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運転免許試験場での光景

若かりし頃、自動二輪運転免許証には “自二は中型に限る” と、そんな事が記されていました。
この限定を消し去る唯一の方法は、県の免許試験場へ行って実技試験を受けて合格する。それしかありませんでした。
日頃は怠け者でいい加減な若者も、こういう事だけは熱心に打ち込むわけです。
思えば40数年前の運転免許試験場には、二輪の世界の独特な光景が繰り広げられておりました。

二輪免許の限定解除試験がとても難しいということは誰もが知るところでして、試験場へ行くといつもの顔ぶれが試験の順番を待っています。
もちろん、お互いに知らない者同士なので最初は挨拶もしませんが、
限定解除という同じ目的を持つ者同士が受験の度に顔を合わせるので、いつの間にやら顔見知りになっていたります。

こんな人もいました。
千葉県の免許試験場なので、顔見知りになったその人はてっきり千葉の人なのだと思っていたら、都内在住の人でした。
東京の限定解除試験はとても厳しく、20回・30回受験をするのは全然珍しくないのだそうです。
で、その人は少ない回数で合格できる千葉に住民票を移動して千葉で受験しているのだと。
確かにね、千葉なら早い人は数回、多い人でも10数回通っていれば合格してましたから。

受験票を持って試験コースの脇で順番を待っていると、少し離れてはいますが、自分の前の順番の人達が試験を受けている様子が見えていました。
順番待ちのメンバーはその様子をじっと見つめています。
試験の状況が動くと、
『あ~ ダメか』 とか
『あー、もう少しもう少し・・・』 とか
『やっちゃった』
と言う言葉が思わず口を突いて出てきます。
自分が受験しているかのような気分になるんでしょうね。

試験官は乗用車でバイクの後からついて走り、車の中から走行の様子を見て採点をしています。
ですので、受験している人は試験コースを最後まで完走すると、試験官の乗る車の横へ行って試験官から試験の結果を聞き、その場で合否がわかります。
コースを完走しなければ無論合格ではありません。完走したからと言っても即合格ではないところがこの試験です、

落ちた人は、黙って試験官の話を聞き、お礼だけ言ってコースを離れます。
その様子を見ている順番待ちの人達にも『落ちた』ということはすぐにわかります。
『えー?あれでダメなの?何がいけないんだ?』
と気になって仕方ありません。
しかし、合格者が現れると雰囲気は一変します。
受験者は試験官の乗る車の横で思わずガッツポーズをしたり、急に笑顔になって天を仰いだりバンザイしたりします。
当然、順番待ちの人達もこの様子を見ているので、『おー、やったぁぁ』という太い声が響くわけです。

なんだかそんな時代が懐かしいなと思います。
今思うと、あの頃のバイク乗り達はバイクに夢中で一生懸命でしたね。
損得とか関係なしに、ただただ自分が乗りたいバイクに乗るという、ただそれだけのために時間もお金も惜しまず、5回でも10回でも諦めずに免許試験場へ通っていたんです。

昔のことばかり、いつまでも懐かしがっているのもどうかと思いますし、これから先の未来を考えなきゃいけないのはその通りです。
でも、あの当時の若者のバイクに対する熱意とか思いとか純粋さ、失くしたくないし忘れたくないなと思うことは許して欲しいなって思います。


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