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驟雨に流る2【記憶No.01】鈴の音1

2007年5月 大学生の朝。

寝覚めに鈴の転がる音がした。
小さな鈴がチリンと転がる音。

「また死者が出る」

起き抜けの働いてくれない頭で携帯を取り出し、母の携帯番号を指でなぞる。
通話ボタンを押す前に母からの着信画面に変わった。
ああ、死んだのか。

母も、聞いたのか。おそらくそれは数日前から。

夢の覚め際に、小さな鈴が鳴る。
チリン、と一度鳴って。チリンチリン、と転がるように音が小さくなって去っていく。
それが母と私が感じる、血族の誰かが死ぬ予兆だ。

そして。
死ぬ本人には、




「遅かったわね」

乱暴にハンドルを握る母が渋い顔をする。

ええ、勿論わざとですとも。
私を出禁にしている親戚宅の葬儀準備に、何故私にまで招集がかかるのかが分からないからです。

無言で助手席に座る私に、今回の故人を看取った母が最期の様子を語る。
死人は母の母…私の母方の祖母だった。
最後まで“家”を心配していた。早朝に見舞いに行った母に「アンタも家の事があるだろう。さっさと帰れ!」を怒鳴りつけたのが最後の言葉だった。いつも家の繁栄を第一に考えていた祖母らしい最期だ。

96歳と5カ月。充分生きたでしょう?
そんな風に思ってしまう私は薄情なのだろうか。
涙を堪えながら運転する母を横目に、ぼんやりと子どもの頃から何も変わらない田園風景を眺める。涙一つ流れない自分に罪悪感すら沸いてこないのは、別居していた祖母だったからなのか。それとも、私が母の実家から理由もなく嫌われてきたからか。

母の実家は、この町一番の大きな農家だ。お堅い職業の方々を輩出し、教育・お役所関連にも顔が効く、典型的な田舎の旧家といったところか。

「きっと、自分の最期を悟っていたんだと思う。だって…」

「数日前からネズミの声を聞いたってうわごとみたいに言ってたもの」

去り行く者が夢の覚め際に聴くのはネズミの鳴き声。



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