ロシア映画『鶴は翔んでゆく』鑑賞:The Criterion Collection版
2021年10月23日にツイッターで見かけて関心を持ちました。アメリカの会社で、各国の名作映画を復刻している「The Criterion Collection」にあるのを見つけて注文した『鶴は翔んでゆく』。
ようやく2021年11月18日に到着しまして、本日鑑賞してみました。
『鶴は翔んでゆく』
1957年に制作された映画。舞台は第2次世界大戦のソ連。日本での公開当時は『戦争と貞操』というタイトルだったようです。
日本語で韻を踏んでいますし、内容を踏まえたタイトルではありますが、あまりに直線的で、原題を訳した『鶴は翔んでゆく』の方が趣があって良いですね。
内容は重いです。第2次世界大戦に限らず、戦争映画の持つ宿命みたいなものですし。
監督:ミハイル・カラトーゾフ
ソ連時代だからこそ、というべきでしょうか。監督のミハイル・カラトーゾフはグルジア(当時:現在はジョージア)の首都トビリシの出身だそうです。
ジョージアと言えば、「百万本のバラ」のロシア語版の元ネタであるニコ・ピロスマニもここの出身ですね。
ジョージアはワインでも有名ですし、芸術や創造性をもった何かを生み出す土地柄なのでしょうか?
カラトーゾフ監督は当時のソ連らしく、スターリン施政下の検閲により批判され、長らく監督業から身を引くことを余儀なくされたと書かれていますが、ロシア語のウィキペディアでは、それでも監督としてクレジットされている作品が21作あるようです。
ちなみに、本作『鶴は翔んでゆく』が制作されたのはスターリン死後で、カンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したとのことですから、きっといろんなアネクドートが多数作られては語り継がれていたことと思います。
本作の山場はいくつも設けられている
全体で96分と、コンパクトな映画ながら、山場はあちこちにあります。
最初にヴェロニカとボリスが踊りながらデートを楽しむ場所、散水車のせいで水浸しになる場所は、その後、マークと一緒に歩くときは方向やイメージが全く異なる使われ方をしていますし、ヴェロニカをリスちゃんと呼んでいるのはなぜかなと思っていたら、ちゃんと小道具として出てきます。(このリスについては後述します。)
ヒロインのヴェロニカが看護師を務める野戦病院で、ある兵士が故郷から手紙を受け取り、この兵士が出兵している間に別な男性と結婚してしまったと書かれているのを読んで自暴自棄になった場面。
医師がその兵士をしかりつける場面。
そしてその内容にヴェロニカが追い込まれて出奔する場面。ここは言葉では表現しきれない思いがこもる。
ボリスがヴェロニカに贈ったリスのぬいぐるみ人形のかごから手紙が見つかった場面。
そして最後は再度、鶴が飛んで行くシーンで終わります。
良い映画でした。
名前と小道具としてのリス
ヒロインの名前はヴェロニカ(Veronika)。
ヴェロニカの恋人のボリスは、最初からヴェロニカのことを「белка」(リス:ビールカと聞こえます)と呼び、ヴェロニカの誕生日にはリスのぬいぐるみ人形を贈り物にします。
そしてリスが抱えているかごに手紙を忍ばせているのですが、このリスと手紙が物語を大きく動かす役目を果たしています。映画の作法としても、とても良くできていると思いました。
画質は?
この映画は、今回初めて入手して鑑賞しました。
DVDなどでレストア前の作品は見ておりませんし、白黒映画なので、比較した結果ではありませんが、全体を通して非常に美しく鑑賞することができました。
「新しく2Kデジタル・レストア(New 2K digital restoration)」と謡っているのは伊達ではないと思います。
主演:タチアナ・サモイロワ
ヒロインのヴェロニカを演じるのはタチアナ・サモイロワ。力強い目が非常に印象的な女優さんです。なんと誕生日と命日が同じでした。
どこかで見たことがあると思っていたのですが、『アンナ・カレーニナ』でも主演しています。
『鶴は翔んでゆく』や『アンナ・カレーニナ』で主演を務めるほどですので、その後にも多数の映画で活躍します。
日本語のウィキペディアではたった3つの映画しか紹介されていませんが、ロシア語のページを見ると、映画18編、テレビドラマ1編、ドキュメンタリーが2編はあるようです。
とても素晴らしい演技に魅了されたので、できる限り多くの作品を見てみたいと思いました。
ちなみに、『鶴は翔んでゆく』のロシア語のウィキペディアのページに面白い画像が掲載されていました。
なんとボリスとヴェロニカの絵をあしらい、監督のミハイル・カラトーゾフは切手の図柄になっているロシアの封筒の写真です。
Почтовый конверт с кадрами из кинофильма «Летят журавли»: Алексей Баталов в роли Бориса, Татьяна Самойлова в роли Вероники. Россия, 2003 г.
説明書きによれば2003年の封筒のようです。国家章もソ連ではなくてロシア郵便局(?でいいのかな?)名義で発行されているようです。
こういう封筒、なんかほしいな。さすがに入手が難しいでしょうけれども。
アンナ・カレーニナ
閑話休題。
タチアナ・サモイロワに話を戻しまして、次に見るべきは『アンナ・カレーニナ』でしょうか。『鶴は翔んでゆく』から10年後の1967年の映画。
下記のリンクには割と高い価格がついて表示されていますが、もう少しリーズナブルな価格でも入手できるようです。
ラベルが違いますが、こちらも映画としては同じ作品です。
また、アメリカのAmazonでは送料込みで40ドルちょっとで購入できますが、こちらはRUSCICOではないので、日本語字幕等はついていないです。
どれかは入手できますので、まずはこれを鑑賞してみることにしましょう。
(11/23追記)タチアナ・サモイロワの作品
日本語のウィキペディアでは、タチアナ・サモイロワの作品はたった3つしか記載されていませんが、ロシア語のページでは全部で18あります。
それらについて、DVD/Blu‐rayで入手できるものは本投稿にて扱っていますが、それ以外にYouTubeで閲覧できる作品もあります。
下記にそれらをまとめましたので、併せてご覧ください。
The Criterion Collectionは買い?
最初に見つけたとき、名作が復刻されているのは素晴らしい。しかもBlu-ray化にあたっては「新しく2Kデジタル・レストア」されています。
それで、前回の記事ではこのように書きました。
ブルーレイでレストアされている作品が3,000円程度で買えるなら、もう1セットくらい買っても良いかなと思いました。
上述したように、「新しく2Kデジタル・レストア(New 2K digital restoration)」の結果、全体を通しても美しく感じました。
また価格もこの値段なら、コスパに優れているとまでは言いませんが、妥当な値段かなと思います。
ただ、RUSCICO版ではこれでもかというぐらいについていた『戦争と平和』ですら、字幕の選択が英語一択ですし、『鶴は翔んでゆく』も同じメニュー画面、英語字幕一択です。
しかも、これが理由が良くわからないのですが、メニューでは「ON」と「OFF」が書かれているものの、「OFF」が選択できないという不思議な設定です。
これらから、次のような方なら買っても良いかと思います。
・画質はきれいな方が良い
・日本語字幕はなくても困らない
・上記二つをクリアし、他で入手できないのであれば、最期の選択肢
映画のDVDで版が古い場合、字幕のフォントもギャザーが入っていることも多いのですが、ブルーレイですとフォントもきれい(少なくともギャザーが入ったフォントで、全体のイメージにマイナスが少ない)ということもあります。でもまあ、この辺はお好みの範囲かと思います。
本日もご覧いただき、ありがとうございました。
コメントなどいただけますと、ありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします。