTube」を投稿した2021年の10月30日、なぜ『ユリア・ヴレフスカヤの記憶』だけを引用したのか、記事には特に何も触れていません。
そして、今読み返してみても、なぜそうしたのか全く思いだせないのです。
リュドミラ・サベーリエワの映画『ユリア・ヴレフスカヤ』
2021年のお盆の休み期間中にセルゲイ・ボンダルチュク監督による『戦争と平和』の映画に刺激を受けて、こんな記事を投稿していました。
そして年が明けて2022年1月9日には『戦争と平和』のヒロイン、ナターシャを演じたリュドミラ・サベーリエワが出演した映画やテレビドラマを取り上げたこんな記事を投稿しました。
今から振り返るとなぜこの記事を投稿した時に気が付かなかったのかこれまた謎なのですが、リュドミラ・サベーリエワが出演した映画の一つが『ユリア・ヴレフスカヤ』だったのです!
ツルゲーネフとヴレフスカヤ
大学書林の語学文庫の一冊、ツルゲーネフの『散文詩』には取りあげられていない『ユリア・ヴレフスカヤの記憶』を(全く記憶がないまま)なぜか『散文詩』の記事には記し、そしてリュドミラ・サベーリエワが出演した映画に『ユリア・ヴレフスカヤ』があったことを記事に書くという不思議なことになっていました。
単に記憶力が悪いというのはそういう訳ですが、2022年2月2日という2が並ぶ日にそのことに気が付きました。
ツルゲーネフの友人ヴレフスカヤ
上述の通りツルゲーネフが『ユリア・ヴレフスカヤの記憶』で彼女のことを悼んで詩を書くほどでしたが、ツルゲーネフは友人としてこの詩を書いたことが分かります。
この説明文を見ると、作家のグリゴローヴィチ、ツルゲーネフ、ソローグブ、詩人のポロンスキー、ヴァレシチャーギン、アイヴァゾフスキーなど、当時の錚々たる文人・芸術家とも交流があり、パリではヴィクトル・ユーゴーやフランツ・リストまで交友関係があったと書いてあります。
アイヴァゾフスキーの絵は、非常に有名なのでどこかでご覧になった方も多いと思います。例えばこちら。
なるほど映画『ユリア・ヴレフスカヤ』でもツルゲーネフやヴァレシチャーギンもお友達で、フランスに行ってはヴィクトル・ユーゴーとも知己を得たというのは史実の通りです。
それどころか、映画として製作するために他の著名人を割愛したと思われます。もしかしたら映画では背景に写るあの人はフランツ・リストだ、みたいなことになっているかもしれません。アイヴァゾフスキーを登場させようとすると、彼の絵画に触れざるを得ず、それだけで映画の上映時間が30分は伸びることでしょう。
ヴァレシチャーギン
ちなみにヴレフスカヤの友人であったヴァレシチャーギンは戦場をテーマとした作品を残した作家で、なんと「日露戦争で取材のため乗っていた戦艦が沈没し死去。」(ウィキペディアより引用)だそうです。いろいろと浅からぬ縁がありますね。日本とも。
あまり詳しくないので、この点についてはここまでとします。
朗読『ユリア・ヴレフスカヤの記憶』
上記のようなわけで改めて「ユリア・ヴレフスカヤ」の人物像を知った上で、ツルゲーネフが友を悼んで読んだ詩の朗読をリンクいたします。
今後『ユリア・ヴレフスカヤ』の映画を見る時の背景知識としても、勉強になりました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
コメントなど頂けますと嬉しいです。よろしくお願いいたします。