「文体の舵をとれ」練習問題
道具の仕立てとそのモチベーションが相互に入れ替わりうることとか発見をするための手段としての緻密な計画と課題の見極めとかいろいろ考えてたけど、全部思い出せないのでとりあえずやってみます。
練習問題① 文はうきうきと
問一.一段落から1ページで声に出して読むための語りを書く。
問二.一段落くらいで動きの或る出来事、もしくは強烈な感情を抱いている人物を一人描写する。
(P32,33より趣旨抜粋)
ページをめくる。乾燥した手の上を滑っていく。コーヒーの染みが残る右端を押さえながら、また同じように文章の流れに沿って視線を動かす。
窓ガラス越しに夕暮れの日が、自分と遠くにある何か、それらとのありえたかもしれない逃避行について思い起こさせる。白い壁のところどころペンキが剥げたところ、ぼろぼろになった柵にまとわりついた蔓からは控えめな白から鮮烈な赤をした花が咲いている。
風が吹く。砂が舞う。まったくの夕暮れになってしまった世界から逃げるように、僕は本を閉じて家の中に戻った。
ブラインドを閉じ、湯を沸かす。隙間から漏れだす光が部屋を分割する。境界を行ったり来たりする微粒子の影に、湯気が混じり、僕の言葉になりかけた経験や感性も混じる。閉め切ること、区分すること、手の届く範囲に配置すること、そうした総合で僕が僕自身を僕とは違う形で僕を作り上げる。僕という僕は僕を離れて僕になる。花瓶の花が今こうして枯れているように。
(所感 2021.9.12)
うーんむずかしい…。物語を駆動させる仕組みを何らかのリズムとしたとき、そのリズムに乗れるか否かがこの練習問題で一つの大事なポイントかなと思ったけど、果たして乗れているのか否かを自己判断するのが難しい…。
ヒントとして「楽しんで書いて欲しい」とあったので、書きながら書かれた文章のリズムを探って続きを書かせるような、何も決めずに自由にバーッと書いてみたけど、よかったのだろうか…。まあ、楽しかったのでよしとする。笑
練習問題② ジョゼ・サラマーゴのつもりで
一段落から一ページで、句読点の無い語りを執筆する。(段落などほかの区切りも使用禁止。)
(P49より、趣旨抜粋)
ひっくり返った漸近する曇り空に沿って人々の声が聞こえる街頭の窓から身をのりだす人発煙筒を掲げる人旗を振り先導する人拡声器を脇に抱えマイクに向かって怒鳴りつける人窓に飾られた花や通りに規則的に並ぶ花壇と植林までもが行進に参加しているようで広場に集まった人や人以外のものたちは群衆としてのふるまいを見せているどうしてと嘆く男が一人脇のベンチで横たわる少年を守るように抱えながら座り込んでいる少年の頭部か椿が咲いたように開かれている滴り落ちる脳髄は男の手を伝って後進の熱気に踏みつけられながらたくさんの足跡を残してすぐそばの排水溝へ流れている男の顔には7歳のころ喧嘩してできた古傷が見え膝には13歳のころ自転車で坂道を猛スピードで下る向こう知らずな年頃の特権的遊びで派手に転んだときの跡そして彼の頭の中で反芻される妻をみとったときの彼女の最期の顔この子が人生のすべてだったその言葉には振り返ってみても何の嘘もなかったしかし依然としてまだ続く自らの悲しみがいまだこの世に存在し続けるある一つのものとして把握されそれ故彼には立ち上がるときには別人となっている
(所感 2021.9.18)
難しいね!(それしか言ってない)
名詞で終わる文が連続して続くところは句読点の無さゆえの意味の取りづらさが幾分か和らいでいるされているように思う。これは少し発見。
(所感 2021.9.20)
ありがたいことにtwitterで感想いただいております……。感謝……!
句読点を消すことにより普段使いの文章のリズムと差異ができ、その下地により登場してくる男の悲しみだったり無念さだったり、いろいろないまぜになった感情がぐっと強調されているような気がしてきた。
ただ、句読点を除いた時の文章のリズムの変化が具体的にどのような効果を生み出しているのか、書いている内容とどのように相互に影響を及ぼすのかはよく整理しておきたい。次に作品書くとき使いたいし……。
練習問題③ 長短どちらも
問一:一段落の語りを、15字前後の文を並べて執筆する。
(P73 要旨抜粋)
もう一時間近く経つ。まだ収まる気配はない。
家を出る時間はとっくに過ぎた。腕時計は昨日調整した。何度も確認するが、時計が狂っていることはない。
脂汗が額と手の平ににじむ。燃える手紙のように徐々に視界が暗くなる。
くそっ、昨日何か傷んだものでも食べたか?さっきから同じ問いかけばかり繰り返す。もしそうだとしたら、同じものを食べたアイツは何で平気なんだ?これも問いかけと同じ回数だけ繰り返される。当然答えは出ない。
爆発寸前の風船でも入っているようだ。もう出るもんは何もないぞ。それでも透明な液体は出てくる。それが何なのかさえ分からない。当然糞ではない。
大丈夫?妻がトイレから生還した夫に声をかけた。
全然大丈夫じゃない。そう言いたかったが腹の痛みで声もでない。何とか首を横に振った。彼は会社用の携帯を何とか手に取り、上司に伝えた。
「スイマセン、腹が痛いので今日は休みます。熱はないです。」
問二:半~一ページの語りを、700字に達するまで一文で執筆する。
(P73 要旨抜粋)
旗をしまわないと、そう思って郵便受けの隣にある小さな収納スペースに突っ込むも全然入らなくて、中に玉ねぎと何らしかの工具やケースに分類されたねじが邪魔をしているので、それらをどかしている様子を通りすがりの山へ入る人たちに(彼らは決まって赤字のチェック柄のシャツとジーパン、カウボーイの被るような大きなハットをかぶっている)、旗とか持ってんの?とか、全然片づけられてないし、しかも玉ねぎだしとか、あれこれ言われながらもなんとか片づけて、恥ずかしい思いをしてしまったと家に戻り、手を洗って鏡を見た瞬間、突然視界がすりガラス越しに外の風景を見ているような風景に置き換えられてしまって、妻にどうしよう、視界がすりガラスになっちゃったんだけどとか要旨のつかめない訴えを少しのパニックと共に訴えたが、当然何言ってんの?みたいな反応しかなく、何とか手を取ってもらってティッシュをもらい目を拭うと、少しだけ前が見えるようになり、なんだ拭えばいいじゃんとここで少し冷静になったものの、それからどれだけ拭っても何にも良くならないので、左下の方の微かな視界だけを頼りに(当然えらくのけぞったような首の角度になる)、自分の部屋に戻ると、パソコンのディスプレイにメールの通知が数秒ごとに来ているのを見てしまい、うそ、トラブル?と思ってのけぞったまま椅子に座ってOUTLOOKを開くと、ちょうどウェブ会議が始まって、とっさに首の角度が異様であることの言い訳を二つ三つ考えてから、じゃあ、今週の定例会始めますねという声と共に自分の後ろを羊が歩いていったので、なんで今なんだよ邪魔だろ考えたらわかるだろとかぼやきながら、振り返って追い払おうとした瞬間、自分が寝ていたことに気が付いた。
(2021.9.20 所感)
実際先週むちゃくちゃおなかが痛くて、症状が出始めたときをネタに問一を、そのあと何度か寝れるぐらいまで痛みが治まって、横になってた時に見た夢をネタに問二を書いてみた。
問一の「大丈夫?」は、「不完全な断片分は使用不可」という条件とバッティングしている気がする。ただ、テーマ案の「緊迫・白熱した動きのある出来事」だったので、確かに緊迫はしていたし(白熱はしていないけども)、切迫した感じは出せたんじゃないだろうか。
問二は長文と言うことで、普段なら文を切ってしまうところを接続させることで、否応なく一つのまとまりとして読めてしまう効果があるんじゃないかと思い、無茶苦茶だった夢の語りを書いてみた。夢ってどれだけ支離滅裂なことが起きても何かしらの理屈をこねて無理やりそのときはなった櫛テルモので、そういう感じが出せないかなと思ったけれど、思った以上にうまくいってない気がする……。
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