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[エッセイ]バイク人生

僕が社会人になったのは
日本の誰もが知る某有名大手企業に入社した時でした
真面目に努めてさえいれば
将来には何の不安もなく
福利厚生も充実した
良い会社であったことに間違いはありませんでした
でも、2年、3年と経つうちに
これって、自分の人生じゃない・・・
そう思うようになりました

単純に計算すれば、人生の3/1を職場で過ごすわけです
しかも会社の寮に住んでいたこともあって
大袈裟な言い方をすれば
休みの日に外出する以外は会社または会社の寮にいるわけなので
会社のために生活してるんじゃないかとさえ思えたりもしました

会社のために生きようなんて少しも思ってはいなかったこともあって
バイクと共に生きることこそ自分の人生だと思い
有名大手企業のレールに乗った人生を捨ててバイクで生きることを決心
そして夢を見た僕は独立を果たします

しかし世の中は夢だけでどうにかなるような甘いものではなく
独立後は大きな借金を抱えてバイクを離れるしかなくなりました
皮肉なもので
大好き過ぎたバイクの道に進んだためにバイクを降りるしかなくなった
それが30才の時のことです

バイクに乗れることを心底嬉しいと思う

それからの32年
バイクには一切触れることもなく
バイクとは無縁の生活を送っていました
そりゃぁそうです
好きなことをして勝手なことをして
本来の安定した生活を失ったわけですから
経済的に不安のない生活ができるようにするために
真面目なサラリーマンとして世間並に収入を得ることのできる
仕事を最優先することになったわけです
自分の望んだ人生を封印していたのです

自慢するつもりは毛頭ありません
外資系企業で働くようになり
IT関連の仕事をするようになりました
給料も平均的な日本の企業よりは高ったので
借金の返済などもして
40代後半くらいからは安定した生活が送れるようになりました

他人からは
外資系IT企業なんて凄いなぁ
高給取りで羨ましい
カッコイイ仕事なんだろうなぁ
英語で仕事するなんて凄い
そんな風に思われがちですが
僕にはどれもこれもどうでも良いことなんです
生活を守るためだけに
自分が本来進みたかった人生設計とはほど遠い仕事でしたし
望んだような生活ぶりでもありませんでしたから
そうです
そこにはバイクの匂いさえなかったということです

62才、やっと中古のバイクを購入し
栃木県の某ショップへバイクを受け取りに行き
そこから自宅まで自分で運転して帰ってきました
心底嬉しかったです
多分、この感覚は普通の人にはわからないのでしょう
バイクに乗っているということはもちろん嬉しいのですが
本当に嬉しかったのは
目指した人生の形とは少し違うけれど
生活の中にバイクがあるということが
元々の、本来自分にあるはずだった人生の形であり
自分の生き方をそこに戻すことができた
これが何よりの喜びでした
大袈裟な言い方かもしれませんが
人生を取り戻した
そう思えたのです

愛車を分解して
掃除も調整も部品交換やオイル交換も
手や服を油まみれにして自分でやる
寒かろうが暑かろうが
バイクに乗りバイクと共に過ごす
道具としてのバイクではなく
相棒としてのバイクがそこにある
それだけで人生はまるで違ったものになるのです

ネクタイを締めて颯爽とオフィス街を歩き
パソコンやスマホを駆使して外国人相手にビジネスをする
僕はそんな柄ではまったくないし興味もありません
黒くなった油にまみれてバイクを整備し
汚くてやかましいバイクに乗る方が性に合っています

綺麗でおしゃれなレストランで食事をするより
景色の良い山の上の駐車場にバイクを停めて
地べたに座って食べるおにぎりの方が似合っています

休日はゴルフやリゾートホテルで過ごすよりも
アスファルトの上でバイクと路面とで格闘する休日の方が
自分の人生の一コマに相応しいのです

オシャレなブランドの服を着て
流行の靴に少し高級な腕時計
それらのどれも、僕にはどうでも良いのです
それよりも
プロテクターの入ったジャケットにプロテクター入りのパンツ
バイクならではの変な恰好の方が僕にはお似合いだし
必要な服装です

そういう意味では
バイクは趣味の範囲を超えて
僕の人生の本来の姿に近づくことができた
人生を取り戻すことができたと
そういうことなのです

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