錆戦日誌7・とある雀荘2
「そもそも世界の不具合ってなんだよって話でさ」
未識別機動体はバグデータだと言われて、ハイそうですかとはいかない。それじゃあ俺たちもただの電子情報だということになる。世界が格納された筐体が壊れたら、夢も希望も過去も未来も、全てまとめて消える無意味な存在になってしまう。
4000年野郎には勝ったのに、とっくに世界は崩壊していましたじゃ笑い話にもならない。
「それに不具合があるってことはつまり、寝て起きたら海の上に裸で放り出されているかもしれないってことだろう」
「そりゃそうだが、心配しても仕方ねえしよ」
対面の傭兵は仲間とうなずきあった。それはそうだ。空が落ちてくる心配をするより、日銭の心配をするべきなんだ。それはわかっている、わかってはいるが。
「待つしかねえのさ、そういう時はな。今、お前がアガリ牌を待っているみてえにだ」
「なら動くしかないな、それロン」
対面の傭兵がうめく。渋々点を払いながら、あてはあるのかとささやいた。
「世界についての情報を握っているのは真紅だが、今の三大は巨大未識別への対処で大わらわだ。各地の不死人は何か知っている様子だが、絶対にそれを明かすことはしねえ」
そこでだ、とさらに声を潜める。
「ジャンクに興味はねえか」
上家と下家は素知らぬ顔で洗牌を始める。決めた、この雀荘には二度と来ない。
「お前の脛の傷跡は調べさせてもらった。元真紅所属だったことも」
「そういうお前自身は何か知っていて、俺を誘うんだろうな」
「俺じゃねえ。だが評議員クラスなら、おそらく」
「工場が摘発されたって聞いたぞ。まだやンのか」
「お前はまだ自前の機体を持っている。そうだろう」
調べたというのは本当らしい。だが、それが逆に気になった。
「どうして俺なんだ」
「俺たちは灰燼戦争を経験したテイマーを探している。テイマーになりてえだけのワナビーなら掃いて捨てるほどいるが、まず生き残れねえ」
財団は強いテイマー、強いグレムリンを求めている。しかしそれを一から育てるには時間が足りねえ、と傭兵は言う。
「俺はあの戦場を覚えている。お前はどうだ」
「二度とごめんだ」
「残念だ。気が変わったら連絡してくれ」
傭兵たちはそれぞれのグレイヴネットのアカウント名を書き残し、席を立った。
三大でも財団でも、鉄砲玉にされるのは同じだ。打つのは麻雀だけでいい。