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【公開SEL勉強会】実践校に学ぶ! 学校に対話文化を取り入れ、先生の学び方を変えた

rokuyouは、SELを広げていくために、共に考え、実践し、共有し、学び合い、時には一緒に取り組めるような仲間をつくるために「学びの場」作りが必要だと考えて、「SEL勉強会」を開催しています。

今回は、ゲストに埼玉県戸田市立美女木(びじょぎ)小学校 教頭 勝俣武俊先生をお招きして実施したSEL勉強会の様子をお届けします。rokuyouでは、様々な学校の取り組みに伴走させていただいています。その中で、授業づくりだけでなく、学校の全体性を捉えた上で、どうより良い学校を作っていくのかが重要だと考えています。美女木小学校では、 SELの取り組みだけではなく、SELが歯車の一つになって、よりよい学校づくりが実現されています。

2023年3月には美女木小学校をrokuyouメンバーが訪問し、実際のお取り組みを目の当たりにして、とても感銘を受けました。私たち自身、もっとお話をお聞きしたいと感じ、さらにそこでの学びを多くの方にシェアしたいと思い、勉強会を設定しました。では、勝俣先生によりよい学校づくりをどう進めていったのかうかがっていきましょう。

▼ゲスト
勝俣 武俊(かつまた たけとし)
○埼玉県戸田市立美女木小学校
○教員歴19年、教頭になり3年
○静岡県富士市出身
・2019 New Education Expo 登壇 (株)日本マイクロソフト社
・2019 Hero Makers 参加 経済産業省「未来の教室」実証事業
・2019 10月 アイディアハッカソン3位入賞

■「学ぶことが楽しい」と感じる教員研修

本校の研修は、「学びたいことを学びたい人から、学びたいように学ぶ研修」を掲げて実施しています。年3回は、それぞれの教員が学んでいることを他の教員に共有する「シェアタイム」を設けて、笑いが絶えない学びの場になっています。詳しくは、美女木小学校のinstagramのリールに載せているので、検索してみてください。

私は3年前までは、「研修の目的とは先生の教育観をアップデートさせることだ」と思っていました。具体的にいうと、子どもとフラットな関係性を築ける教員を育成し、よき伴走者になれるようにしていく必要があると考えていたのです。​​ シンプルにいうと、全教員に「子どもってすごい」という感覚を持って、授業や教室の学級経営をしてほしいという思いがありました。

しかし、現在、私の中の研修の目的は大きく変わっています。研修での学びの目的は、「先生が元気になることだ」と思うようになったのです。そして、学びの楽しさを実感して元気になった先生が増えていけば、学校が一気に変わると確信しています。だからこそ、研修内容を大きく見直したのです。

■研修を変えた背景

実のところ、以前の私は3つの理由から研修がとても苦手でした。1つ目の理由は、研修のテーマが自身の関心とミスマッチのケースがあることです。一般的には、学校ごとに1つの研究テーマに絞って取り組みます。そのテーマが興味があるものであれば、熱心に取り組めるのですが、中には全く興味を持てないものもある。その場合には、やる気が起きませんでした。研修テーマに関心が持てない時には、自分ごととして学べず、最低限の時間で終わらせようという姿勢で臨んでしまうものです。正直、このあり方はマズイなと思っていました。

2つ目が、研修の指導者の語る内容に納得いかない経験があったことです。研修指導者は教育委員会や校長先生のつながりで指導に来られるケースが多いのですが、批評やアドバイスが全く腑に落ちなかったことがあったんです。こうした経験から、単に研修指導者を呼んだだけの研修に対して、懐疑的な思いを抱いていたのです。

3つ目は、職員室での関係性が研修に与える影響が気になっていました。私は、7、8年前にPBLの研修主任を担っていたことがありました。その際に、楽しく学べている先生とそうではない先生との分断が生まれてしまったことがあったんです。さらには、学習を引っ張ってくれている先生に向けて「調子に乗っている」「何を勝手にやっているんだ」といった不満も生じていました。一生懸命取り組んでいる先生方に負の感情が向けられる……こうした状況を目の当たりにして、「この研修の仕方はマズイ」と強い危機感を抱くようになりました。

この3つの引っ掛かりから、私はしばらくの間、モヤモヤと悩んでいました。しかし、素敵な方々との出会いがあり、 新たな研修への道が拓かれていきました。まずは、システム思考教育家の福谷彰鴻さんがおっしゃっていた「人は変わることを恐れるのではない、人に変えられることを恐れるのだ」という言葉を聞き、学校での研修の考え方が大きく変わりました。

​​そして、NPO法人SOMA代表理事の瀬戸昌宣さんとの出会いも研修を変える大きな後押しとなりました。瀬戸さんは、「人は変えられないんですよ。僕がやってるのは、人の育つ環境を整えることです」と話してくださいました。

お二方の言葉を聞いた時に、これまでの研修をかえりみて、「私は何をやっていたのだろう……」と情けなくなりました。与えられるのではなく、自分の手で先生たちが学びをつかみ取っていく。堅苦しく勉強するのではなく、先生たちが自分の興味のあることをのびのびと楽しみながら学ぶ。そんな環境を整えていこうと考えて、研修を作り直したのです。

■研修概要

こうした背景から、美女木小学校は研修の柱を大きく2つ設定しました。一つは、対話による関係性の質の向上です。そして、もう一つが先ほどからお伝えしている、先生たちが「学びたいことを、学びたい人から、学ぶ」という立て付けにすることです。それぞれについて解説します。

・対話による関係性の質の向上
「NPO法人学校の話をしよう」に伴走していただき、教員間での対話を促進しました。最初の1年目は頻繁に打ち合わせを行いましたが、全てが私にとっての学びになりました。

昨年度は、「どういう職員室を作りたいか」を教員みんなで考えていく中で、「ありのままでいられる職員室」というキーワードが浮かび上がりました。教員は、保護者や子ども、同僚、教育委員会などから「先生たるはこうあるべき」というイメージを持たれており、それが息苦しかったり居心地が悪かったりするものです。そんな状態では本来持っている力を十分には発揮できません。「弱みを見せてもいいし、辛い時は辛いと言ってもいい。でも、元気になったらまたみんなで踏み出そうよ」と安心できるような、そんな職員室をつくりたいと思うようになっていきました。

対話の場のなかで、一番のポイントとなるのは年度はじめの4月に行う会です。先生方が異動してきた早々に、対話の時間を設けているのです。この時間が本当に素晴らしく、一度体験をすると一緒に酸いも甘いも味わってきたような仲間であるような感覚を持つことができます。

・先生たちが学びたいことを学びたい人たちから学ぶ
先生方には、対話により教育観を深掘りしてもらいます。自分が何を大事にしたいかを明確にし、自分が学びたいコンテンツを選択していくのです。昨年度は、自由進度学習や哲学対話、SELなど様々なテーマに取り組んでいる先生方の姿が見られました。また、研究発表をオンラインで行ったので、動画による見せ方を学びたいという声もあり、プロから学ぶことができる機会も作りました。

■現在の研修に至るまでのプロセス

「対話」と「教員が自ら学びを選び取る」という研修の軸は、一足飛びに作られたわけではありません。下記の4つのポイントを意識しながら、一年間かけて現在の研修スタイルへと変わっていきました。

ポイント① 説明よりも体験
私から研修についてのビジョンや構想について、 先生方にきちんと説明したことはありません。「体験してもらった方がはやい」「やってさえくれれば、先生たちはわかってくれる」という感覚があったので、どんどん体験してもらうことを重視しました。

ポイント② 権限委譲
一般的に、研修は研修主任が外部指導者と、打ち合わせをして作り上げていきます。しかし、本校では権限委譲をして、その研修を行いたい人が事前準備を担うようにしています。そのため、研修主任の主な業務は予算の管理による全体のハンドリングとなり、スムーズな運営ができています。

ポイント③ メディアの活用
メディアで先生方の頑張りを見てもらい、認めてもらう仕組み作りをしています。 小学校はどこも頑張って取り組みをしていらっしゃると思いますが、その頑張りが学校の外にはなかなか伝わりにくい。それをメディアを通して発信していくことで、認めてもらう機会になり、元気になっていくことができます。メディアの活用は教育現場において、見落としがちなポイントかもしれませんね。

ポイント④ システム構築
個々の教員の学びが走っていると、バラバラになっていくようなイメージを持つかもしれません。それを、シェアタイムのような共有する場を土台として、周知を図っていけるようシステム化しています。

先生方からは、研修切り替え当初を振り返り、「これまでのやり方とあまりに違っていて、どこに向けて研修を進めていくのかがわからなかったし、不安でしかたなかった」という声がありました。ビジョンの話をせず、「大丈夫ですから」と言い続けていた1年でしたから、心配だった方も多かったかもしれません。一方で、「自分がやりたいことができるなんて楽しいじゃん!」と言い、どんどん取り組んでくださる先生もいました。

1年〜1年半経った頃には、先生方から「これまでは型にはめて考えすぎていた。変化に対して前向きに捉えていくことが大事だと思うようになった」「これまでは、子どもたちのために『やってあげなければいけない』と思っていた。しかし、今では子どもたちの『やってみたい』を応援したいと思うようになった」といった発言が聞かれるようになり、変化を実感していくこととなりました。

■参加者からの質問

下向 研修の2つの軸のうちの1つに関係性の質の向上を挙げており、先生方、ひいては生徒たちのありのままの内面性を大切に、尊重しながら学校づくりをしているのだと思いました。これはまさにSELの文脈と重なると感じます。先生たちの関係性の質の向上は、生徒たちの学びや、学校全体の雰囲気に、どのような影響を及ぼしていると捉えていますか?

勝俣先生 小学校現場では、「子どもに教えなければいけない」という既成概念が強すぎて、ともすれば先生が子どもの話を表面的に聞いてしまっているような場面に遭遇することがありました。しかし、先生方自身が自分の話を聞いてもらうという対話の体験を積み重ねることで、子どもたちに向き合ってよく話を聞けるようになったのではないかと感じます。表面的ではなく、その子どもの行動や言葉の背景まで掘り下げて理解しようとする。短絡的に「先生たちが変わった!」というと、うさんくさがられてしまうかもしれませんが、それくらい先生たちの表情と子どもたちの先生に対する目線に変化を感じたんです。もちろん、全教員に目に見える変化が起きているわけではないですし、100%変わったなどとは言えませんが、学校の雰囲気が柔らかくなったとはいえるのではないでしょうか。対話の文化やSELで、子どもの感情に目を向ける姿勢がじわじわと定着していっていると感じます。

参加者A 3年間の取り組みの中で、校長先生はどのように関わってくださっていましたか。また、校長先生が変わられた際に、2人目の校長先生とはどのように関係を築かれたのでしょうか。よい雰囲気をどう継続しているのか知りたいです。

勝俣先生 公立学校において、「校長先生問題」は大きなことですよね。本当に私は出会いに恵まれているのですが、教頭になり、校長室に行った際に「勝俣さん、楽しんでくれればいいから」と言われたんです。校長先生は私が赴任する前から学校を変えたいという思いを持っていらっしゃった。しかし、あまり手応えを得られなかったようなのです。そのタイミングで私が教頭となったので、校長先生も応援してくださっていました。2年間一緒に働かせていただき、今年4月に新たな校長先生が赴任されました。

新たな校長先生は、「美女木小学校はもっと正当な評価を受けるべきだ」とおっしゃって、研修に対してもとても理解してくださっています。 校長先生のその言葉にすごく元気づけられました。今年も先生方がのびのび学べるようにサポートしていきたいと思ってます。 

参加者B 先生たちがどう研修のテーマを選出しているのか知りたいです。

勝俣先生 私は、「先生方に素敵な大人に出会ってほしい」と思っています。学ぶ内容も大事ですが、その人自身から学ぶということも重要ですよね。最初の頃は、そんな思いを前提に、研修のアウトラインを示していました。しばらくすると、 先生方の中に「これを学びたい」というものが勝手に生まれていくようになりました。そのため、今では、先生たちが自然に自分でテーマを選ぶようになっています。

参加者C 先生たちが主体的に学ぶ機会を作りたいと思う一方で、中には「学びたくない」という思いを持っている先生もいるのではないかと思います。また、日々の業務や家庭の事情などで学んでいる余裕がない先生もいらっしゃいますよね。そうした先生方も認めていくような雰囲気があるのでしょうか。

勝俣先生 家庭の事情で早く帰らないとならないため、研修に関われないという先生もいらっしゃいます。そうした方には、「大丈夫ですよ」と伝えています。その代わり、シェアタイムで学びを共有させていただくようにしています。人にはそれぞれタイミングがあります。だから、ジョインできそうなタイミングでジョインしてくれればいいとゆったり構えています。

管理職の責任としてどうなのか、という疑問も抱かないわけではありませんが、「学べと言われた瞬間に人は学ばなくなる」ということも事実なので、葛藤しながらも待つ姿勢でいます。

下向 私はシェアタイムに呼んでいただいたことがあり、あの場の価値の大きさを感じました。学んで終わりではなく、自分たちの試行錯誤や挑戦してみたことを伝える場になっていますよね。シェアタイムで背中を押されている先生方も多いと思うので、この仕掛けは非常に重要だと思いました。また、他の先生の学びを聞くことで、最初は興味がなかったトピックに関して、新たな関心が広がっていくだろうとも感じました。

参加者 D 美女木小学校の学びのシステムはすごく理想的だと感じました。一方で、一教員である私にとって、学校システムには関わりづらさがあります。システムが構築されていく過程をもう少し詳しく聞きたいです。

勝俣先生 確かに、教頭だからシステム化に関われたということも大きいと思っています。おっしゃる通り一教員で取り組むにはハードルの高さもあるでしょう。そのため、重要なことは管理職を巻き込んで味方につけることです。例えば、先進事例校の見学を校長先生や教頭先生と一緒に行うということからはじめてはいかがでしょうか。その際、必ずしも、美女木小学校と同じ形を作る必要はないと思います。その学校にいらっしゃる先生の志や学びたいという意欲を大事にすることのほうが重要です。私も次の学校に赴任したら、そこに合った形を模索すると思います。「学びを通して先生たちを元気にする」という点さえブレなければ、学びのスタイルはどんなものでもいいと思うのです。

■おわりに

今回の記事では、ゲストに埼玉県美女木小学校 教頭 勝俣武俊先生をお招きして実施したSEL勉強会の様子をお届けしました。たくさんの質問が飛び交う、学びが多い時間となりました。

引き続きrokuyouでは日々教育に関わる皆様の学びの機会となるような場を設けていきます。そして、私たち自身も教育や子どもたちへの理解を深めていきたいと考えています。これからのSEL勉強会もお楽しみに!

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